第19話 『湖畔キャンプ その1』
ローザのもとに、クラインベルト王国騎士団のドリスコ副長から連絡があった。ローザは、その事を知ると「ついにこの時が来てしまったか……」と呟き肩を落とした。
その姿を見て、何があったのかだいたいの見当はついた。
ローザが独断で自分の騎士団を長らく不在にしていた事で、騎士団からそろそろいい加減に戻ってこいと言う事だそうだ。王国側からも、その事でかなり怒られてしまっているみたい。いつかは、そうなるだろうとは思ってはいたけど…………寂しいけどローザの事を思うと、戻った方が良い。…………うーーん。
そして、そうなればローザと暫くは、一緒に冒険をしたりキャンプしたりできなくなるだろう。
………………回避する余地は無しか。
明日、ローザはエスカルテの街へ一度戻って、ドリスコ副長達と合流するそうだけど…………そう決まってから、ローザはずっと沈んでいる。
「元気出せ。ローザ。また、休みがとれたら一緒に冒険やキャンプもできるんだろ?」
「ああ、それはそうだが……いいなあ、ルシエルは。アテナと一緒に引き続きキャンプとかできてなー」
――――駄目だ、沈みまくっている。せめて私たちにできる事とか、少しでも元気付けてあげられる事はないかな。絶対何かあるはずだよ。
――――それで、ルシエルと一緒に、ローザの為に何ができるか必死になって考えた。そして、一つの妙案が浮かんだ。フッフッフッフ……
そんな訳で、私達3人は今日、暫くキャンプできないローザの為にクラインベルト王国でも、3本の指に入ると言う美しさを誇るラスラ湖という所へ来ている。
そう! 今回は、湖畔キャンプなのだ。森でのキャンプが多いから、たまには美しい湖の畔でキャンプっていうのも凄く新鮮でいいよねって言って決まった。湖畔キャンプって言うのだから勿論湖がある訳で、最近釣りにハマったローザの為にまた釣りをしてもいいと思った。だけど今回は、やめた。実は、今日は別の事をしようという計画があるのだ。フフフ。
「綺麗な所だなー。エルフの里の方には、こんなデカい湖は無かったな」
「ルシエルは、こんな大きな湖を見るのは初めてか。うむ、綺麗な湖だ。ラスラ湖は、クラインベルト王国でも美しくて有名な湖だが、私もあまり来たことがない。眺めているだけでも、心が洗われるようだ」
それこそが今回のキャンプの狙いだ。この湖畔で兎に角ゆっくりと身体も精神も癒してほしいのだ。
ルシエルもローザも湖を見て感動している。今回のキャンプは、ここにして正解だね。
「あれ? あまり来た事がないという事は、ローザは来た事自体はあるんだ」
「ああ、子供の頃だから……うろ覚えなんだけど。パパがキャンプするって言って、ママと私を強引にここへ連れてきてな」
「ふーーん。なるほど……パパとママと一緒にここでキャンプした事があったんだね」
にっこりそういうと、ローザは、はっとして慌てて言いなおしていた。
「ちちちち……父上と、ママママ……ママ上だ!! ちょっと言い間違えただけだ! 忘れてくれー!」
――――おもろい!
それから、少しするとかなり大きな荷物を持ってミャオがやってきた。なんか、ヨロヨロしているんだけど、大丈夫?
実は、今回はミャオにも声をかけていたのだ。4人での湖畔キャンプ。楽しくなりそう。
「ニャーーーー。いいところニャねーー。職業がら普段、金の勘定ばかりしてるニャから、癒されるニャー」
「ミャオー。こっちこっち」
「ニャニャ! アテニャとそのニャカマ! コンニャニャ……コンニャ……コンニチニャ。ニャ? よく見れば王国騎士団団長と、店を覗いてたエルフニャ。よろしくニャ」
ルシエルは、照れ臭そうに頭を摩った。その節は、どうもってことかな。
「ルシエルだ。よろしく頼む。あとあの時は、すまん。もう、反省しているから許してくれ」
ルシエルが両手を合わせて、深々とミャオに謝った。
「あの時の事は、アテニャから聞いているニャよ。わかってるニャ、わかってるニャ。よのニャか、簡単に説明できる事ばかりニャら、誰も苦労しないニャ。楽に行こうニャ」
続いて、ローザがミャオに挨拶する。
「ローザ・ディフェインだ。クラインベルト王国騎士団団長なのだが……何処かで会ったか?」
「あったニャ。一度、店に来たニャ。王国騎士団ニャから、覚えていたニャ。お近づきにニャれば、太いお客さんになりそうニャから、インパクトあったニャ。だけどお客さんの方は、一度行った程度の店の店員なんて覚えてなくて当たり前ニャ。だけど、これでお近づきニャから、よろしくして欲しいニャ。ミャオ・シルバーバイン。よろしくニャ」
「よろしく!」
一通り挨拶が終わると、皆で楽しくワイワイしながらも、焚火の準備にテント設営に取り掛かった。
「流石は、キャンパー達ニャ。テントとか、焚火とか準備が速いニャー。心強いニャー。なら、ニャーも準備しないと」
ミャオは、そういうと持ってきた大きな荷物を広げてゴソゴソと漁り、なにやら大きな調理道具やら食器やら食材を取り出した。それを見るやいなや皆のテンションが上がる。え? 網があるよ。まさか!!
「もしかして、バーベキューか!! 素晴らしいじゃないか! ミャオ」
湖畔キャンプでバーベキューって!! 最強ですよ!!
「信じられない! 湖畔でバーベキューって凄いいい考えだよ、ミャオ!!」
そういって、ミャオに抱きついた!!
「わかったニャー、わかったニャー。離れるニャー」
あれ? ミャオ、なんかいいニオイする。スンスンっ!! え? 干し草? 干し草のにおい? おちつく!!
「離れるニャー!! ちょっと、離れるニャー! アテニャ!! ニオイ嗅ぐなニャー!!」
ルシエルもローザも大笑いしている。フフフ。この位で、勘弁してあげよう。
「っで、ミャオ。いくらだった?」
「ニャ? ニャハハ、それなら心配ないニャよ。ニャーはできる獣人ニャ。今日のバーベキューの代金はニャーの奢りニャ。アテニャには、日頃からごひいきにしてもらっているから、サービスニャ」
「えええええ!! ありがとう! ミャオ! じゃあ、遠慮なくご馳走になりまーす」
感謝の言葉を述べて、再び、ミャオに抱き着いた。スンスンっ! 干し草? ミャオってもしかして、干し草の精霊?
「いいニャ、いいニャ! だから、離れるニャー!!」
「ありがとう! この礼として、またエスカルテの街に寄った時にでも、ミャオの店にお邪魔させてもらって沢山買い物をさせてもらうよ。可能ならば、私の騎士団員達も連れて行く」
「ニャーー! それは嬉しいニャ。是非よろしくニャー、騎士団長殿ー」
「ミャオ! サンキューっな!」
「ルシエルはもっとなんか、ないんかニャ!!」
ミャオが流石獣人と言わんばかりのスピードで、ルシエルをペシリと突っ込んだ。皆、大笑いした。楽しい。
バーベキューの支度が整ってきた。自分のチェアーを用意する。折り畳み式。ルシエルが私のチェアーを見つめている。そういえば、ローザもミャオも自分専用のチェアーを持っているが、ルシエルは持っていなかった。いつも、そのまま焚火の前などに木や石を持ってきて座っていた。
「ルシエル?」
声をかけると、ルシエルは、はっとした。
「大丈夫だ。問題無いぞ。すぐに、オレ専用の椅子を用意するからな。ちょっと待っててくれ」
ルシエルが周囲を見回す。湖畔から少し離れた所に林があるのが見える。それを確認すると、その林へ走って行こうとした。…………ままま……まさか、これから林にある木で自分専用の椅子を作ろうというの⁉ 今から、ハンドメイドとか冗談でしょ?
「じゃ、行ってくる!」
「ちょっと………」
止めようとした途端、ミャオが先に声をかけた。
「待つニャー!! ルシエルは、椅子を作るのが得意なのかニャ? そうでなければ、ニャーのがもう一つあるニャ。余分に持ってきている椅子を使うニャ」
「いや……でもな……」
なるほど。きっと、ルシエルは皆自分専用のチェアーを持っているのを知って、自分も専用のチェアーが欲しくなったんだね。うーーん、確かにこれまでのルシエルを見ていると、仲間外れ的な事に結構敏感な気がする。
「わかってるニャ、わかってるニャ。ニャーは何といっても、できる獣人ニャ。このチェアーは、ルシエルにプレゼントするニャ。アテニャ達と同じく折り畳み式ニャ」
ミャオのその言葉にルシエルは、飛び上がった。
「ええーー!! いいのか、もらって? 本当にもらってしまっていいのか? もう、もらったら返さないんだぞ!」
「いいニャ、いいニャ。でも、次に新しいのが必要になって、店に来る時は買ってちょうだいニャ。これでも一応、商人ニャ」
ルシエルは、何度もミャオにお礼を言った。そして、手に入れた折り畳み式チェアーを気に入ったみたいで、なんども触っていた。良かった、良かった。しかしミャオは、流石商人だなって思った。ルシエルの表情から、一瞬でチェアーが欲しいって読み取ってプレゼントをしたんだろうけども……まさか、予備のチェアーまで持ってきているとは…………
その商才、恐るべしだね! ミャオ!
「な……なにかニャ?」
「ん? 何もないよ」
バーベキューが始まる。ローザがミャオから食材を受け取って、網に並べる。
「アテナ! 肉と野菜どっちから焼いていけばいいかな?」
「そりゃあ、勿論……お肉からでしょ!!」
ローザににっこり満面の笑みで、そう答えた。
すると、それを聞いていたルシエルとミャオが頷きながら、親指を立ててみせた。
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〚下記備考欄〛
〇アテナ 種別:ヒューム
Dランク冒険者で、物語の主人公。キャンプが趣味で、今は薬草を使用したお茶作りもマイブーム。ギゼーフォの森で知り合ったルシエルと、エスカルテの街で知り合ったローザとパーティーを組み行動を共にする。今回は、騎士団の任務を放り出してついてきたローザがついに呼び出しを命じられたので、ローザとの別れを惜しんで湖畔キャンプをする事にした。
〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ
Fランクの冒険者なりたてのホヤホヤで、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も得意。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。一人称は、「オレ」で男勝りな性格。特別な弓を所持しており、ナイフと共によく使いこなす。ギゼーフォの森でアテナと知り合い、エスカルテの街で正式な仲間としてパーティーを組む。ローザとは最悪な出会い方だったけど、今ではずっと一緒に冒険をしたいと思える程にいい仲間だと思っている。
〇ローザ・ディフェイン 種族:ヒューム
クラインベルト王国、王国騎士団の団長。現在はアテナが自家製の薬茶を売る為に立ち寄ったエスカルテの街の治安維持の任務についているが、アテナと出会った事により任務を副長のドリスコに放り投げてアテナについて行った。しかし、ついに騎士団に戻る様にと命じられ、しょんぼりする。外見は赤い髪のショートヘアで凛々しい感じ。20匹程度のゴブリン相手なら、一人で倒せる程の剣術の持ち主。人の前では両親の事を父上母上と言っているが、どうも家ではパパとママと呼んでいるくさい。甘えん坊?
〇ドリスコ 種別:ヒューム
クラインベルト王国、王国騎士団の副長。ローザ団長を常日頃から尊敬しており、補佐に勤めている。大きな体格からは、腕力もある事が解る。アテナにべったりとついて行ったローザに騎士団の任務を丸投げされて大きく慌てている。そしてついにその事が定期連絡の際に王国に知られ、非常に怒られる。直ぐに任務に戻り務めを果たすようにローザにつたえた。
〇ミャオ・シルバーバイン 種別:獣人
猫の獣人で、言葉の語尾などに「ニャ」ってつける。猫の獣人が全てニャンニャン言葉ではなく、ミャオはたまたまそういう種族というだけ。アテナとは同年代で16歳。16歳にして、商人でエスカルテの街で古道具屋を経営している。一応「ミャオの店」という名前があり、古道具屋っていうのはアテナがそう呼んでいる。金にがめつく、利益で動くが時には情でも動き、友情を大切にするなんだかにくめない少女。アテナと友人になった経緯は、謎。今回は湖畔キャンプに誘われたので、バーベキューセットと空いた時間に色々と店にある古道具の修理屋やメンテをしようと沢山何か持ってきた。身体からは、干し草のにおいがするみたい。ローザはかつて、お客さんでミャオのお店に来ていてミャオに合っていた。その事はミャオのみが覚えていた。
〇クラインベルト王国 種別:ロケーション
アテナ一行が現在、冒険している国。草木が多く緑に恵まれている。豊かな土地である為、人や動物だけでなく魔物も数多く生息する。
〇エスカルテの街 種別:ロケーション
クラインベルト王国にある、大きな街。王国内でも王都を除けば2番目に大きな街とされている。冒険者ギルドや宿屋。銀行に武器屋に防具屋。それにカフェなどあらゆるお店が揃っていて活気に溢れている。ミャオのお店もこの街にある。
〇ラスラ湖 種別:ロケーション
クラインベルト王国で3本の指に入る程の、美しい湖。この湖はその周辺にあまり危険な魔物も少なく和香で美しい場所なので、絶好のキャンプスポットとしても知られている。かつて、ここで王族や貴族がお茶を楽しんだという話もある位である。




