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第185話 『ギゼーフォの森でキャンプ その5』




 マリンの腕を掴んで、水面に浮上する。


 マリンを引き上げながら川べりにまで移動し、魔物の方を向くと涯角槍(がいかくそう)を構えた。すると、マリンを川底に引き込んでいた魔物は、ついにその姿を露わにした。馬のような見た目をしているけど、その身体には魚のヒレのようなものがあり、身体の表面には鱗がある。


 川の水を吐き出したがらも、マリンが言った。



「ゲホッゲホッ! ……テトラ、気を付けろ。その魔物は、ケルピーだ」


「……ケルピー。可愛い名前の魔物ですね」


「そうだね。でも危険な魔物だよ。さっき実際に経験しただろうけども、水属性の魔法を巧みに使う魔物だ。水蛇の一撃(ハイドロプレッシャー)もそうだが、貫通水圧射撃(アクアレーザー)など他の魔法も使うから、十分に気を付けないと大怪我をするよ」


「ア……貫通水圧射撃(アクアレーザー)って……」



 確かマリンが使用していたあの、途轍もなく貫通力のある水の高圧レーザー。あんなの急所に直撃したら、大怪我どころじゃなく即死……



 ヒヒャオオオオン!!



 嘶き。刹那、ケルピーの放った貫通水圧射撃(アクアレーザー)が私の頭をかすめた。慌てて姿勢を低くするが、もう遅い。あんなの、とてもじゃないけど反応して避け続けるなんてできない。マリンが言った。



「飛んでくる方向を、先に予測するんだ。貫通水圧射撃(アクアレーザー)が放たれてからじゃ、避けるのは難しい」


「よよよ……予測って、そんなのできな……」


「テトラ、敵をよく観察するだ。ケルピーは水属性魔法で攻撃に移る前に高い確率で嘶くよ」



 ヒヒャオオオオン!!



 ケルピーはマリンが言った通り嘶きと共に、続けて貫通水圧射撃(アクアレーザー)を放ってくた。素早く動いて、なんとか狙いを散らして直撃しないようにして攻める。避ける動作から素早く攻撃へとつなげる為に、左右へ動きフェイントを織り交ぜながら川の側からケルピーを追いつめるように迫った。


 水中はケルピーにとって有利な場所。だからケルピーを川の中へ入らせないようにして、なんとか陸で戦うようにしないと!! 勝機があるとすれば、そこだ。



「ええいっ!! ったあああ!!」



 ケルピーの頭部目がけて、涯角槍(がいかくそう)を突き出す。しかし、寸での所で避けられる。ケルピーは何かを察知して私から距離をとると、大回りして再び自分にとって戦い易い川の中へ飛び込もうとした。



「そうはさせないよ! 《水大砲(ウォーターランチャー)》!!」



 マリンが魔法を詠唱する。翳した掌から、大量の水が勢いよく放水され、川に飛び込む直前のケルピーの身体を横殴りにした。ケルピーはその水の衝撃で、後方の岩に叩きつけられた。



「テトラ! 今だよ! 仕留めて!」


「はいっ!!」



 涯角槍を握って、一気に間合いを縮める。地面を強く蹴って、跳躍。



「だあああああ!!」



 ヒギャアアアアア!!!!



 ケルピーの脇腹に、深々と涯角槍(がいかくそう)を差し込んだ。ケルピーは断末魔を発すとその場に倒れた。なんとか、陸で決着をつける事ができた。



「ふう……なんとかなりましたね。大丈夫ですか、マリン」


「うーーん」



 見ると、マリンはすでに倒したケルピーに近づいて何か――観察している。



「な……何をしているんですか?」


「え? うーーん、ちょっとね。テトラ、ちょっとさっきのナイフを貸してくれるかい?」


「はい、いいですよ」



 ナイフをマリンに手渡すと、マリンはそのナイフを使って、ケルピーの身体の鱗を剥がし始めた。



「もしかして、魔物……ケルピーから素材回収しているんですか?」


「うん。ケルピーは、レアリティの高い魔物だからね。その素材は高く取引されるし、貴重なものだから欲しいって人も多いんだよ。鱗はもちろんの事、ヒレや舌、爪に歯や骨等の素材。ちょっと癖があるけど、肉も美味しいんだよ」


「肉!! お肉ですか!!  わ……私、ケルピーのお肉何て食べた事ないですよ!!」



 マリンは、いつもの眠たそうな顔でにこりと笑うと、ナイフを放った。私はそのナイフをキャッチすると、マリンはケルピーを指して言った。



「じゃあ、少し肉も持って行こうか。ボクら3人分、テトラに肉を斬り出してもらおう。ボクの腕力じゃ、肉を切り出すのに結構な時間が必要だからね、テトラはこういう事に慣れていそうだから任せるよ」


「はい! 解りました! じゃあ、3人分ですね!」



 ケルピーから必要な分の肉を斬り出した後、作業で身体に付着した血を落とす為にもう一度川へ入って汚れを落とした。それからメイド服を着ると、セシリアの待つキャンプへ戻る事にした。


 空はまだ明るいけど、もう直に夕焼け色になってくるだろう。


 そう言えば、気になっていた事をキャンプに戻る道中、マリンに聞いてみた。



「このギゼーフォの森みたいな穏やかな森でも、ケルピーやあんな大きくて凶暴なジャイアントフロッガーが出現する事もあるんですね」


「まあ穏やかなだけあって、この森には美味しい食べ物も沢山あるし、住みやすい場所だからね。大きく育つ魔物もいるし、ケルピーみたいな魔物も、居心地の良さに魅かれてやってくるのかもしれないね」



 マリンの言った事は、説得力があると思った。確かに美味しいものがこんなにもあって、住みやすい森。時に、色々な魔物が集まって来る事があったとしても、何ら不思議ではない。



「さあ、マリン。急ぎましょう。結構、時間使っちゃったから、セシリアはきっと首を長くして待ってますよ」


「うん。そうだね」




 ――――しかしキャンプに戻ると、セシリアの姿は無かった。


 慌てて周囲を確認してみると、設営したテントの中からセシリアの足が飛び出していた。私はそれを見て、セシリアの身に何かあって倒れているのかと思って慌てて駆け寄った。



「セシリア!!」



 中を覗き込むと、セシリアはテントの中で転がって読書をしていただけだった。



「…………あなた達、何していたの? 遅すぎて、もうこんな感じになってしまっているのだけれど」

 

「ごめんなさい!! セシリア!! ちょっと、色々あったから――でも、大収穫ですよ。魚も沢山獲れましたし、ほら! ケルピーのお肉もあるんですよ!」


「まあ! ケルピー。それは珍しいわね。……もしかしてあなた達、ケルピーと遭遇して倒して来たのかしら?」



 私とマリンは、笑って同時に頷くとケルピーの瑞々しい肉を取り出して見せた。


 それからセシリアに、森の中で何があったかを、焚火を熾したり料理をしたりする準備をしながら、興奮気味に話して聞かせた。セシリアは私とマリンの話を、楽しそうに聞いてくれた。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇ケルピー 種別:魔物

馬の魔物。川や湖、またその水辺に生息している。身体にはヒレがあり、水中を優雅に泳ぐことができる。またエラ呼吸と肺呼吸ができる魔物。皮膚の表明は、ヌルっとしているがその肉は、高級品で美味しい。しかし、水蛇の一撃(ハイドロプレッシャー)貫通水圧射撃(アクアレーザー)という、極めて殺傷能力の高い水属性魔法を使う魔物なので、仕留めるには危険。舌が長く、それを目標に飛ばして巻き付け拘束するというような事もしてくる。


貫通水圧射撃(アクアレーザー) 種別:黒魔法

上位の、水属性魔法。指先から光線のように細い水を放水する。しかし、高圧力で発射されている水で、岩をも貫通する威力。触れたとしても、切断されるという恐ろしく殺傷能力にずば抜けた水属性魔法。


水大砲(ウォーターランチャー) 種別:黒魔法

下位の、水属性魔法。下位の水属性魔法の中では強力。勢いある放水で、目標を撃つ。

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