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第198話 『悪戯エルフ』 (▼アテナpart)




 ドワーフの王国に向かう道中の分かれ道、行動を共にしていたミューリが立ち止まって言った。


 右のルートを進めば、ドワーフの王国へ向かえる。でも、少し遠回りにはなるけどいい所があるから、そっちへ行ってみないかと。……いい所ってどんな所だろう。


 私達はドワーフの王国を目指してはいるものの、別段急いでいるという訳でもなく旅や冒険を楽しみたいと常日頃から思っているので、ミューリの面白そうな勧めに乗ってみた。


 洞窟は日が差し込まない、暗闇が延々と広がる世界。それがノクタームエルドと言う不思議な世界ではあるけれど、今はもう結構それに慣れてきてはいたし、旅が楽しくもなってきていた。


 ルシエルにルキアとカルビ、それにミューリとファムがいる。あーだこーだと会話しながら、仲良く旅するのはやっぱり楽しい。皆がいるから、楽しいし何処にいても安心できる。


 急に、先頭を行くミューリが立ち止まった。ファムが風の探知魔法(ウインドサーチ)の魔法を詠唱する。風の探知魔法(ウインドサーチ)は近くにいる者の位置などを察知する事ができるのだ。



「ファム。何か問題があった?」


「皆、気を付けて。ここへ複数の魔物が向かってきている」


「複数……さてはゴブリンだな」


「ルシエル、解るの?」


「ああ。なんとなくだけどな。邪気っていうのかな、なんとなく嫌な感じが近づいてくる気配はしているよ。来るぞ! 皆、戦闘準備だ、武器を構えろ!」



 ルキアがホルスターから、ナイフを抜くとその傍らにカルビが移動した。私も二振りの剣を抜いて前に出る。ミューリが得意の火属性魔法で辺りを照らしてくれているので、灯に気を取られずに両手が使えるのがありがたいと思った。



 ギャギャギャーーー!!



 洞窟の奥、暗闇から無数の武器を持ったゴブリン達が津波のように押し寄せて来た。ざっと見ても50匹位はいそうだった。でもあの大津波のようなアシッドスライムを見た後じゃ、それ程驚かない。



「燃え尽きろ! 《爆炎放射(フレイムバースト)》!!」


「斬り刻め! 《斬撃風(エアスラッシャー)》!!」



 ミューリの火炎魔法と、ファムの放った風の刃がゴブリン達を燃やし斬り刻む。



 ギャアアアアア!!



「私達もいくよ! ルシエル、ルキア、カルビ!!」


「おう!!」


「はい!!」


 ワオン!!



 ルキアに襲い掛かったゴブリンが、棍棒を振り上げるとその足にカルビが噛みついた。その隙を突いてルキアがナイフで攻撃。その横で、ルシエルが弓を構えて矢を連射する。たちどころに、その場でバタバタと倒れていくゴブリン達。


 私も1匹、2匹と剣で斬り倒す。するとゴブリン達のボスだと思われるホブゴブリンが姿を現した。ゴブリンの上位種で、極めて人間に近い体格と動きをする。手にはショートソード。



 ギャギャ!!



 ホブゴブリンは、ショートソードを私目がけて振って来た。ミューリとファムがこちらに気づき、手を出そうとしたので大丈夫だと叫んだ。


 ホブゴブリンの一撃を剣で受け流すと、一瞬距離ができた。その間を利用して、二振りの剣を鞘にしまう。そして構える。利き手を、鞘に納めた剣の柄にかけた所で、ホブゴブリンが雄叫びと共に斬りかかって来た。



「斬る!!」



 ――――閃光。



 私は瞬時にして、ホブゴブリン目がけて剣を横一文字に抜いた。


 この技は、【居合】といって師匠から教わった。鞘に納めた剣に手をかけて溜めを作る。そこから、ここぞという時に高速で剣を抜いて一刀のもとに敵を斬り倒す技。極めれば鉄をも切り裂く事ができる。因みに師匠には、それができた。


 ホブゴブリンは、腰の辺りから真っ二つになって上半身、下半身別々に転がって絶命した。


 ――チンッ


 剣を鞘に納め、周囲を見回すと至る所にゴブリン達が転がっていた。可愛い猫耳娘とワンコがこちらに駆けてくる。



「やりましたね、アテナ」


「そうね。怪我はない、皆!」



 ミューリとファムはにこりと笑い、ルシエルは「あったぼーーよーー」とでも言いそうな素振りで、親指をぐっと立てて見せた。


 確かにこのパーティーにゴブリン程度が挑んできたら、こうなるよね。チームワークも完璧だし、向かう所敵なしと思える。



「よし! 危険も取り除いたし、再び目的地へ目指そうか」



 ミューリが言った。皆も気を取り直し、ミューリの後をついて行く。私はミューリに、まだ知らぬ目的地の事を聞いてみた。



「それで、ミューリが私達を連れて行きたい所って何処なの? そろそろ教えてくれてもいいんじゃないの?」


「フフフフ。もう着くから。もう着くから焦らない焦らない。その方が、楽しみが倍増していいでしょ?」


「もうー、ミューリったら。じゃあ、ファムに聞いちゃおうかなー?」


「えーー!! ダメだよ、絶対聞かないでおいた方が感動するからさー」



 ファムが指をさして、言った。



「うん、着いたよ。ここだ」



 ――――行き止まり。洞窟の中、袋小路になっていた。これ以上は進めない。こんな場所に、ミューリは私達を連れて来たかったのだろうか?


 ミューリが、行き止まりになっている岩壁を触ると、四つん這いなった。え? これってどういう……



「アテナちゃん、こっちこっち!」



 手招きしながら四つん這いになって進むミューリの先を見ると、岩壁に穴があった。確かにその穴は四つん這いになるか、腹這いになってしか移動できなさそうなサイズだった。



「ほら、ミューリがそう言って先に行ってるんだからさ。オレ達も行ってみよう。行ってみりゃ、何が待ち受けているかすぐに解るさ」


「うーーん、そうね。まあ、ここまで来ちゃったしね」



 ルシエルの言葉に押され、私も四つん這いになって穴に入った。私がミューリの後を追い、その私の後をルシエル、ルキア、カルビ、ファムと続いていく形になった。


 岩穴の中を四つん這いになって進んでいると、急に後方からルシエルの笑い声がしてきた。



「アーーーッハッハッハッハ!! だーーみだってえ!! だーーみだってばあ!!」


「ん? どうしたの、ルシエル?」


「アッハッハ!! パンツ――、パンツーー!!」



 笑い声っていうか、もう爆笑している。



「パンツ? パンツがどうかしたの?」


「アテナ、パンツ丸見えだぞ!! ハッハッハッハ!! 可愛いお尻が丸見えだ!!」



 ――!!!!


 しまった! ルシエルを先頭に行かせればよかった! ルシエルがなぜ笑っていたか解っても、こんな岩穴の中で四つん這いになっている状態、どうしようもない。もう、どうしよう!! ルシエルがすぐ私の真後ろにまで迫ってきているのが解る。



「こらーー!! ルシエル!! そんな事やめてください!!」


「何言ってんだ、ルキアは? オレは何もしてないぞ。アテナが……ぶふふふ!! アテナがオレに一方的に尻を見せてくるんだってばよー!!」


「見してないっちゅーーに!! 見ないでよ!!」


「見せてくるんじゃん! ものっそい、見せてくるんじゃん!! アハハハハハ!! 何もしてないのに、オレの目の前にアテナのケツがあるんだよー!! こんな事ってあるか? アーッハッハッハ!!」



 まったく何が面白いのか!! ルシエルは、私のお尻が目の前にある事が相当ツボにハマったようで、笑うだけでは飽き足らず、私が自由に身動きできない事をいいことに、スカートをめくりあげたり、指でお尻を突ついてきたりしてくる。



「ちょ、ちょっと!! やめてよ!! 変な所、つつかないでよ!!」


「こら!! ルシエル!! アテナにそんなことしちゃダメですよ!!」


「ちげーって! 何もしてねーっし! オレ、何もしてねーーっし! ぶふふふふ!! おいおいおい、なんだこの尻ーーーい!! ハハハ」


「ミュ……ミューリ、もう少し急いでくれるかな? ルシエルがさ……」


「はいはいー、オッケー。ぷぷぷ……」



 ミューリをせかすと、ミューリも面白がっているのか進む速度が遅くなった。もう! こうなったら、ミューリにも少しでも私の気持ちを思い知らせてやるー!! って思ったけど、ルシエルのようにミューリのお尻に何かいたずらする勇気は、私には無かった。


 私はどうする事もできず、ルシエルに無防備なお尻を晒しつつ岩穴を前進した。その間、ルシエルにお尻を突かれては、悪魔のような笑い声が木霊し、更にその後方からルシエルを怒るルキアの声が岩穴の中を響き渡っていた。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

本作品の主人公。Aランク冒険者であり、クラインベルト王国第二王女でもある。二刀流の使い手で素手での格闘戦もお手の物、魔法まで使えるという。その反面、師匠にはユニークな戦い方をすると言われ、優しさや情にも厚く敵を前にして完全に非情になれない時が多々ある。冒険やグルメ、キャンプが大好きで色々と旅をしている。現在は、クラインベルト、ガンロックと周りノクタームエルドにやってきている。


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

Bランク冒険者。アテナの仲間。弓矢と精霊魔法の使い手で、弓に関してはかなりのもの。黄金長髪の綺麗な顔をしている為、いっけん彼女を見ると目を奪われる程の美女に見えるが、その実態は粗暴で調子乗りでいい加減。だけど、仲間思いで情には厚く勝負事にも厚くなりやすい体質。そんな彼女が、ピンチの時に駆けつけてくれると勇気が湧いてくる。


〇ルキア・オールヴィー 種別:獣人

Fランク冒険者。猫の獣人でアテナの仲間。エスカルテの街のギルマス、バーン・グラッドからもらった高価そうな短剣を武器として使う。まだ幼いが、しっかり者で真面目で優しい性格。アテナの事を実の姉のように慕い、いつもルシエルの暴走を止める為に目を光らせている。


〇カルビ 種別:魔物

子ウルフ。表向きはルシエルの使い魔だが、アテナの仲間。名付け親は、ルシエル。まだ子供なので、アテナ達の旅を続ける途中で体力が尽きる事もある。しかし、そんな時にはきまってルキアのザックの中へ入り込んでおぶってもらう。


〇ミューリ・ファニング 種別:ヒューム

ノクタームエルドを中心に活動する冒険者。赤髪のマッシュヘアが可愛い女の子で、ファムの姉。火属性魔法のスペシャリスト。ロックブレイクでアテナ達と知り合い仲良くなって、一緒にドワーフの王国へ向かうのに同行する。一人称は「僕」。人当たりが良く、何かあると笑ってあまり感情を表に出すタイプではない。


〇ファム・ファニング 種別:ヒューム

ノクタームエルドを中心に活動する冒険者。緑の髪のマッシュヘアが可愛い女の子で、ミューリの妹。風属性魔法のスペシャリスト。ロックブレイクでアテナ達と知り合い仲良くなって、一緒にドワーフの王国へ向かうのに同行する。一人称は「ファム」。人づきあいが苦手な感じがするが、意外と博識で自分の好きな分野になると途端に喋り出す。ミューリとは、姉妹ユニットで『ウインドファイア』と名乗っておりノクタームエルドでは、結構有名な冒険者でもある。かつては、もう一人いて『アース&ウインドファイア』と名乗っていた。


〇ゴブリン 種別:魔物

小鬼の魔物。人間の子供位のサイズだが、人間と同じように剣や槍、棍棒などの武器を使う。人を襲い、有利になると相手をいたぶるなど残虐性を持つ。群れでいる場合も多く、一斉に襲い掛かってくる。冒険者から最も多く討伐対象とされている魔物。


〇ホブゴブリン 種別:魔物

ゴブリンの上位種。より人間に近い体格を持つが、残忍さはさほど変わらない。むしろ、ゴブリンよりも頭が回るので群れにホブゴブリンがいると要注意。


風の探知魔法(ウインドサーチ) 種別:黒魔法

中位の風属性魔法。掌に風でできた球を発動する。それを見る事によって、近くにあるお宝や敵の場所の索敵、ダンジョン内でのマッピング等々できる、冒険者なら是非使えるようになりたい魔法。


爆炎放射(フレイムバースト) 種別:黒魔法

中位の火属性魔法。爆発させる魔法ではなく、手の平から爆発により発生する強烈な炎を放つ魔法。低位の魔物ならこの魔法で、こんがり焼ける。


斬撃風(エアスラッシャー) 種別:黒魔法

下位の、風属性魔法。ブーメラン状になった風の刃が対象を襲う。


〇居合 種別:剣術

アテナやヘリオス、キョウシロウの使用する技。剣を鞘に納めた所から瞬時に抜刀し、相手を一刀のもとに高速で両断する剣術。凄まじい抜刀術だが、発動するのにタメをつくらなければならない。

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