表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/1345

第18話 『渓流釣り その3』 (▼アテナpart)





 イユナ釣りを終えて、キャンプに戻った。


 久々の釣りにすっかり時間が経つのも忘れ、夢中になってしまった。やっぱり、たまに釣りに足を運ぶのもいいものだね。


 そんな訳で、私もローザも釣りに没頭しすぎて気づいたら日が暮れだしていた。いくら、この辺は獰猛な魔物が少ないと言っても夜は危険。この辺りは、コボルトも現れると聞く。


 キャンプに戻ると、タイミングを見計らったようにルシエルも戻って来た。イユナを大量に抱えている。ほほう、やるわね。釣果は、お互いに上々のようね。



「こっちも沢山釣れたよ。これで、今晩のご飯は安泰ね。そっちも大量だったみたいね?」



 ルシエルは、釣って来たイユナをドサリと置くと驚いた素振りで、



「アテナ! ローザ! 聞いてくれ!! 大変な出会いがあったんだ!!」


「え? 出会い? 何かあったの?」


「ああ。沢山釣る事はできたんだけどな、そこに至るまでに信じられない事があったんだよ」



 っと、ルシエルは興奮気味に話し始めた。だけど、折角面白そうな話のようなので、食事の時に話しを聞きたいと言った。



「さあ、じゃあ……ちゃっちゃとご飯作っちゃいましょう。まあ、今日は魚を焼くだけなんだけどね」



 ――――焚火点火。火が燃え上がる。焚火のメラメラと燃える炎は、気持ちを落ち着かせる。


 焚火を利用して、釣って来た魚を焼く。その為に魚に刺す串をルシエルが作りはじめる。作り方は、いたって簡単。その辺で適当に木の枝を見つけて来て、ナイフで串状に形を整えてできあがりなんだけど…………作業が早いな。ルシエルは、こういう作業は、得意なようでなんとも器用に素早く作っている。


 串が完成したら、魚にその串を刺して塩をまんべんなくまぶす。そして、焚火を囲む形に地面に魚が刺さった串を突き刺して焼く。直火だ。美味しそう! 釣って来た魚……20匹を全ていっぺんに焼いているので全部食べ切れるのかなって思ったけど、鼻の穴を広げてよだれを垂らしているルシエルを見ていると心配なさそうだね。まあ、私もけっこう食べる方だけど。


 ――――魚の焼ける、いいにおい。お腹減ったーー。


 魚がいい感じに焼けるまで少し時間があったので、その辺で山菜を見つけてきて付け合わせにスープも作った。これがご飯に追加されるだけで、かなりかわる。



「いっただっきまーーす!!」


「頂きます!」


「いやー、それでさ!」


「こら、ルシエル! 頂きますって言って食べましょう」


「うっ」

 


 いただきますって言わないルシエルを注意。それをローザが見て、ニヤリとする。



「そうだぞー、ルシエル。因みに私は、頂きますってちゃんと言ったぞ。私は、日頃から騎士団内での食事でも頂きますは、きちんと言っているからな。そういうのは、騎士団内でも徹底しているからな」



 ローザは、ずいぶんご機嫌だった。よっぽど、渓流釣りにハマったのだろう。



「…………いただきます!」


「はい、よろしいー。ちゃんと、いただきます、できたね」


「それでな! モグモグモグ。実は、最初……ムッグムッグ……釣りをしてもぜんぜん釣れなかったんだけどな! なんで釣れないんだろって、モッチャモッチャ……あれこれ考えてやってると茂みからな。なんと、コボルトが…………」

 


 魚を食べながらのマシンガントーク。魚の破片が、ちょいちょい飛んでくるが…………もういいか。






 ――――ご馳走様でした。


 ルシエルもちゃんと、手を合わせている。イユナの塩焼きは、最高だった。美味しかった。


 そして、ルシエルのコボルトの話は信じられないような話だった。でも面白かった。



「信じられん! 騎士団の任務で魔物の討伐も当然あるが、そんなコボルト見たことがないぞ」


「でも、いたんだよ。凄いこーー、なんだ? ベテランのフィッシングマスターって感じで釣りしてたよ。そんなのが二匹もいたんだよ!嘘みたいな話だが、本当の話だ」


「へえーー、それ凄く面白いコボルトね。本当にそんなコボルトいたんだったら、私も会いたかったなあ」


「だよな! もしかしたら、まだこの辺にいるかもしれないぞ。オレがここへ戻ろうとした時もまだ釣ってたからな」


「うーーーん、魔物が釣りなんてな……信じられんな。ひょっとして、幻を見ていたんじゃないのか? 近くに幻覚を見せる魔族でもいなかったか?」


「いや、本当だって!! 本当にいたんだって!! 王国騎士団の団長なのに、こんな小っちゃい芋虫が苦手なやつがいるっていう、信じられない話もオレは知っているんだから」


「ヤーーーー!! もう芋虫はやめて!!」



 耳を塞ぐローザに、ルシエルが追い打ちをかける。

 


「芋虫にビビッてたら芋虫型の魔物の討伐なんか、どうするんだって話だよ!」


「イヤーーー!! もう、芋虫はいいから!! 食事の時に、芋虫の話はしないで!!」



 ローザが全く信じないのでルシエルは、むきなって言い返している。ローザは塞ぎこんでしまった。


 うーん、ルシエルがこんな嘘をつくとも思えないし、釣りをしていたコボルトっていうのは、本当にいるのだろう。川で魚を手づかみして獲っていたオークも見た事あるしね。



「でもさー、そのコボルト。もしもまだこの辺りで釣りを楽しんでいるなら、この魚を焼いている匂いに釣られて現れるかもしれないよね」



 そう。イユナ釣りをしていたコボルトが今度は、私たちの料理に釣られるっていう。…………フフッ



「何が面白い! アテナ! 何が面白いんだ? コボルトか? コボルトの何かがツボに入ったのか?」


「もう、なんでもない。ちょっと、考え事しただけ」



 ルシエルは、こういう所けっこー見てるから油断できない。初めて出会った時も、恥ずかしい所を見られちゃったしね。気を付けないと。



「ところで、もうアテナもローザも食べないのか? まだ4本も残っているぞ」


「もう、お腹いっぱい。私は、十分満足したわ。あとは、ルシエルとローザで食べて」



 膨れた腹を摩る。ちょっと食べすぎた。…………だって美味しかったんだもん。しょうがないよね。



「私ももう駄目だ。これ以上は食べれん。ルシエル、食べれるなら食べていいぞ」



 それを聞いて喜ぶルシエル。釣りをしていたコボルトもそうかもしれないけど、こんなに飯を食うハイエルフも見たことがないわと思った。



「じゃあ、いただきまーーす」



 ルシエルがそう言って、魚が刺さった串を引き抜いて食べようとした瞬間、目の前に魔物が森から飛び出して来た。テント設営時に魔物避けの聖水を辺りにまいてはいるが、100%回避できるわけではない。



「魔物よ! 気を付けて! ルシエル! ローザ!」



 剣を抜いて構える。っが、その魔物と向き合った途端、ルシエルは弓を下げて私達の前に身を乗り出した。



「待って! こいつらは、例の釣りコボルトだ! やめてくれ。傷つけないでくれ」



 嘘でしょ⁉ まさか、言ったそばから。…………でも、よく見ると確かに魔物はコボルト。数も2匹。しかも、手には武器ではなく釣り竿を持っている。ルシエルの話と一致している。そして、向こうも明らかにびっくりしている。



「待て待て。何もしないでくれ!ほら、オマエら」



 ルシエルが、残った焼き魚を全てコボルトに手渡した。



「丁度、一人2本だな。おすそ分けだぞ。色々釣りの極意を教わったからな。感謝の気持ちだ」


「ええーーーー!! ふざけるな!! ルシエル!! そいつは、魔物だぞ。コボルトだ。ゴブリンやオークと一緒だぞ! そこをどくんだ! 王国騎士団として、魔物を討伐してやる」


「やめろって! こいつらは、そーだ……そうだな……そうだ! オレの釣り友だ!」



「…………釣り友だと?」



 コボルトを討伐しようとするローザにルシエルは、「釣り友だ」って答えるのを聞いて笑って噴き出してしまった。



「あっはっはっは!! 確か、狩り友もいなかったっけ?」

 

「ああ。ヘルツな。ヘルツは、狩り友で、こいつらは釣り友だ。戦う時は、戦うが戦わなくていい時は戦わなくていいと思うぞ。なあ、ローザもそう思わないか?」


「ぐぬぬぬぬぬ」


「そうだね。私もルシエルの言う通りだと思うよ」



 ニコリと笑うと、2匹のコボルトは顔を見合わせた後、焼き魚を受け取って去っていった。



 私もたまに魔物と戯れる事はある。キャンプしている時に会って餌をあげる事もある。基本的には人間と魔物は相容れない者同士っていう常識がこの世界にはある訳だし、常識として理解している。だけど、人間でも変わり者がいるように、魔物にも変わり者がいるんだなと改めて思った。



 …………そう、エルフにもね。









――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アテナ 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、物語の主人公。キャンプが趣味で、今は薬草を使用したお茶作りもマイブーム。ギゼーフォの森で知り合ったルシエルと、エスカルテの街で知り合ったローザとパーティーを組み行動を共にする。エスカルテの街の冒険者ギルドでマンティコア討伐依頼を受注し、達成。その後、ルシエルやローザと共に釣りを楽しむ事にした。本命はもちろん、キャンプなんだけどやっぱりのんびりと川のせせらぎを聞きながらの釣りは、いいなあっとしみじみ思う。


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

Fランクの冒険者なりたてのホヤホヤで、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も使える。外見は長い髪の金髪美少女だが、黙っていればという条件付き。一人称は、「オレ」で男勝りな性格。特別な弓を所持しており、ナイフと共によく使いこなす。ギゼーフォの森でアテナと知り合い、エスカルテの街で正式な仲間としてパーティーを組む。タユラスの森で、ローザよりも魚を釣り上げてぎゃふんと言わせようと釣りに没頭するが、とんでもないフィッシングマスターのコボルトに遭遇。一瞬、弟子入りする。


〇ローザ・ディフェイン 種族:ヒューム

クラインベルト王国、王国騎士団の団長。現在はアテナが自家製の薬茶を売る為に立ち寄ったエスカルテの街の治安維持の任務についているが、アテナと出会った事により任務を副長のドリスコに放り投げてアテナについて行った。外見は赤い髪のショートヘアで凛々しい感じ。20匹程度のゴブリン相手なら、一人で倒せる程の剣術の持ち主。マンティコア討伐では、いい所は見せられなかったので、釣りで挽回しようと意気込む。最初、釣り餌が芋虫で恐怖したが、魚を釣り上げる事もできて、徐々に釣りの楽しさにのめり込む。


〇ヘルツ・グッソー 種別:ヒューム

狩り好きの冒険者。団体行動は、あまり好まないのか一人で活動している。クラスは【アーチャー】でボウガン使い。ルシエルとは、彼女が狩りをしていた最中出会い、狩り友となる。その後、一緒に大型のグレイトディアーを狩ろうとするが、アテナに救われてなければそのグレイトディアーに殺されていた。本作12話に、登場。


〇コボルト 種別:魔物

人型の犬の魔物。フォルムも行動もゴブリンによく似ている。だが、洞窟や洞穴を根城にする事はゴブリンやオークとさほど変わらないが、コボルトは集落を作る群れもある。ゴブリンやオークと一緒にはされるが、残忍さはそれほどまでではなく友好的な個体も存在する。アテナ達が今回釣りをするタユラスの森でルシエルが出会ったコボルトは、なんと釣り竿を持っていた。そして、凶暴性も感じられなかった。ルシエルは魚が釣れず、上手に魚を釣りあげるコボルトが気になって仕方がなくなる。もちろんコボルトが釣りをするなんて、知られていない事実。ルシエルは、釣りのコツを教えてくれた2匹のコボルトに感謝の気持ちを込めて、いい感じに焼き上げた焼き魚を贈った。


〇イユナ 種別:魚

イワナとアユを掛け合わせたようなハイブリットな川魚。空気の綺麗な森にある渓流に生息しているので、どちらかというとイワナよりの魚なのかも。塩焼きにすると美味しい。警戒心が強い魚で釣るためにはそれなりの熟練がいり、味も美味しいので釣り人に人気の魚。アテナ達は、大漁に釣り上げたイユナをやっぱり塩焼きにして食べた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ