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第195話 『エミリアの予定』




 すでに二人で2キロ以上は、猪肉を食べていた。美味しい。


 また、こういった森の中で焚火を囲んで、肉を焼いて食べるというシチュエーションも、更に食欲を掻き立てているのだと思った。


 切り取った肉のほとんどを、ボクとエミリアの二人で食べきってしまった所で、やっとお腹が落ち着いた。エミリアが再び、食後の一服として紅茶を入れてくれる。


 その紅茶が入ったカップを口に付けて、ずずずと飲むと満たされた食欲と重なって、至福のひと時を感じた。あとは、このままゴロンと横になってひと眠りしたい。焚火の前に太めの薪を積んで、それに座っていたが、今にも弾けそうなお腹を抱えてドサッと仰向けに倒れこんだ。


 その状態でちらりと横を見ると、テントが設営されていた。だがそのテントは、ボクのものではない。だけど、このままあのテントに入り込んで、毛布に包まってひと眠りできたならばどんなに気持ちいいか。幸せだろうか。



「エミリア……君は、これからどうするんだい? 何か予定でもあるのかい?」


「そうだな。私は剣の修行を積むために、旅をしている身だからな。特に急いている訳でもないが、自分に課している使命はあるからな」


「うーーん。もっと解りやすく言ってくれないかな?」


「言うなれば、暇ではないが……暇だと言ってもいいかもしれないなと言う事だ」


「なんだ、それは? 哲学か? 哲学なのか? エミリアは哲学を語っているのか?」


「要は、目的はあるけど時間もあると言いたいのだ。だからとりあえずは、メルクト共和国にでも行ってみようかと思っている」


「はじめからそう言えばいいのに。メルクト共和国……ん? それって最近何処かで聞いたようなワード」



 メルクト、メルクト。メルクト共和国――――あれ?


 思い出した。メルクト共和国と言えば、テトラとセシリアが向かった国じゃないか。盗賊団『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』によって、国は崩壊していると言っていたが。


 テトラとセシリアは、クラインベルト王国に蔓延るその盗賊団を撃退して、メルクト共和国を救う為にそこへ旅立った。


 なるほど、その国へエミリアは行くというのか。何とも不可思議な展開になってきた。でも、別にエミリアがその国へ行ったからと言って、テトラやセシリアに会うという訳でもない。メルクト共和国は、クラインベルト王国同様に広大なのだ。



「メルクト共和国に、有名な剣術の道場があるそうなのだ。だから、とりあえずは腕試しに道場破りをしてみようかと思っている」


「そ……そうか。それはいいな。エミリアなら、やれる気がするよ。だけどメルクト共和国は、今は国自体が大変な事になっていると聞いたよ」


「なに⁉ 本当か? 何があったんだ?」



 エスカルテの街で聞いた現在のメルクト共和国の内情と、友人がその国を救う為に冒険者ギルドの者達と共にその国へ向かっている事を話した。



「『闇夜の群狼』か。確かにその盗賊団の名前は聞いた事があるぞ。とんでもなく規模の大きな盗賊団だった気がするな。なるほど、なるほど」



 何度も頷いているエミリア。



「よし! 決めた! やはり、私の次なる目的地はメルクト共和国だ。私もその国に行って、その悪の組織『闇夜の群狼』と戦う事にする。戦って成敗する。私は由緒正しき正義を貫くオラリオンの騎士として、戦ってその国を救うのだ!」


「救うだって? また唐突に……えーー。道場破りはもういいのかい?」


「勿論、道場破りもする。だが、国も救う事に決めた。私は自分の剣が何処まで通用するか試したいんだ」



 女剣士が剣ひとつで、どうこうできる問題ではないと思うが――そんな事を思ったが口に出さずに呑み込んだ。エミリアはきっと、自分の一番信頼できる剣で色々な事に何処まで挑戦できるかという事が知りたいのだろう。ボクの生まれ育った魔導都市マギアポリスでもそういう魔導士はいたから解る。つまり、それは自分自身の価値や何者であるかを知る事に繋がるだろう。



「マリンは、これからどうするのだ? 何もなければ、私と一緒にこないか? マリンとは気も合いそうだし、仲間にウィザードがいると心強い。それに、キャンプの事も色々と教えてもらえそうだしな。どうだ?」



 ボクは申し訳ない感じで、目線を落とす。



「残念だけど、ボクにも目的があるんだよ。今、そのメルクト共和国を救う為に旅立った友人から託された事があるんだ。だから、一緒にはいけない」


「そ、そうか」



 エミリアは解りやすく肩を落として言った。今、ボクに目的がなければエミリアと一緒に旅をできたかもしれない。だが、そもそも目的がなければ、ボクはテトラやセシリアとメルクト共和国に向かっていたかもしれないのだ。つまりそう言った事をいくら考えても栓無き事なので、それ以上は考えるのを止めた。



「因みにマリンは、何処へ向かっているんだ? そこへは、もう向かうのか?」



 色々と畳みかける様に聞いてくるエミリア。寂しいのだろうか。ボクが魔導都市マギアポリスを旅立った後、最初に欲しいなと思ったものは一緒に笑い合えるような気を許せる仲間だった。だから、寂しいという気持ちはよく解る。その証拠に、ボクもすでにエミリアとの別れを惜しんでいる。



「ノクタームエルドへ向かっている。でも今日は、もうお腹もいっぱいで動くのもしんどいし、できれば明日の朝にでも出発できればと思っているよ」


「そうか。じゃあ、私も出発は明日の朝にしよう。だから、今日は一緒にここでキャンプをしようじゃないか。テントも二人なら十分に使える大きさだしな」


「ありがとう、エミリア。実は、読んだ本のキャンプ知識はあるけれど、テントなどキャンプ道具を持ってはいないんだ。だから、助かったよ」


「こちらこそだ。色々と教えてくれて感謝している」



 エミリアと握手をした。その後、もうしばらく雑談を続けて眠くなってくると、エミリアと一緒にテントへ入った。


 テントに入ってからも、エミリアは何か喋っていたが、ボクの意識はもう半分夢の中で、エミリアが何を言っているのか解らなくなっていた。

 






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇道場破り

このアテナ一行やテトラたち、マリンが冒険するヨルメニア大陸にはいくつもの剣術や槍術などの武術があり、流派がある。大きな流派に至っては、看板を掲げて道場を開いている流派もある。強くなりたい者は、有名な道場に入会し武術を習う。しかし、エミリアのように弟子入りせずに、道場そのものに挑戦し打ち破って名声と腕をあげようとする者もいる。文字通り、腕試し。

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