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第199話 『洞窟世界に広がる夜空』



 ミューリに従って小さな穴を四つん這いになって進み続けると、やがて外に出る事ができた。


 出た場所も洞窟の中ではあるので、外という表現が正解かどうかは解らないけれど、とりあえず外に出れたのだ。やっとこれで、私のお尻が危険に晒されずに済む。


 私が出た後に、ルシエルがずりずりと出てきたので、ルシエルの頬っぺたを摘まみ上げた。


 ギュウウウウ……



「いはい、いはい、いはい!!」


「もう、こういう一方的な状況下で私のお尻を突いたりしない?」


「はひ、はひー」


「なんで、あんなに私のお尻を突いたの?」


「へ? だ、だってそこにあったから」


「登山家にどうして山に登るんですか? って聞いたら、そこに山があったから……みたいなノリで言うな!」



 ルシエルにペシリと突っ込む。



「ハハハ。ごめんごめん、ちょっとふざけただけだってー」



 っもう! ルシエルは本当にーー! その真っ白いすべすべの頬っぺたを、もっとお餅みたいに摘まんでいたかったけれども、今日のところはこの辺で許してあげた。しかし、続いてルキアがルシエルに襲い掛かった。



「っもーー!! ルシエルったら! こういう時に、ふざけたりしていると、いつか大変な事になったりするんだよ!」



 ポカポカとルシエルを叩いているが、ルシエルの方はマッサージ程度にしか思っていないみたいで、笑いながらルキアをあやしている。



「それで、ミューリ。穴は抜けたけど、次は何処に向かう……の?」



 先を行くミューリとファムの方を見た。すると次の瞬間、目を疑うような美しい光景が目に飛び込んできた。なんとも素晴らしい情景。


 そこは、ミューリやファム、ラコライさんやキョウシロウと初めて出会った、大洞窟の休憩所ロックブレイクがあった場所よりも、遥かに大きく広がる大空洞があった。


 そしてその天井には、澄み渡った夜空のように星々が空洞内を照らし出していて、その下にはとても大きな地底湖が広がっていた。本当に幻想的な光景。ノクタームエルドにこんな場所があったなんて。


 ルシエルもルキアもそれを見て、心を奪われている様子だった。


 ファムが、隣に来た。



「ここはね、ノクタームエルドでも旅人達の間でも特に有名なオススメスポットなんだ」


「有名……知らなかった。でもここが……確かに、素敵な場所。洞窟の中にこんな幻想的な場所があるなんて、想像もしなかった。でも、なぜこんな洞窟内の空洞に夜空が見えるの?」



 ファムは、にこっと微笑んだ。



「ここから見える天井部分は、ロックブレイクとかと同じく岩があるだけ。実は、夜空なんて見えてはいないんだ。ここは、ノクタームエルドに連なる山脈の内側なのだから」



 ファムのその言葉に、ルキアが首を傾げる。



「それじゃあ、ここから遠くまで見渡す事ができる位の、地底湖を照らす星空はいったいなんなんですか?」


「あれはね、発光石(ライティングストーン)って言ってその名の通り、暗闇で光を放つ石なんだ。それが天井の岩の中にいくつも含まれていて、まるで星空のようにこの空洞内を照らし出しているんだ」


「す、凄いですね! こんなものを見られるなんて」



 私は、はっとした。



「この素晴らしい世界を見せる為に、ミューリとファムは少し遠回りになるこっちの道に、案内してくれたんだね。ありがとう」


「ようやく気付いてくれたようだね。そう、ここは、絶対見ておいた方がいいスポットなんだ。それでね、もう一つ提案があるんだけど、時間があるんだったらここでキャンプしない。この場所は、冒険者や旅人の間で素敵なキャンプ地としても有名なんだよ」



 素敵なキャンプ地と聞いて、キャンパーの私がその申し出を断れるはずもなかった。私は、凄い勢いでルシエルとルキアの方を振り返る。二人は、にっこりと親指を立てて頷いた。フフフ、決定ね。



「イヤッホーーイ!! じゃあ、オレちょっと地底湖見てくるーー!!」


「こら! 待ちなさい!」



 猛ダッシュで、地底湖に向かおうとするルシエルを捕まえようとしたが、今回はうまくかわされた。凄いスピードで地底湖の方へ走って行く。まさに、爆走。その後を、カルビが走って追って行った。



「もう、ルシエルはーー。ここでキャンプするとは決めたものの、先にテントを張ったり焚火の準備をしなきゃでしょーが」


「まったくですよ! ルシエルはー!」



 ルシエルの行儀の悪さに、私とルキアがプンスカしているとそれを見て、ミューリとファムが笑った。


 さあ、今日はここでキャンプだ。早速、テントを設営する。


 周囲を見渡すと、丁度いい感じの拓けた場所があった。腰かけたり物を置いたり、調理したりもできそうな岩もある。



「ここにしようよ! いいよね?」


「はい! ここにしましょう!」


「はーーい!」


「解った、ここにしよう」



 ルキアにミューリ、そしてファム。それぞれ場所を決めて荷物を置くと、テントを立てて焚火の準備をした。地底湖に行ったルシエルが大声をあげて帰ってくる。



「うおおーーい!! すげーぞ!! 地底湖に魚がいるんだ!! あれ、なんとか捕まえて食べられないかなー?」



 ミューリが笑った。



「ふふーん、食べられるよー」


「ホントか!! じゃあ、食べたい! その為にはどうすればいい? ヒントをくれ!」


「こら、ルシエル! ちょっと落ち着いて」



 ミューリとファムは、それぞれ持って来た荷物を漁ると、私達の前にそれを取り出して見せた。ミューリが取り出したものは、水着。しかも、何着もある。ファムの方は、釣り竿だった。もともと、この姉妹は洞窟で採れる特殊なキノコを売買していたりしていたけど、こんなレジャー的なものも取り扱っていたとは――



「一応、皆の分の水着があるから、これに着替えようよ」



 ミューリが私とルキアに差し出した水着は、ほとんど紐の水着だった。ルシエルが笑い転げているのを横目に。流石にこれは着れないというと、ミューリは「間違えた。ごめんごめん」っと言ってまた別の水着を出して来た。ミューリはいったい何枚、水着を持っているのだろうかと不思議に思った。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ラコライ 種別:ヒューム

冒険者ギルドの関係者で、ロックブレイクに常駐している。ロックブレイクに立ち寄る冒険者達はラコライから直接、冒険者ギルドの依頼の受注や、依頼達成後の報酬の受け取りなどできる。若い頃は、ラコライ自身も冒険者として活動していたが今は、冒険者ギルドに雇われて仕事をしている。こっちの方が自分に合っていると早くから気づいた。


〇キョウシロウ 種別:ヒューム

アテナ一行がロックブレイクに立ち寄った時に知り合った東方の国の侍。アテナと仲良くなり、その時にロックブレイクに攻め寄せてきたアシッドスライムの群れを一緒に協力して討伐した。ヴァレスティナ公国に恩人がいるらしく、借りを返す為にその人のもとに向かっている。その人は、ノクタームエルドのドワーフの王国から近くにあるグライエント坑道にいるとの事だ。アテナ一行とはロックブレイクで別れるも、アテナ一行の目的地もドワーフの王国である為、また出会うかもしれない。


発光石(ライティングストーン) 種別:アイテム

ノクタームエルドの大洞窟では、ちょくちょく見かける特殊な石。光をキラキラと放ち、暗闇を照らす不思議な石。照明など用途もそれなりにあるらしく、これを採掘しにくる者もいる。


〇地底湖 種別:ロケーション

ミューリがアテナ一行を連れて行きたかった地底湖。特大で、これほどの大きさの地底湖は広大なノクタームエルドでもあまりない。水は冷たく、澄んでいる。

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