表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

193/1345

第193話 『くっころ』




 ボクは、再び起き上がりビッグボア目がけて水属性魔法を詠唱した。



「いい度胸じゃないか!! このボクに、体当たりして木に叩きつけるなんてさ。言っておくがボクは、やられたらやり返すよ!! 《水蛇の一撃(ハイドロプレッシャー)》!!」



 両手を合わせるとそこへ魔力を集め、詠唱と共に敵に向けて翳す。すると、掌に水が湧き出るように集まる。大量の水がビッグボア目がけて放出された。水は直撃し、ビッグボアの巨体を吹き飛ばし森の木に叩きつけた。バキバキっという音と共に、木が倒れる。



「どうだい、お返しだ!」



 ブッギイイイイイ!!



 吹っ飛んだビッグボアは、怒りに身体を振るわせて起き上がった。なかなか、この個体はその中でも強い方なんだろう。ダメージはあるようだが、ボクの水蛇の一撃(ハイドロプレッシャー)を正面から受けてすぐ攻撃態勢に転じられるというのは凄い。



「魔法使い殿! ご助力、痛み入る!!」


「ほう、女剣士殿も喋られる元気はあったか。怪我はないかい?」


「ああ、この位の攻撃……心配ご無用だ」



 金髪の女剣士は、にこりと爽やかに笑ってそう答えた。美しく黄金に輝くその長い髪は、後ろでポニーテールにして結ってはいたが、膝の辺りまであった。見とれる程の綺麗で、長い髪。そして顔や肘、脇腹などに傷を負っているようだが、笑みを浮かべた表情を見ると本当にまだまだ余力があるといった感じで元気そうだった。あんなデカイ猪の魔物の突進を真正面から喰らっておいてこれなのだから、かなりの打たれ強さも伺える。タフさにおいては、テトラ並みだろうか、それ以上。

 

 女剣士は、再び剣を構えた。



「あの魔物に魔法使い殿の一撃が効いている。今こそが好機到来だと見た!! 決着を付けてやるぞ!!」


「お、おい、君!」



 呼び止めようとした時にはもう、女剣士はビッグボア目がけて走り出していた。――跳躍。



「ちょ、ちょっと待ってくれないか。君一人じゃ、きっとその魔物には……」


「これでも喰らうがいい!! 伝家の宝刀、雷鳴剣(らいめいけん)だ!!」



 ――――女剣士が『雷鳴剣(らいめいけん)』と発すると、振りかぶったその剣がバリバリと稲光を纏い、雷を帯びた。女剣士はその剣を勢いよくビッグボアの身体に突き刺した。感電。



 ブギャアアアアアア!!



 苦しみ暴れる巨体の魔物。もしかしたら、これで留められないかもしれないと思ったボクは、駄目押しの魔法を唱えた。



「女剣士殿! その剣を突き刺したまま、手を放し離れるんだ!」


「へ?」


「クリエイトウォーター!!」



 水を生成する魔法。翳した手から、ビッグボアに向けて水が放水された。大量の水を浴びたビッグボアは、女剣士が突き刺した雷鳴剣と合わさって更に感電した。女剣士は……


 え? うそ!! 逃げ遅れてビッグボアと一緒にビリビリしている。女剣士とビッグボアの悲鳴が辺りに鳴り響いた。



「ぎゃああああ!!」



 ブギイイイイイイイ!!



 電撃がビッグボアと、逃げ遅れた女剣士を焦がした。


 ボクは慌てて女剣士に駆け寄って、水属性の回復魔法水の癒し魔法(アクアヒール)で傷と焦げを癒した。もちろん、女剣士はボクの攻撃に巻き込まれてプンプンに怒っている様子だった。



「くっ! 殺せーー!」


「ごめんよ。君のその剣だけでは、この巨大なビッグボアを仕留めきれないかもしれないと思ったんだ。本当に申し訳ない。今、傷を癒すからちょっとじっとしてくれ」


「くっ! 私がもっと強ければ、自分の雷鳴剣で感電して焦げると言う、情けない事態にもならずに済んだろうに。うう……醜態を晒してしまった。く……くっころ……」


「そんな簡単に、自分を殺せとか言うものではないと思うよ。それにボク達はこの強力な魔物に勝利したのだから、誇る事はあっても嘆く事なんてないのではないかな?」


「……誇る? 私は誇っていいのか?」



 頷いて見せると、女剣士は涙を拭いてスクっと立ち上がり握手を求めた。なんだろう、この目にも止まらない程の気持ちの切り替える速さ。



「エミリア・クライムネルだ。オラリオンナイトの一員となるべき為に、剣の修行を重ね旅をしている者だ」


「ほう、剣士殿では無く、騎士殿であったのか。ボクは、マリン・レイノルズ。一応これでも冒険者だよ。見ての通り、水系魔法が得意なだけの何の変哲もない一般的なウィザードだ」



 ぐぐーーーーーーっ



 お互いの挨拶が終わった所で、お互いの腹が鳴った。



「良ければこのビッグボアで飯にしないか? この近くに私のキャンプがあるのだが……」


「それは、いい考えだ。丁度ボクもお腹が減ってどうしようもなかった所だったんだ。よろしく頼むよ。だけど、これだけ大きいビッグボアをどうやって運ぼうか?」

 

「もったえないが、全ては食べきれないからな。必要なぶんだけ、切り取って持って行くとしよう」



 ビッグボアの解体作業に取り掛かった。解体と言っても、その巨大な身体の一部を食べる分だけ切り取るだけである。だけど、そういう作業に不慣れなボクは、ナイフ片手に頑張って作業したが20分程度で、疲れて動けなくなってしまった。


エミリアの方を見ると、彼女は大量の汗をかいているもののまだまだ体力があると言った感じで作業を続けている。まったくとんでもないスタミナ騎士だ。とんでもない、スタミナイトだ。スタミナイトって…………ぷぷ。



「どうした、何が可笑しい?  マリン・レイノルズ?」


「え? 別に……プププ」


「?」



 倒したビッグボアの肉を切り取っていると、森林ウルフが集まってきた。睨み付けると、何かを感じたのか必要以上に近づいては来なかった。



「よし! この位でいいだろうか」



 見ると、数十キロはありそうな肉を、エミリアは顔色一つ変えずにひょいと持ち上げた。特に肥っている訳でも筋肉質でもなさそうに見えるエミリアの身体。どちらかというと、スラっとしているので、どこにこんなパワーや肉を斬り出す作業の時のスタミナがあるのかと不思議に思った。



「じゃあ、スタミナイト……じゃなかった、騎士殿……君のキャンプに行こうか」


「ああ。こっちだ」



 ボク達がその場を離れると、森林ウルフの群れが変わり果てた姿で横たわるビッグボアに群がった。ちゃんと「待て!」ができるなんて、森林ウルフとはなかなか利口だと思った。よく見ると、子供も何匹か混ざっていたので、しっかり食べて強くなれよーって心の中で言った。


 エミリアのキャンプに着くと、すでにテントが張ってあり石と薪を組んで、焚火の準備がすでにされていた。ボクは、それを見てテトラとセシリアの事を再び思い出して、早くもあの二人に会いたくなった。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇エミリア・クライムネル 種別:ヒューム

騎士王国オラリオンの女剣士。オラリオンの【ナイト】を目指し、剣の修行を重ねている。口癖は、「くっころ」? 雷鳴剣という魔法の武器を所持している。


〇雷鳴剣 種別:武器

魔法の武器で、魔法剣ともいう。雷属性の効果があり、雷を放つ事もできる強力な剣。ちょっと、来々軒とかに言葉が似ている……ってどうでもいい事でした。てへ。


水蛇の一撃(ハイドロプレッシャー) 種別:黒魔法

中位の、水属性魔法。魔力で作り出した大量の水を掌から一気に放水する魔法。中位魔法だが、その中でもトップスクラスに位置する威力があり、目標を凄まじい水圧で押し潰す。


水の癒し魔法(アクアヒール) 種別:精霊魔法

中位の、水の精霊魔法。光り輝く、癒しの力を含んだ水を生成し対象の怪我を癒す。


〇ビッグボア 種類:魔物

猪の魔物。森に生息している事が多い。その肉は、とても美味しいが猪同様に豚よりも脂身が多い。焼いて食べてもいいけど、やっぱり野菜と一緒に鍋がいいかも。大きい個体もいて、気性は激しく冒険者でも狩るのに緊張する。


〇森林ウルフ 種別:魔物

狼の魔物。通常のウルフと違って、森林に生息している。ウルフは雑食だが、基本的に肉を喰う。森林ウルフも雑食で肉も喰らうのだが、通常種と違うところはキノコや山菜なども好んで食べるようで、その肉は弾力があってとても美味しいと噂されている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ