第186話 『ギゼーフォの森でキャンプ その6』
食材が揃うと、セシリアはテキパキと晩御飯の準備を進めた。料理の為の水を汲んできたり、野草やキノコ、魚にお肉と下拵えを整えていく。
私とマリンも、もちろん手伝った。マリンは、料理をぜんぜんした事がないと言ってきたが、一緒に食事の準備をする彼女の表情は楽し気な感じだった。そう言えば、アテナ様もそうだけど食べる事が大好きな人って、料理が上手だったりする。
マリンは、私が貸したナイフで拾ってきた枝を削って、串を何十本と作り私はマリンが狩ってきた鳥を綺麗に解体し、肉を切り分けた。
その作業が終わると、今度は切り分けた鶏肉を更に小さく切り分け、順に串に刺していく。5つ6つ、肉を刺した所で焚火に網を乗せ、そこで焼き上げる。味付けは、セシリアが予め作って用意していた醤油ベースのタレと塩。
「テトラ、マリン。鳥のお肉を串に刺していく作業だけれど、お肉は他に皮や砂肝、肝臓、心臓なども美味しく食べられるから、同じように串に刺してちょうだい」
「はい。解りました!」
「ほお。心臓や肝臓も美味しく食べられるのか。それはまた興味深いな。しかし、こんな料理ボクは初めて見るよ。この料理はいったい何て料理なんだい? 鳥の串焼き?」
「あら、下町なんかじゃ、割とポピュラーな料理なのよ。焼き鳥って言われ親しまれているわ」
「へえー、焼き鳥。初めて知ったよ」
マリンは初めて自分で作る焼き鳥に、興味深々。そんな間にもセシリアは野草を刻み、別でストックしていた鶏肉を使ってスープを作り上げた。そして小川の近くにあった長方形の石を俎板代わりにしてケルピーの肉を、薄くスライスして野草を刻み和える。そこへ、柑橘系の果実を絞って塩等の調味料と合わせてカルパッチョを作った。
「はい、1品できあがり。ケルピーのカルパッチョよ。フフフ。これは、お酒に合うわよ」
「すすす……凄い! 凄いです、セシリア!! 物凄く美味しそうです!!」
「そう? ありがとう。じゃあテトラ、早速味見してもらえるかしら?」
セシリアは皿に盛りつけたケルピーのカルパッチョを箸で摘まみ上げると、私の口の前まで運んだ。
「はい、あーーーん」
「ああーーーーん」
パクリッ
もっきゅ、もっきゅ、もっきゅ。
「んんーー!! 美味しいです!!」
「あーー! テトラだけズルいな。ボクにも、ボクにも!」
セシリアは、微笑んでマリンに味見させた。その美味しさにマリンは、舌鼓を打ちながら飛び跳ねて見せた事は言うまでもない。そんな事をしている間にも焼き鳥が焼けてきた。私はすぐにひっくり返して、両面に火を通した。
「セシリア、焼鳥も完成です」
「お世話様。じゃあ、晩御飯にしましょう」
気が付くと、マリンが川で獲った魚を串に刺していた。全ての魚に串を刺すと、焼き鳥をしている焚火の側に突き刺して焼く。直にジュワワと油が滴り、魚の焼けるいい匂いが漂って来る。ケルピーのカルパッチョ、野草と鶏肉のスープ、焼き鳥、焼き魚――――本当に今晩はご馳走だなって思った。
マリンがミャオさんから頂いたマタタビ酒を開けて、3人分コップに注いだ。私はセシリアやマリンのようにお酒が強くない。それなのに、あのマタタビ酒は美味しいから、飲みすぎてしまう。気をつけないと。
セシリアが音頭を取った。
「それじゃ、乾杯しましょう」
「はい! 乾杯―!」
「いいね、カンパーーイ」」
酒盛りキャンプが始まってしまった。マリンは早速焼き鳥を手にとり、口に入れるとしっかりと味わって食べる。その直後に、マタタビ酒をゴクリと飲んで――あれ? ちょっと泣いている?
「うん、これは驚くほどに酒に合うよ。美味しい」
どうやらあまりの美味しさに感動して涙が流れたようだ。そんなに美味しいなら、私も――
モグモグモグ……
「美味しい!! 本当に美味しいですよ、セシリア」
「焼き鳥は、私も大好き。お酒にもこれ以上ないって位に合うし。でも、いくら合うからってあまりお酒を飲みすぎないようにね」
「は……はい。解ってますよ」
そう言いながらもセシリアは、私のコップに更にマタタビ酒を注いできた。うーーん。どうしよう。でも、食もお酒も進んじゃう。
焚火を囲んでご馳走を食べて、お酒を飲んで――
私達は、キャンプの醍醐味である食事と会話を何時間も楽しんだ後、ようやくテントに入って眠りについた。
マリンに関しては、ちゃんと自分のテントがあるのに、酔っぱらっているのか私のテントに入って来てずっと私に抱きついてきて、いつの間にかそのまま眠ってしまった。
そのあどけないマリンの寝顔を見ると、トゥターン砦で私やアーサーと戦ったマリンとは似ても似つかないと思った。
――――気が付くと、いつの間にやら私も眠ってしまったようで、目が覚めると朝だった。私に抱きついて眠っていたマリンは、まだ眠っていたので起こさないようにテントから外へ出た。
「痛いっ!」
ズキッと頭痛がした。そして、少し気持ち悪い。やっぱり、昨日は調子に乗ってお酒を飲みすぎた。
空は晴れ渡っており気持ちいい朝だった。周囲を見渡すと、セシリアの姿もない。セシリアは朝が弱いから、マリンと同様にまだテントで眠っている事は容易に想像ができた。
私は小川まで行くと、水を飲んで顔を洗った。
それから、焚火でお湯を沸かして珈琲を一杯入れると近くの手頃な石に腰を掛けて、二人が起きてくるまで少しボーーっとしようと思った。
これはこれで、実に贅沢ないい時間だと思った。




