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第180話 『ミャオさん家』



 昨日は、かなり遅くまで盛り上がってしまった。正確に言うと、盛り上がっていたのはバーンさんにセシリアとミャオさん、冒険者ギルドの人達だけ。子供達は、眠くなっちゃって途中で家に帰らせたし、私も酔っぱらっちゃって早いうちに力尽きてしまった。


 それからの事を全くもって思い出せないけど、目が覚めると見覚えのない寝室にいた。毛布から這い出ると、身に纏っていたのは下着だけだったので一瞬取り乱してしまったけど、隣にセシリアが寝ていた事に気づいて落ち着いた。


 ここが何処なのかあれこれ記憶を探っていると、寝室のドアが開く。美味しそうなパンやスープと言った朝食の香りと、クウちゃんの可愛らしい顔が、寝室に覗き込んできた。それですぐにここが、ミャオさんの住いだと悟った。


 3階建ての一軒家で、私達が寝ていた寝室は3階に位置していた。1階は昨日お邪魔した古道具屋さん。なかなか起きようとしないセシリアを無理やりに起こして2階に降りると、テーブルにはそれぞれミャオさんとリア、クウちゃん、ルンちゃんによって朝食が準備されていた。



「おはようございます。うわーー。美味しそうですね!! 朝からご馳走じゃないですか!」


「起きたんニャ!! おはようだニャー。テトラ、昨日は大変だったニャー。もう、朝食にするニャから空いている席に座るんニャ」



 手伝おうとしたけど、すでにリア達がちょこちょこと手際よく食事の準備を行っていて、口を出せる感じではなかった。ご厚意に甘えて、着席しようとすると目を疑う光景がそこにはあった。


 マリンがすでに着席して、両手にナイフとフォークを持って食事が出されるのを今か今かと待ち構えていたのだ。目は一点にテーブルを見つめている。



「マ……マリンは、昨日は何処で眠ったんですか?」


「え? 君とセシリアの隣で寝ていたよ」



 そうなんだ、マリンも3階で一緒に眠っていたんだ。



「さあ、お持ちかね!! 準備ができたニャー!! パンとスープだけでなく、コッコバードの採れ立て卵を使用したハムエッグニャーー! 皆、遠慮なく召し上がるニャよ」


「頂きまーーーす!!」


「これ、ルンが切ったんだよ! この人参も玉葱も、全部ルンだよ!」



 狸の獣人の女の子、ルンちゃんはスープに入っていた野菜をスプーンで掬って自慢げに見せて来た。私は「凄い上手に切ったんだねー」とルンちゃんの頭を撫でて褒めた。一瞬、脳裏に妹の事が過った。フォクス村――私にも、妹がひとりいた。



「さあ、食べるニャー。ムッシャムッシャムッシャ……美味い!!」



 セシリアはまだ眠そうな顔をしている。パンやスープよりも先に珈琲に口をつけた。



「所でこれからテトラ達は、どうするニャ? またこの街を色々見て回るかニャ?」


「いえ、私達今日はちょっと森にでも行って、キャンプをしようと思って」


「キャンプかニャ⁉ それなら、ギゼーフォの森がいいニャ。そんなに危険な魔物も少ないし、穏やかで気持ちのいい森ニャ。しかし、ニャんだかキャンプと聞くとアテニャを思い出すニャー」


「アテニャ? もしかして、ミャオさんもアテナ様のご友人なんですか?」


「そうニャよ。ニャーもご友人ニャ。アテニャの事は、昔からよく知っているニャ。それで、朝食を食べたらすぐにでも森に行くんかニャ?」



 私は頷いて返事をした。すると、ミャオさんは肉と野菜、それに調味料をいくらか準備してくれた。バーンさんやクウちゃん、ルンちゃん、ミラール君にロン君。アテナ様の近くにいる人達は、皆優しくて暖かい。


 食事後、私とセシリアとマリンは、ミャオさん達にお礼を言ってギゼーフォの森へ向かうべく、街を出た。明日まで森で過ごして、もう一度エスカルテの街へ戻る。それからまた旅に出る予定。『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の件もそうなんだけど、先にルキアちゃんとアテナ様に会いにいかないと。


 セシリアが私の顔を覗き込んだ。



「リアは、誘わなくっても良かったのかしら?」


「うん……クウちゃんやルンちゃんと一緒にいて楽しそうでしたしね。カルミア村の今後の復興の事もありますし、リアは忙しいでしょうから。それにリアの目的地は、クウちゃん達がいる場所ですよ」


「……そうね」



 私達は美味しい食事を食べ終わると、早速荷物をまとめてミャオさんのうちから出発した。クウちゃんとルンちゃんは、また戻ってくると言っているのにまるでこれでお別れだというようにずっと手を振ってくれていた。





 ――――ギゼーフォの森に到着した。すると、マリンが言った。



「ここでキャンプをするの?」


「そうですねー。どうします、セシリア?」


「そうね。川がある場所でキャンプを張った方がいいから、もう少し森の中を散策してみましょう」


「はーーい」



 マリンと一緒に、返事をした。


 ――――小鳥の囀りに、気持ちの良い木漏れ日。森の中を歩いていると、せせらぎが聞こえてくる。言って見ると、小川があったので、そこでキャンプを設営する事にした。


 あれ?



「そういえば、マリンって水属性魔法のプロフェッショナルなんですよね?」


「うん、そうだよ。プロフェッショナルかどうかは、知らないけど基本的に水属性魔法しか使わない」


「っていう事は、もしかしてマリンがいれば、川を探す必要ってなかったんじゃないですか?」



 私の言葉にマリンとセシリアは、一瞬固まった。



「有り体に言えば、そういう事になるね。ボクは水生成魔法(クリエイトウォーター)っていう、魔力で水を生成する魔法も使えるしね」


「じゃ……きゃっ!!」

 


 セシリアに、お尻を叩かれた。



「ななな……何をするんです!? セシリア!!」


「アテナ様がおっしゃってたわ。キャンプの目的は、不自由を楽しみ自然に目を向けて耳を傾ける事なのよ。情緒や風情の無い事を言ったらナンセンスだわ。そんな事を言い出したら、こんな森でキャンプしなくても街で宿に泊まればいいじゃないって話になるわよ」



 確かにセシリアの言う通りだった。私は叩かれたお尻とともに、頭も摩って申し訳なさそうに見せた。


 そうこうしているうちに、セシリアはテントに続いて焚火の準備もし始めた。これから、私達3人の楽しいキャンプが始まる。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇コッコバード 種別:魔物

鶏の魔物。魔物と言ってもそれ程、鶏と見た目も大差はない。あえて挙げれば、鶏よりも若干気が強くその身体も大きい。そして丈夫で病気や怪我にも強いので、クラインベルト王国やその他の多くの国では鶏よりも家畜とされている。卵も濃厚で美味しい。冒険者は、普通の鶏の卵よりこちらを好む者が多い傾向がある。


〇フォクス村 種別:ロケーション

テトラの生まれ育った村。クラインベルト領ではあるが、北方の痩せた山々のある場所にある村でドルガンド帝国領にも近い場所。ルキアの住んでいたカルミア村のように獣人が多く住む村で、伝説の獣人の九尾を祭っている。テトラは尾が4本の為、出来損ないと蔑まれ、妹は九尾であった為崇められた。帝国に一度制圧され、その時にテトラや村人は酷い目にあわされ、妹も行方不明となった。


〇ギゼーフォの森 種別:ロケーション

クラインベルト王国にある森。のどかで空気の澄んだ爽やかな森。凶暴な魔物は少なく、兎や栗鼠、鹿や猪に鳥などの動物が沢山生息している。薬に使える植物も多く自生している。アテナは、この森でルシエルと初めて出会った。


〇テトラの胸とお尻

セシリアになぜかいつも、目の敵にされている。


水生成魔法(クリエイトウォーター) 種別:黒魔法

下位の、水属性魔法。魔力で水を作り出すだけの魔法。マリンは、こんな魔法も色々と使い慣れているようだ。

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