第176話 『エスカルテの街で再会』 (▼テトラpart)
――――エスカルテの街。私とセシリア、マリンの3人はリアとミラール君に付いて街を回った。
リアはまず、ミラール君に連れられて、ロンという食事処兼、酒場で働く男の子と、子供達が集まる学校に通うルンという女の子に会いに行った。リアはその子達に会うなり抱き着いて、再会できた奇跡に涙を流して感謝した。
ロン君は、リアに合うなり驚いた顔で叫んだ。
「リア!! 生きていたなんて――夢みたいだよー!! 本当に良かった、良かったよ!」
「私もだよ、ロン! ロンとも無事再会できて本当に良かった」
「そうだ!! リア。お前に伝えなくちゃならない事があるんだ。お前の姉ちゃん、ルキアなんだけど、実は生きているんだ!」
ロン君の言葉を耳にして、リアは満面の笑みで微笑んで返した。
「まさか? なんだよ、もしかして知っていたのか?」
「そういう事だ」
ミラール君が、くっくっくと笑った。
「ミラール! そうか、ミラールが言ったんだなー。くっそー、おいしい役を取られちまったよー」
ロン君も加わって、ルンという子のいる学校へと向かった。そして、またリア達の感動の再会に付き添っていた私は、再びうるうると目を潤ませてしまった。
ルンという女の子は、リアの姿を見るなり、その時手に持っていた物をその場に全部落っことして、大きな目を更に大きくさせて暫く固まっていた。そして、リアが呼びかけるとルンちゃんは泣き出してリアに抱き着いた。
それから、最後のクウという女の子に会いに、彼女が働いているというお店にお邪魔した。そこは、街の大通りから少し外れた場所にある古道具屋というか雑貨屋のようなお店だった。店主と思われる店番をしていた女の子は可愛らしくて、私やリア達と同じく獣人だった。可愛らしい猫の獣人。
「いらっにゃ……いらしゃい。何かお探しかニャ?」
「ミャオ。クウはいますか?」
ミラール君が進み出て行った。
「ニャニャ⁉ なんだ、ミラールかニャ。クウは今、ちょっとお使いに出てるニャ。何かあったんニャ?」
「ミャオさん、実はですね――――」
ミラール君とロン君は、リアとルキアの事を説明した。ミャオさんはそれなら、もう少しすればクウという子は帰ってくると教えてくれた。そしてそれまで、このままお店で待っててもいいと言ってくれたので、待つ事にした。
その間セシリアは、なんだかそわそわしている様子だった。
「どうしたんですか? セシリア?」
「うーーん、何ていうのかしら。最初はリアの感動の再会に同席するのはいいと思っていたのだけれど、なんていうのか……私達、お邪魔じゃないかしら」
「えーー。そうですかね? 一緒に感動の再会をお祝いしたくありませんか?」
「リアからすればそれは、嬉しいかもしれないけれど。…………はっきり言って、それって野暮じゃない?」
セシリアにそう言われて、確かにそうかもしれないと思った。私は店の中で魔導書のようなものを見つけて読み込んでいるマリンに声をかけた。
「マリン」
「うーーん? なんだい?」
「私達、ちょっと何処かに行こうかなって思っているんですけど?」
「えーー? どうして?」
私はリアやミラール君に聞こえないように、小声でセシリアに言われたことをマリンに行った。マリンは「なるほど」っと言って読んでいた本を畳んで元あった場所に戻した。
「リア、私達ちょっと出てますね」
「え、どうして? 何かあったんですか?」
「ううん、別に何もないんだけど――折角のリアの感動の再会だもん。積もる話もあるだろうし」
リアは、はっとして何か言おうとしたがミラール君が、察してリアの肩を叩いた。
「リア。テトラさん達は、僕達に気を遣ってくれているんだから甘えさせてもらおうよ。クウに会った後、レーニとモロにも会いに行くわけだし……だから、ね」
「……うん、そうだね。じゃあ、また晩御飯の時に」
リアがそういうと、ロン君が言った。
「それならいい所がある。僕が働いている店で待ち合わせっていうのは? きっとオーナーに言えば、サービスもしてくれるし」
「じゃあ、それで決まりですね! 夜、そのお店で集合という事で! リア、皆、それじゃあまた後で」
手を振るとリア達もそれに応えてくれたのを見て、私とセシリアとマリンは、店を出た。
店を出ると、丁度店に入ろうとしている女の子とすれ違った。私はその子がクウって子なんだと思い、顔を見る。
「あっ!!」
思わずその子の外見に、びっくりして声をあげる。女の子は、店に入る手前で不思議そうな顔をして立ち止まった。
「あ……あの? 何かご用でしょうか?」
「ううん。そ……そうじゃないんですけど…………もしかして、あなたがクウちゃんですか?」
「え? はい。そうですけども」
「やっぱり――お店の中で、あなたを待っている人がいますよ」
そう言って、私はセシリアとマリンと一緒に、お店をあとにした。
「さあて、どうしましょうか? まだお昼前ですしね。お昼ご飯、食べに行きますか?」
「ボク、本屋に行きたいーー」
「そうね、じゃあまずはお昼ご飯を食べに行きましょうか。この街は大きいから、きっと色々なお店があるわ」
「ボク、本屋に行きたいんだけどーー」
「はい! では参りましょう!」
セシリアは、くすりと笑った。
「なんですか? セシリア」
「さっきあの可愛らしい女の子? お店の前で、クウとすれ違った時のあなたの顔があまりにも滑稽だったから。フフフフフ」
「こここ……滑稽ってなんですかー!!」
私はセシリアにプンスカした。
「本屋に行きたいな――」
「フフフフ。びっくりした顔と、嬉しそうな顔が合わさっていたから……フフ。なんとも言えない表情だったわ。フフフ」
「っもうーーー。だって、しょうがないじゃないですか。あのクウちゃんって子、私と一緒、狐の獣人だったんですからー。びっくりと嬉しさが同時に込み上げてきたんですよー」
セシリアはまた笑い始めたので、私はなんだか解らないけど悔しくなって、セシリアの腕にしがみついて歩いた。
「ねえ、テトラ、セシリア。聞いてる? ボクは、本屋にいきたいんだけどさーー」
そんなやり取りをする私とセシリアの後ろで、マリンがそう言って、眠たそうな目をしながらずっと訴え続けていた。
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〚下記備考欄
〇テトラ・ナインテール 種別:獣人
狐の獣人で、九尾と言われる伝説の獣人。しかし、九尾は本来9本の尻尾を持っているがテトラは4本しかない。妹は、9本の尻尾と絶大な魔力を秘めて生まれてきた為、できそこないなどと言われて育った。クラインベルト王国の王宮メイドで第三王女ルーニの誘拐事件をきっかけに大きく成長し、誘拐を行った盗賊団『闇夜の群狼』を潰す為に旅に出た。そして、クラインベルト内で最も大きい賊のアジトをバーン達と共に潰した。棒術や槍術の使い手。
〇セシリア・ベルベット 種別:ヒューム
黒く長い髪に、眼鏡が印象的。クラインベルトの国王陛下直轄の王宮メイド。ルーニ誘拐事件の際にテトラと行動をすることになり、当初はテトラのヘタレぶりに嫌悪していたが次第にそれは誤りだった事に気づいていく。今ではテトラを誰よりも信頼しており、賊に囚われ奴隷にされている子供達を助けたいという彼女の気持ちに感銘を受けて行動を共にしている。戦闘術や魔法など使用できないが、ボウガンの腕前はいい。
〇リア・オールヴィー 種別:獣人
猫の獣人で、カルミア村出身。ルーニ誘拐事件の際に、ルーニと共に牢に閉じ込められていた。その後は、ルーニの親友となる。カルミア村を賊に襲われた時に両親を殺められた。でも、彼女の姉は……
〇マリン・レイノルズ 種別:ヒューム
Cランク冒険者で、水属性魔法の得意なウィザード。オズワルト魔導大国の出身で魔導都市マギノポリスでは天才と噂されていた。なのに彼女がなぜ、水属性魔法のみを好んで使用し、国を出て冒険者になりクラインベルトまで旅を続けてきたかは不明。冒険者としてこれまでに何度か他の者とパーティーを組んだ経験があるが、裏切られる事もありいい思い出がなかった。でも、テトラやセシリアと知り合ってからは、いい友達ができたと思っている。銀髪三つ編みで、眼鏡をかけており水色の三角帽子とローブを身に着けている。水色という事を除けば、典型的な魔導士少女に見える。
〇ミラール 種別:獣人
狼の獣人でカルミア村出身。以前、賊に村を襲われた時にルキアと共に奴隷にされかけた。アテナに偶然遭遇し、助けられた後はエスカルテの街でバーンの庇護のもと生活する。そして、アテナに憧れを持つところからバーンの冒険者ギルドの仕事に興味が広がり、今ではバーンの弟子として冒険者ギルドの業務をこなしている。
〇ロン 種別:獣人
犬の獣人でカルミア村出身。上記、ミラールと同くエスカルテの街でバーンの庇護のもと暮らしている。バーンにたまたま食べに連れていってもらった飲食店の料理に感動し、そこへ弟子入り。今ではその店で住み込みで働いている。クウやルンもその点で言えば同じだが、ロンが一番最初にやりたい事を見つけてバーンの家を出た。
〇ルン 種別:獣人
狸の獣人でカルミア村出身。上記、ミラールと同くエスカルテの街でバーンの庇護のもと暮らしていたが、現在はクウと共にミャオのお店に住み込みで働いている。でも、クウと比べるとお手伝い程度で一番幼い彼女は、エスカルテの街とクラインベルト政府が運営しているという学校に日中は通っている。
〇クウ 種別:獣人
狐の獣人でカルミア村出身。上記、ミラールと同くエスカルテの街でバーンの庇護のもと暮らしていたが、現在はルンと共にミャオのお店に住み込みで働いている。バーンのお使いでミャオの店を訪ねた時から、ミャオの仕事に興味を持っている。もともと商売が好きなようだ。ルキアを含めた5人の中では一番しっかりしていて、皆のお姉さん的なポジション。
〇レーニとモロ 種別:獣人
ミラール達と同じくカルミア村出身で、同じように賊に奴隷として捕まり奴隷として売られかけた。賊に馬車で運ばれていた所を偶然通りかかったアテナが見つけ助け出そうとしたが、レーニとモロは最悪な環境の中、既に息絶えていて助ける事ができなかった。二人は、バーンとエスカルテの街の冒険者によって街近くの墓地に手厚く葬られた。
〇ミャオ・シルバーバイン 種別:獣人
猫の獣人で、アテナの友人。もちろん、ルシエルやローザとも友人になった。エスカルテの街で雑貨屋を営んでいる商人。最近は、クウとルンを雇い弟子にした。ミャオの店は3階建てで住居と一体になっているため、そこにクウとルンも最近は住んでいる。
〇エスカルテの街にある本屋 種別:ロケーション
街内にはいくつか本屋があるが、そのうちの何店舗かにはよくクウが立ち読みをしに出没する。彼女は商売に興味がありその関係の書物を読んでいる。しかし、勉強に疲れると恋愛小説を読んでいるようだ。以前、その姿を近所の奥さんに見られたがその際に、さっと恋愛小説を隠した。どうやら、それは知られたくないようだ。




