第177話 『スイーツスイーツ』
昼食をとった後、服屋や小物屋、それに本屋を見て回った。マリンは本を立ち読みしたいというので、後でちゃんと追いかけてくるよう伝え、私はセシリアと二人でアウトドアショップへと向かった。
入店すると早速、色々なキャンプ用品が目に入った。ミャオさんのお店でも、いくつかそういう物は置いてあったけど、やっぱり折角大きな街に来たのだから、専門店も色々と見てみたい。
「こうやって見ていると、私達の旅の始まりを思い出すわね」
「そうですね。ルーニ様を助け出す為にお金は少しでも必要になるかもしれないからって、節約して野宿しましたもんね。それからもちょくちょくと野宿するようになって、 徐々にキャンプ用品を揃えていって――――懐かしいです」
「そうね。テトラなんて、キャンプをし始めた頃は、夜とか怖がって常におどおどしていたのに。今ではすっかり平気になったみたいだし、頼りがいもでてきたわ」
「え? 私、そんなにおどおどしてました?」
「ええ。テトラは狐の獣人なのに、私にはまるで怯えた兎さんに見えていたわ」
セシリアは、にこにこしながら言った。うーーん、なんだか話題が嫌な方向へ向かって言っているような気がする…………セシリアの私を見る目が、おかしい。たまに私に対して発動する意地悪な感じになりつつある。もうすっかり付き合いも長いものになってきたので、そういうセシリアの感じはつかめるようになってきたのだ。
私は、強引に話題を変えた。
「ほら、セシリア! カンテラが売ってますよ。しかも沢山あります」
「ほんとね、可愛いのもあるわ。……それにこれ、見てテトラ」
セシリアは商品棚から三脚を手に取った。
「焚火で使用する鉄製の三脚ね。折り畳み式で持ち運びやすいし、これなら焚火を始めてサッと取り出して鍋やヤカンなんかも吊り下げられるわ。鉄だから燃える心配もないしね」
セシリアはそう言って、暫く三脚を見つめた。
「買おうかしら? この三脚」
「気に入ったのなら、いいんじゃないですか。私もこれ、買おうかなと思って――」
私は手にとったフライパンと、折り畳み式チェアをセシリアへ見せた。
「このフライパンは、ドワーフの職人によって仕上げられた特殊加工のフライパンらしくて、焦げ付きにくく錆付きにくく、美味しく調理できるみたいです。折り畳みチェアに関しては、セシリアと一緒に買ってお揃いにしたいです。どうでしょうか、そういうのは?」
「まあ、いいわね。じゃあ、買っちゃおうかしら。でも、それならこの三脚も含めてどんな感じか早速使ってみたいわよね」
「いいですね。じゃあ思い切って買っちゃって、街の近くでキャンプしませんか?」
「フフフ、いい考えね。今夜は皆で食事する事になっているから、明日この街の近くでキャンプしましょう」
「はい、いいですね! 楽しみになってきました!」
私はマリン用にもひとつ、折り畳みチェアを購入した。お会計が済むと、店を出た。
「これからどうしますか? セシリア。夜まではまだ、時間があるようですけど」
「そうね。じゃあちょっとスイーツでも食べに行きましょうか」
「ほう、スイーツとな?」
セシリアがスイーツと言ったと同時に、後ろから声がした。私はびっくりして悲鳴をあげて振り向くと、そこにはマリンがいつの間にか立っていた。そして、その手には本を持っている。どうやら、先程立ち読みしていた本屋で購入した本を、早速読んでいるようだった。
「びっくりしましたよ、マリン―!! いきなり背後から急に現れるから、心臓が止まるかと思いました!」
「ごめんごめん。君達の後ろ姿が見えたからさ」
マリンは本屋を出た後、私達が色々な店を見て回ると言っていたのを思い出して、沢山の店が立ち並ぶこのメインストリートに探しに来たらしい。
エスカルテの街は、大きな街で人も多く、ごった返していて私達が何処にいるのか探すのは実は困難だったのではないかと、後で気付いた。だけど、マリンは一瞬で私達を見つけたらしく、それに驚いた。
「どうやって私達を見つけたんですか?」
「え? それはなんとなくかな? あと、近くにいればテトラもセシリアもメイド服だからね。すぐに目には付くよ。そんな事より、さっきスイーツって言ったよね。スイーツってなんだい? そっちの方が今のボクにとっては、重要な話だよ。スイーツって何なのか、早速説明してもらおうじゃないか?」
うーーん。普段眠そうな目をしているマリン。その目がスイーツという単語を聞いてからは、激しく光を放っている。セシリアが笑いながら答えた。
「さっき、色々なお店を見て回っていた時に、美味しそうなメニューのあるカフェを見つけたの。だから、そこに今から行こうかって話をしていたのよ。良かったら、マリンもいく……」
「行くっ!!」
即答――マリンは、食い気味に答えた。私とセシリアはそんなマリンを見て、笑った。
カフェに到着すると、中はかなり混んでいた。
「いらっしゃいませー」
案内されて席に座ると、可愛いウェイトレスの女の子が注文を取りに来たので、それぞれドリンクとお目当てのスイーツを注文した。
私は美味しそうなプリンに、生クリームやフルーツがふんだんにあしらわれたプリンアラモードを注文した。セシリアも沢山の様々なカットフルーツとベリーが乗っているフルーツタルトを注文し、マリンは悩みに悩んだ挙句、レアチーズケーキを注文していた。
早くスイーツを食べたくて、落ち着かない私達3人。暫くして、スイーツが運ばれてくる。私達は喜びの声をあげ手を叩くと、自分が注文したスイーツをまず一口、食す。すると、あまりの甘さと美味しさに歓喜の声をあげてしまった。
「おいしーー!!」
「こんな美味しいものを食べられるなんて、ボクは幸せだよ。折角だし、ボク、チーズケーキをお代わりしようかな?」
「それならベイクドチーズケーキっていうのがあるわよ」
「いいね。それじゃ次はそれを食べよう」
「マリンがそういうつもりなら、私ももう一つ……ザッハトルテとか今度はチョコレート系のケーキを食べようかしら。テトラは……」
セシリアは、こちらを振り向きながら言葉を続けようとしたけど、私の胸を凝視して固まった。
「……やっぱりテトラは、これ以上育ってもこまるから、もういらないわよね」
「ええーーー!! ななな……なんでそんな意地悪言うんですか⁉ 私も食べたいですーーー!! お代わり頼みたいですよー!!」
「フフフ。だってそれ以上、大きくなったら戦ったりするのも大変になるわよ」
「っもーーう!! いいの!! 大丈夫です!! 絶対、私も食べますから!!」
私は必死になってセシリアに反論すると、再び注文する為に必死に手を振って、ウェイトレスを呼んだ。




