第191話 『ミリス・カーランド その2』
酒場に入ると、テーブルに着いて酒と料理を注文した。
アレアスが乾杯の音頭を取った。
「これで、俺達も上級ランクの冒険者だ。これからは、仕事の方ももうワンランクあげて行こうじゃないか!」
「おおー! その分、稼ぎも増えるしな!」
「そうね。私達3人力を合わせれば、不可能を可能にできるわ。これからも、協力して力を合わせていきましょう」
――――乾杯!!
注文した料理も続々と運ばれてくる。今日は、贅沢してもいい日。聖職者の私は、普段あまりお酒は飲まないのだけれど、今日は特別だと思って杯を重ねた。
アレアスとダルカンも上機嫌だったし、何より今日はその雰囲気を壊したくない。
酒場で飲んで食事を楽しんで数時間、流石に酔いが回ってしまった。
アレアスがふいに、私の方を見つめてきた。目を見ればわかるけど、アレアスもダルトンも酔っぱらっている。
「ミリス。お前は本当にいい女だよな」
「と、突然どうしたの?」
「見た目もスラっとしているし、美人だろ。性格もそれなりにいいと思うし」
「性格もそれなりにって、それどういう事よ! っもう!」
私はポカポカとアレアスを叩いた。アレアス、ダルカンが笑い声をあげる。
「っは! 俺もそう思っている。ミリスみたいな素敵な女性が俺達とパーティーを組んでくれて、本当に俺達は幸せだ。もしミリスが俺達と一緒にパーティーを組んでなくて、代わりにゴツイおっさんの【クレリック】や〚ウォーリアー〛系のドワーフと組んでいたかもしれんと考えると……本当に良かったと思うぞ。もしもそうなっていたら、どれだけこのパーティーがむさ苦しい事になっていたか」
幸せだと言って笑うダルカンにアレアスが、突っ込んだ。
「でも、ミリスを嫁にしようとは思わねーって前に言ってなかったっけ?」
「ちょっと、そんな事を言っていたの? それどういう事―⁉」
再び私は、ポカポカとダルカンを叩いた。「よせ!」っと嬉しそうな顔をしながら言うダルカン。すると、酔っぱらって足がもつれてしまい、そのままダルカンの胸に倒れ込んでしまった。
ダルカンに抱き留められる形に、一瞬戸惑ってしまった。ダルカンが唾を呑み込むのが解った。緊張している? そして、私の背に手を回そうとした所で、アレアスが私を引っ張ってダルカンから引き離した。
「危ないぞ、ミリス。ダルカンが受け止めてくれなかったら、そのまま酒場の床に頭突きしてたいたかもしれないぞ」
「ウフフフ。そうね。ありがとう、ダルカン」
「お……おお。そうだな」
さっきまで、あれ程盛り上がっていたのに、少し気まずい感じになった。私にとってアレアスやダルカンは信頼できる仲間。二人も当然そういう風に、私の事を思ってくれていると思っている。
だけど、信頼しているからこそ、たまにこういう雰囲気になる事もあったりする。自分でもそれが嫌な事なのか、良い事なのかは解らないけれど、二人とはこれまでと変わらずお互いに背中を預けられる――信頼できる仲間として付き合っていきたいと思った。
私はウェイトレスを呼び止めると、再び3人分の葡萄酒を注文した。
「アレアス、ダルカン。今日はお祝いよ。飲みなおしましょ」
「そうだな、今日はまだまだ飲むぞ」
「なんて言っても、お祝いだもんな。なんせ、あのキマイラの討伐も俺達3人だけで成し遂げられたんだもんな」
お代わりの葡萄酒が運ばれてくると、再びジョッキを合わせて乾杯をした。
「おっとっと! おこんばんは。盛り上がっていやすなー」
唐突に、酒場にいた客に声を掛けられた。振り返ると、そこには私達と同じく冒険者といった感じの女性が二人立っていた。アレアスとダルトンの目が、その女性二人のうちの一人に釘付けになる。片方の女性は、女の私でも目が釘付けになってしまう程、露出の激しいビキニアーマーを装着している、豊満な胸のセクシーな女性だった。
「私達に何か御用ですか?」
「失礼。あっしは、メイベル・ストーリというメルクト共和国を中心に活動しております、ケチなAランク冒険者でやっす。こっちの破廉恥ウォーリアーは、Eランク冒険者のディストル・トゥイオーネ。あっしらも、この酒場でずっと酒を飲んでいたんでやすがね、盗み聞きするつもりはなかったんでやんすが、あなた方がBランク冒険者で、この街の周辺を騒がせていたキマイラも討伐したって聞いたもんでね、そんな優秀な冒険者さんとちょっとお近づきになれないかなと思いやして」
これは、きっと仕事の話だと思った。私はアレアス、ダルトンと目を合わせると二人ともそれに気づいている様子だった。アレアスが頷く。私はメイベルとディストルという冒険者に、同じテーブルに座るよう勧めた。
「すいやせんね。じゃあここの代金はあっしが支払いやすから、頼みたい物があればじゃんじゃん頼んでくださいね」
私はニヤリと笑みを浮かべると、メイベルに言った。
「私達に何か依頼を頼みたいのでしょ? 報酬の額にもよるけれど、まずは話を聞いてみてからにしましょうか?」
「おおー。これはこれはなんとまあ。なんとも、話が早くていいですな。実は今現在、あっしらのメルクト共和国が崩壊の危機に瀕しておりまして、それでその窮地を救うべくあっし達はご助力願える、腕の立つ冒険者を探しておりました」
アレアスが顔をしかめる。
「それで、わざわざこの国へ?」
「ええまあ。本音を言ってしまうと、あなた達のような腕の立つ冒険者に助力願おうというのは、ぶっちゃけ保険なんでやすよ。本当はですね、クラインベルト国王陛下から応援を頂きたくて、この国に来たんでやんす」
「クラインベルト王国に応援をですか。でもメルクト共和国の崩壊って、どういう事なんです」
「『闇夜の群狼』。名前はご存じでしょう? 世界規模の犯罪組織、世界最大の盗賊団とも言われておりますが、そいつらにあっしらの国は、乗っ取られようとしているんですよ。すでに、執政官は殺害され国の中枢には奴らが入り込んでおりやす。ですから腕の立ちそうなあなた達の力を貸して欲しいんでやんす」
アレアスとダルカンの顔を見ると、二人ともやる気のようだった。私達は今日、Bランク冒険者になったばかりだけど、もしも危機に直面している一国を救うなんて事を成し遂げれば、間を空けずにAランクにだってあがれるはず。
もちろん、危機に直面している国を一つ救うというのだから、多額の報酬も期待できるだろう。私は仲間二人の気持ちを再確認した。
「どうするの?」
「俺は報酬や名声が手に入るなら、やってもいい。ダルカンはどうだ?」
「俺は――そうだな、俺もそろそろ魔物討伐だけでなく、国を救うみたいなデカい仕事をしてみても悪くはないと思う」
どうやら、意見もまとまったようだ。
「じゃあ、メイベルさん。私達の報酬の話をしましょう。メルクト共和国まで行ってタダ働きは嫌だから、報酬の半分は前払いというのが条件よ。それと、私達への依頼は冒険者ギルドを通して欲しいわ。昔、お金の事で色々とあったから基本的に私達はちゃんと冒険者ギルドを通した依頼しか受けない事にしているの」
メイベルは頷くと、私達が驚くほどの金額を提示してきた。
私達はメイベルからの依頼を受ける事にした。出発は、明日。エスカルテの街でクラインベルト王国からも派遣されてくるという応援と合流し、ついでに街のギルドマスターにも助力を請えないか頼んでみるそうだ。
エスカルテの街のギルドマスターと言えば、バーン・グラッド。冒険者なら、誰もが聞いた事がある名前の凄腕冒険者だった男。
彼も加われば、かなり心強いのだがギルマスが果たして街を離れ国外へ行く事なんてあるのかなと思った。




