第178話 『宴会 その1』
夜になり私達は、ロン君の働いているお店に行って皆で食事をした。お店はオーナーのご厚意で貸し切りにしてくださった。
沢山の人が、食事会に出席してくれた。セシリアに、マリン。子供達はリア、ミラール君、ロン君、クウちゃんに、ルンちゃん。更にバーンさんが街へ帰って来たので、バーンさんや他のギルドの方々も10人以上参加してくれた。
あとそうそう、参加と言えばクウちゃんの雇い主で古道具屋のミャオさんも、なんだか色々なお酒を持ってやってきた。ミャオさんやバーンさん、ギルドの人達が一緒飲んでいる場所はもう宴会みたいな状態になっちゃっている。私達もすでにちょっぴりお酒は頂いちゃっているので、宴会と言えば宴会なのかもしれないけど。
「盛り上がってますねー。ロン君の働くこのお店のオーナーさんには、貸し切りにしてもらって正解でしたね」
「そうね。フフフ」
あれ? セシリアの様子が可笑しい。見ると、手にワインを持っていた。そう言えば私やマリンは、リアが友達と再会できた事もあったから、そのおめでたい感じで初めにちょっとお酒を飲んだだけだったけど…………
セシリアはずーーっとあれから、休みなくワインを飲んでいる気がする。
「ちょっと飲みすぎじゃないですか? セシリア」
「え? そうかしら? でも、今日はそういう日でしょ?」
「うーーん、まあそういう日って言えばそうですけど……本当に大丈夫なんですか? ね? マリンだってそう思いますよね?」
「おん? モッチャモッチャモッチャ…………モッチャモッチャ……え? なにが?」
マリンにもなんとか言ってもらおうとしたが、マリンは両手に骨付き肉を持って夢中になってご馳走を片っ端から貪っていた。セシリアもなかなかのマイペースな性格だと思うけど、マリンはもっとマイペースだと思った。
「やーー、やーー、やっとるかねーー?」
「ニャーー、ニャーー、ニャっとるかねーー」
酔っ払いのギルマスと、猫の獣人が仲良く肩を組みながらフラフラとこっちへやってきた。私がお酒をセーブしてあまり飲んでいない事に、バーンさんとミャオさんは気づいてお酒を進めて来た。
「テトア!! お前はよくやった!! よくあの『闇夜の群狼』のアジトを潰してくれた。これは、奴らを壊滅させる大きな第一歩だ。いや、それだけじゃない。俺達冒険者ギルドやこの王国がずっと追っていた、バンパやゴルゴンスを逮捕する事もできた。俺は一つの街のギルドマスターとして、お前ら3人にお礼が言いたいんだ!」
「は……はい、ありがとうございます」
バーンさん、かなり酔っぱらっているようだけど、大丈夫かな? そう思った刹那、ミャオさんが声を張り上げた。
「ニャニャ!! ニャーン隊長!!」
「どうした? 何かあったか、ミャオ隊員!!」
「大変ニャ!! テトラ隊員がお酒を飲んでないニャ!!」
「それはいかん!! 君は、この国にとって大いなる貢献を果たした!! なのに酒を飲んでいないだなんて! ミャオ隊員!!」
「いや、ちょっと……私、お酒それ程、強くないんです。だから……」
「飲むニャー、飲むニャー! これはニャーの店でも、特定のお客さんにしか売らニャイ特別な、マタタビ酒ニャ!! 飲んでみるニャーー」
バーンさんとミャオさんが私の両側に座って、迫ってくる。そしてミャオさんが私にお酒を飲ませた。
「ちょっと……ミャオさん! だから、私お酒はダメ……うっ、やめ……う……ごくごくごく」
「いい飲みっぷりニャ? 美味いかニャ?」
「う……美味いです!!」
ミャオさんの自家製だと思われる、マタタビ酒の味は物凄く美味だった。少し離れた所から、それを見て笑っていたセシリアが、私の飲んだマタタビ酒が美味しいと知って、入り込んできた。
「ミャオさん、私にもそのお酒を頂けるかしら」
「ほっほー!! セシリア。お前は酒がいける口かー!! いいね」
もうセシリアもバーンさんもミャオさんも、皆飲んだくれの集まりになっていた。でも、マリンはずっと一心不乱に料理を貪っている。
私は立ち上がった。すると、足がよろけた。うう……完全に酔っぱらっている。
「きゃっ!」
「おっと、大丈夫か?」
「あ……ありがとうございます」
転びかけた所を、横にいたバーンさんが支えてくれた。御礼を言うと、バーンさんは抱き着いてこいとばかりに、私に対して両手を広げた。その光景にセシリアとミャオさんは爆笑している。更にセシリアは、なぜだか解らないけど私のお尻をバシンっと叩いた。
もう、駄目だ。ちょっとこの酔っ払いゾーンから脱出しよう。私は逃げ場を探して店の中を見回す。すると、丁度トイレから帰ってきたリアと目がった。
アルコールで足取りがおぼつかない。私はゆっくりと誰も使っていない、隅にあるテーブルにリアと一緒に座った。そしてルーニ様の事や今までの事、カルミア村の事などの事を話した。
「暫くの間ですが、私もこれからミラールやクウ達と一緒に、バーンさんにお世話になろうと思います。そしてこの発展した街で、カルミア村を復興させる方法を考えていこうと思います」
「そうですか。いいと思いますよ。でもそれだとルーニ様のもとへは戻らないという事ですか? リアのお姉さんのルキアちゃんと再会もしなくていいんですか?」
リアは、微笑んで俯いた。
「ある程度、やるべき事が済んだらルーニ様の所へ戻りたいと思っています。ルーニ様は私の事を、友達だって言ってくれましたし、一緒にお城に住もうとも……」
「リアにその気があるなら、とてもいいと思います。きっとリアが戻ればルーニ様は、喜ばれますよ。ルーニ様は本当に、リアの事を良き友人だと思っていますからね。それにもしかしたら、ルーニ様が望まれているように、ルーニ様のもとでカルミア村復興の為に何ができるか探した方が、近道になるかもしれませんよ。ルーニ様もきっと協力を惜しまないでしょうし」
そう――カルミア村の復興が目的なら、ルーニ様のもとでルーニ様の為に働いて、それで折を見てルーニ様に復興の事を頼んだ方が、合理的でカルミア村を復興させるのに近道だと思った。そうすればその後も、リアの活躍できる世界ももっと広がっていく。
「ルーニ様に頼ってもいいのでしょうか? 厚かましくないでしょうか?」
「ぜんぜんいいと思いますよ。厚かましいと思うのであれば、その分を他の何かで返せばいいんじゃないでしょうか。私は、リアが自分の村を復興させたいって思いは厚かましいとは思いませんが……だってそれは、ルーニ様にとっても自分の国を救う事に繋がる事だから……。それにルーニ様とリアは、ご友人ですよね。友達なら助け合うべきです」
そう言うとリアは、少し考えるように俯いた。そして、少しすると顔を上げて、にこりと微笑んだ。
「はい。私とルーニ様も、テトラとセシリアみたいに信頼できる関係になりたいです」
「アハハ。あとルキアちゃんの件だけど、それは私に任せて。私がルキアちゃんを探し出して、リアが無事で元気に暮らしていると伝えてあげます。こう見えて私、探し出すのは得意なんですよ」
リアは「ありがとう」と言って、私に抱き着いた。私は胸に抱き着いたリアを優しく見下ろした。すると、リアの尖った耳が目の入ったので可愛いなって思った。
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〚下記備考欄
〇バーン・グラッド 種別:ヒューム
エスカルテの街の冒険者のギルマス。もと、Sランク冒険者で大剣使い。アテナの父、セシル王に忠誠を誓うがアテナとは、友人のように接してる。軽い性格で、いい加減に見えるがその実は強い責任感と正義感に溢れている。また子供があまり好きではないと見せかけて、実は子供好き。
〇ミャオ隊員
バーンやミャオが一緒に酒を飲んで宴を開くと現れる、酔いどれバーン隊の隊員。悪ノリからの悪酔いというコンビネーションを見事に繰り出すぞ。
〇ルーニ・クラインベルト 種別:ヒューム
クラインベルト王国第三王女。セシル王とエスメラルダ王妃の間に生まれた子で、モニカ、アテナ、エドモンテの妹。アテナに憧れており、母エスメラルダにはそれがよろしくないと思われている。でも、ルーニは気にしない。
〇ルキア・オールヴィー 種別:獣人
猫の獣人でカルミア村出身。リアのお姉さん。現在は冒険者になってアテナやルシエルと旅をしている。現在地はノクタームエルド。
〇喰ってっ亭 種別:ロケーション
ロンの働いているお店。昼から営業をしており、格安ランチは人気。夜も食事の他にお酒も飲む事ができるお店。バーン及び冒険者ギルド関係者もよくこのお店にやってくる。
〇バンパやゴルゴンス
巨大犯罪組織『闇夜の群狼』のメンバー。バンパは幹部で、アジトにいた所をテトラやバーンに攻められ逮捕された。身柄は王国騎士団へ引き渡された。
〇マタタビ酒 種別:飲み物
マタタビのお酒。猫はマタタビで酔うというがそれは猫の獣人でも同じ。なので、マタタビ酒ともなればそりゃあもう……アレですわ。めちゃ凄いですわ。




