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第182話 『ギゼーフォの森でキャンプ その2』




 ――――ギゼーフォの森。


 この森は、温かく穏やかで気持ちのいい森。小鳥や虫の鳴き声が聞こえ、木漏れ日が差し込む。道中、ウルフのような魔物の足跡を見つけたので、一応警戒はしながら森の中を進んだ。


 いくら、のどかで凶暴な魔物が少ないと言っても、少ないだけで出現しない訳ではない。注意は怠らないようにしないと。


 所々で食べられる野草とキノコを採取した。採取したキノコの中には、テントウ虫が上に乗っかっていたものがあって、それが可愛くて癒された。


 テントウ虫を暫く、指の上に這わせて、それを眺めながら歩く。ウフフフ。可愛い。


 子供の頃、私はよくテントウ虫みたいな可愛い虫や野生の動物なんかとよく遊んだ。そんな遊びが得意になったのも、フォクス村で妹が九尾として生まれてから…………私は村の皆から偽物として扱われたからだ。


 同じ歳程の友達もいなかった。両親にも相手にされず、妹とも親や皆の目があって遊ぶ事なんてできなかった。私が遊ぶときは決まって一人。テントウ虫や、蝶々、カナブンなんか可愛くてよく遊んだ。頭にカマキリを乗せた事もあったっけ。


 そんな事に思いを巡らせていると、草葉にカマキリを見つけた。私はカマキリを掌に乗せると、そこから肩の上に這わせる。


 そして、子供の時のように小さく呟いてみた。



「セシリアは、もう私に意地悪ばかりするから、一時的にですがパーティーを解消します。そして代わりにテントウ虫さんと、カマキリさんを私の仲間にします」



 肩に乗っているカマキリが、片方の鎌を持ち上げて返事をしたかのように見えた。



「ウフフフ。やる気満々ですね、カマキリさん。私の涯角槍とカマキリさんの両鎌があれば、向かう所敵無しですもんね」



 私は森の中を歩きながらも、童心に返って虫達相手に会話を続ける。本当に、幼い頃の私は友達もいなくて、いつも一人でこんな感じだった。でもその代わり、私は誰よりもテントウ虫の可愛さやカマキリのカッコよさに気づいていたと自負している。


 テントウ虫が指の先端まで登ってくると、羽を広げてブウウーーンと飛んだ。周囲をいくらか飛び回ると、テントウ虫は再び、私の手にとまった。



「ウフフフ。テントウ虫さん、どうしたんですか? 何処かへ行こうとしたけど、やっぱり寂しくなって帰って来ちゃったんですか。いいですよー。私もまだ、お魚さん獲りと薪拾いをしないとですし、もう少し一緒に行きましょう」



 今度はカマキリが肩を移動して、私の顔近くまでやってきた。私は顔を少しふるふると動かして、近寄ってきたカマキリに頬ずりするようにして見せた。



「もう、カマキリさんは甘えん坊さんですねー。そんなかっこよくて立派な鎌を持っているのに、実は甘えん坊さんだなんて物凄くギャップがありますねー。ででで、でも……わ……私も、実は甘えん坊なんですよ。……内緒ですよ」



 少し前までは、下ばかり見ていた。自分の事をクズだと思っていた。


 でもセシリアや色々な人に出会って、出会って強くなった……っと思う。まだまだ弱くて駄目な所もあるけれど、以前より肉体的にも精神的にも強くなっている事は確かだと思った。


 私は更にカマキリさんに対して会話を続けた。



「でも本当は私だって誰かに甘えたいんですよ。だって、ルーニ様を助ける為に旅立った時は余裕なんてありませんでした。でも、自分で言うのも変ですが、本当に頑張ったんです、私。……だから、たまには誰かにぎゅっとしてもらって、褒めてもらいたいです。…………それって、おかしい事でしょうか?」



 カマキリを見つめる。すると、カマキリは両方の鎌を振り上げて見せた。



「わあーー!! それって、カマキリさんが頑張っている私の頭を撫でてくれるって事ですか? アハハハ。嬉しいです! でも、ちょっと大きさ的に難しいですよ。だから、お気持ちだけ頂いておきますね」



 首を傾げるカマキリに、思い切り微笑んだその時だった。



「何を頂くんだ?」



 後方からの唐突な声に、足のつま先から尖った耳の先まで電撃が走ったように感じた。額からも大量の汗、背中も伝う。



「おーーい、何を頂くんだい?」



 肩を触られ、私は滝のような汗を流しながらも振り返った。そこには、少し口元が笑っているような感じのマリンが立っていた。



「マママ……マリン!! ななな……なんですか⁉ どどど…どうしてここへ⁉」


「え? どうしてって……ボクもセシリアに鳥を狩ってくるように頼まれていたじゃないか。ほら」



 そう言って、マリンは狩った鳥を見せた。3羽も獲ったんだ。



「まあこれでボクの作業ノルマは達成した感じだし、思いのほか体力に余裕もあるから、君の作業を手伝おうと思ってね。探していたんだよ」


「そ……そうなんですか。ありがとうございます」


「それで、これから何処へ向かうんだい?」



 私はマリンに、野草とキノコの採取は追えたからこれから魚を獲りに行く事を伝えた。因みに、薪は重いので魚を獲ったらキャンプへ戻りながら拾って帰るつもりだ。



「そうか、じゃあボクも手伝うよ。一緒に魚を獲りに行こう」



 こうして、私はマリンと魚が沢山いそうな場所を探索する事になった。



「所でテトラ」


「は……はい?」



 汗が引かない。



「ボクはあまり回りくどい事が好きじゃないので、単刀直入に聞きたいんだけども。君は虫と会話ができるようだけど、その方法を教えてくれるかい?」



 マリンの言葉に私の顔は、みるみると赤くなる。マリンに誤魔化そうとその場しのぎの嘘をついても、きっとマリンは更に突っ込んで聞いてくる。そしてそれが続いて、もしもセシリアの耳に入ったら…………ゾクリ。


 マリン一人に知られる方がいいと思った私は、虫と会話していた経緯について話した。


 でもマリンは、それを聞いて「なんだーー、そうだったったのかー」って言っただけだった。なんとなく目が笑っているようなのは気になるけど……


 マリンは、いったい何処から私と虫のお喋り……っというか、私の独り言を聞いていたのだろう。あまり深く考えると、恥ずかしくてどうしようもなくなりそうだったので、これ以上は深くは考えないように努めた。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇テントウ虫さん 種別:昆虫

お天道様の虫。小さくて赤くて斑点のある可愛い虫。多くの人に親しまれ、愛される虫で冒険者など旅人の衣服やそのポケットに入り込んでいたという事もある。それを見つけると、旅の途中、幸運が訪れるなどとも言われている。根拠のない迷信ではあるが、昔からそう言われ続け愛されている。


〇カナブンさん 種別:昆虫

カナブン、コガネムシ、ハナムグリ。カナブンに似て非なる昆虫がいるので、詳しくない者は皆それをカナブンという。子供の頃に友達の代わりに虫ともよく遊んでいたテトラには、その違いが解るという。


〇カマキリさん 種別:昆虫

テトラが戯れていたカマキリはなんの変哲もない昆虫だが、このヨルメニア大陸にはジャイアントアントなど昆虫系の魔物も存在する。カマキリの魔物も存在するが、かなり危険な魔物でその両腕にある鎌で、重装備の冒険者の首をも刎ねるという。


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