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第190話 『ミリス・カーランド その1』 (▼ミリスpart)




 キマイラと目が合う。アレアスが剣を片手に横一線に走った。


 ――一閃、そして火花。


 アレアスの振った剣は、山羊の角に弾かれた。



「くそ!! やはり、強敵だな」


「どけ!! アレアスー!! うおおおお!!」



 今度はダルカンが手斧を放った。手斧は唸り声をあげながら、勢いよく回転しながら飛んでいき、山羊の首にダメージを与えた。しかし、致命傷ではない。山羊の方の頭が悲鳴をあげると、今度は獅子の方が高熱のブレスをアレアスとダルカンに向けて吐いた。私は急いで、二人の間に滑り込むように移動すると、ホワイトロッドを突き出して高熱ブレスに対する防御魔法を詠唱した。



「神よ、悪しき魔の放つ炎から、私達を守りたまえ! 《耐熱防御魔法(ヒートバリア)》!!」



 オレンジ色の光が私達を包む。獅子の方が放った、高熱ブレスが私達に直撃した。



「うがあああ!! 熱い熱い熱い!!」


「あちちちち!! お……おい!! どうなってんだ、ミリス? 炎を防ぐ魔法じゃないのか⁉」


「そうよ! ちゃんと、防いでいるでしょ! 熱いだけで助かっているでしょ? 助かったんだから、文句言わないで!」



 私の使用した防御魔法耐熱防御魔法(ヒートバリア)は、耐火耐熱の効果がある。でもキマイラのような強力な魔物の吐く高熱ブレスなんかは、完全にダメージをゼロにはできない。例えばもっと上位の完全に防ぐ魔法、全方位型魔法防壁(マジックシールド)など唱えればブレスを無力化する事はできるのだろうが、上位魔法の中でも高等なその魔法は私には使用できない。それでも、キマイラの高熱ブレスから皆を致命傷から救っているのだから、それについての評価はして欲しい。



 グオオオオオオ!!



 キマイラが雄叫びをあげた。チャンス。高熱ブレスが止んだ隙を見計らって、アレアスとダルカンが飛び込んだ。私もその攻撃に合わせて援護をする。



「さあ、見なさい!! 《閃光魔法(スタンフラッシュ)》!!」



 グオオオオオオ!!



 ――閃光魔法。キマイラの、獅子と山羊、両方の目を眩ませる。



「アレアス、行くぞおお!! おりゃあああ!!」


「おお!! 任せろおおお!!」


「神よ! 仲間達の敏捷性を高めたまえ!! 《敏捷性向上術(アジリティアップ)》!!」



 私の補助魔法でアレアスとダルカンの、敏捷性が跳ね上がった。いける!!


 ダルカンが鉄製の斧を、勢いよく振りかぶりキマイラの山羊の部分に振り下ろし、同じタイミングで獅子の方には、その喉元をアレアスが愛用のロングソードで、下からえぐるように突き上げた。


 よろめくキマイラ。アレアスが止めを刺そうと、更にキマイラに飛び掛かると、キマイラの後方から何か長く太いロープのような物が襲い掛かって来た。アレアスが叫ぶ。



「へ……へび⁉」


「気を付けろ!! キマイラは尻尾が蛇だ!!」



 シャアアア!!



 キマイラとは、上半身に獅子と山羊という二つの獣の頭を持ち、下半身にある尻尾は蛇という魔物。一つの身体に合計3つの頭がある。その蛇の部分がアレアスの首筋に喰いつこうとしてきた。だが、寸でのところでアレアスは交わした。いつも攻撃力アップの補助をして欲しいと言われるけど、用心の為、敏捷性をあげておいて良かった。



「このーー!! くたばれ!!」



 アレアスが剣を払うと、蛇の部分は切断されて宙に飛んだ。そこで、ダルカンがキマイラの背に鉄斧を振り下ろして、とどめた。キマイラは、そのまま真横にドスンと倒れた。


 ――――キマイラ1匹の討伐、完了。


 アレアスとダルカンが私の方へ向けて、掌を突き出したのでそれに合わせて二人とハイタッチした。アレアスは、何度も私達が倒したキマイラを確認しては、鼻息を荒くしている。



「そうか、そうかー! ついにアレだな。俺達もキマイラを倒せる位には、なったって事だな」


「見たまんまだな! ハッハッハ」



 ダルカンの言葉に、私もアレアスも爆笑した。


 キマイラを完全に討伐した事を確認し終える、リオリヨンの街へ戻った。そして、早速キマイラ討伐の報告を冒険者ギルドで済ませた。


 ついこの間までは、ニガッタ村などの辺りを中心に冒険者ギルドの仕事をこなしていたが、私達もそれなりに経験を積んできたし、最近はもう少し上の段階に足を踏み入れるべくリオリヨンの街周辺で、依頼を受注していた。



「アレアス様、ダルカン様、ミリス様。キマイラ討伐、お疲れ様でした。こちらが報酬になります」



 アレアスが代表で受け取る。今回は結構な大物なだけあって、報酬の入った袋がずっしりしている。



「報酬は確かに受け取った。ありがとうー」


「3人であのキマイラを倒してしまうなんて、本当に凄いですよ」



 受付嬢に褒められ、アレアスとダルカンはまんざらでもない表情をした。私は気になっていた事を、ついでに確認した。



「それで、私達の冒険者ランクなのだけど? あがってるのかな?」



 私の言葉にアレアスとダルカンも、一瞬静止した。受付嬢が、私の目を見る。



「そうですね……」



 ――――まさか。



「おめでとうございます! 今回のキマイラ討伐達成の件も含めまして、ミリスさん、アレアスさん、ダルカンさんの3人は冒険者ランクBに上がりました」


「ええーー!! うそー、ついに私達は冒険者ランクBになったんだ!」



 アレアスが私とダルカンの肩を叩いた。



「これで、俺達もいっぱしの冒険者だぜ。ここから上の冒険者は、本当にエキスパートだからな」


「そうだ。何にしてもこれで、上級冒険者の仲間入りってんだから、夢みたいだ」


「それでも、いくらBランクになったからって、調子に乗ってたら痛い目にあうかもしれないわ。中には、低ランクでも物凄く強い冒険者もいるかもしれないし、その逆だってあるかもなんだから」



 自分で言って、ふとあの黄金に輝く長い髪のハイエルフを思い出した。――ルシエル・アルディノア。あの子は冒険者としては低ランクだけど、とんでもない強さのエルフだった。まるで、底が見えなかった。



「あっ! ミリス! 自分で言っといて、その顔。さては、ルシエルの事を思い出したな?」



 ルシエル。結局仲間には誘ってみたものの、見事に振られてしまった。ルシエルには私達の仲間になって欲しかったな。



「ウフフフ。皆だって、そうでしょ? ルシエルの事が忘れられないでいる。カルビの事もね」



 カルビ。思い出すと、ほんのりとした優しい気持ちと笑いがこみあげてくる。



「それより、依頼も達成した事だし、ランクアップのお祝いを兼ねて、これから酒場で行きましょう」


「ミリスからそんなこと言うなんて、こりゃなんか大変な事が起こるかもしれないな」


「ちょっと、ダルカン。大変な事ってなによ」


「ハッハッハ。槍の雨が降るとか、魔物の大群が押し寄せてくるとか……」


「もう、失礼ね。私だって嗜む程度にお酒だって飲むわよ」



 ダルカンの言う通り、普段の私はあまり酒場へは行こうなんて言わない。だけど、今日はあのキマイラをと討伐する事ができたし、ランクアップも達成した。

 

 普段は神に仕えるプリーストだって、今日くらいは思う存分にはっちゃけたって許されると思った。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇ミリス・カーランド 種別:ヒューム

リオリヨンの街を拠点に活動をしているBランク冒険者。クラスは、プリースト。アレアス、ダルカンとパーティーを組んでいる。回復魔法や補助魔法を得意としている。以前、ニガッタ村の周辺でウルフが大量に発生し人を襲う事件があった時に、冒険者ギルドから依頼を受けて討伐に向かった、その時に知り合ったルシエル・アルディノアを自分のパーティーへ誘った。


〇アレアス・ホスター 

リオリヨンの街を拠点に活動をしているBランク冒険者。クラスは、ソードマン。ミリス、ダルカンとパーティーを組んでいる。パーティーのリーダーもアレアスが勤めている。愛用の武器は、ロングソード。


〇ダルカン・マクライト

リオリヨンの街を拠点に活動をしているBランク冒険者。クラスは、ウォーリアー。ミリス、アレアスとパーティーを組んでいる。パワー型で、愛用の斧を武器に戦う。パーティーでも一番の力持ちで、そういう場面に出くわした時は彼が担当する。

〇キマイラ 種別:魔物

獅子の身体と頭を持ち、加えて山羊の頭と蛇の尻尾を持つ魔物。蛇を合わせると、頭は計3つある。マンティコアに並ぶ危険で獰猛な魔物で、単体かペアでいる事が多い。マンティコア同様に高熱のブレスを吐き。鋭い牙と爪を持つ。熟練冒険者でも、気を付けないと命を落としかねない。


〇ホワイトロッド 種別:武器

神官など聖職者が好んで使用する、白い杖。


耐熱防御魔法(ヒートバリア) 種別:防御系魔法

火や熱から、身を守る魔法。自分自身以外にも、かける事ができる。


全方位型魔法防壁(マジックシールド) 種別:防御系魔法

強力な防御系上位魔法。自分の周囲にドーム状(実は球体)の光の幕を張り、物理攻撃や炎や冷気などの攻撃も防ぐ。とても強固な防御魔法。


閃光魔法(スタンフラッシュ) 種別:魔法

辺りに閃光を瞬時に放つ魔法。それを見た者は、一瞬にして目がくらむ。目潰しの魔法。


敏捷性向上術(アジリティアップ) 種別:支援系魔法

魔法の力によって、自分自身や対象の敏捷性を向上させる。複数にかける事はそれ程難しくないので、パーティーにこの魔法の使いえる者がいると重宝される。

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