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第174話 『ブシドーvsストライカー その1』




 キョウシロウはミューリやファムと別れると、ロックブレイクで食糧と水を買い込んだ。そして、恩人が待っているグライエント坑道へ向けて出発した。


 途中、洞窟内で30匹程のゴブリンに遭遇した。キョウシロウは抜刀し、襲い掛かってくるゴブリンを次々と斬って捨てた。ゴブリン30匹などキョウシロウの剣の腕の前には、まったくもって取るにも足らない存在だった。


 キョウシロウは、斬り殺したゴブリン達の骸が転がっている中で、刀に付着した血を拭いて鞘にしまうと、水筒を取り出してゴクゴクと喉の渇きを潤した。


 うっかり空を見ようと思って、見上げてみたが何も見えない。当たり前だ。松明を掲げて見えるのは洞窟の天井。キョウシロウは仕方がないと諦めて、大空を見上げているつもりでその天井に暫く目をやった。


 アテナやルシエル――それにミューリやファムはとんでもなく強かった。いつまでも仲間として、一緒に肩を並べて戦っていたいと思えるような強さだった。中でも特にアテナの顔が浮かぶ。焚火に招待してくれて、お茶を入れてくれた。剣の腕前は常人のものでは無かった。達人……いや、それ以上かもしれない。今更ながら、再びアテナと出会う事があれば誰に剣を習って、どういった稽古をしてきたのか尋ねてみたい。そして、可能ならば剣を交えてみたい。剣に人生を費やした者なら、誰しもが自分が認めた相手と試合ってみたいと思うものだ。



「アテナ……」



 二振りの剣を帯刀していたが、あの剣は見事なものだった。一級武器か、特級武器。アテナは、自分の事を冒険者だと言っていたが、果たして一介の冒険者があんな物凄い剣を所持できるのか? あんな剣をいったい何処で手に入れたのか?



 ………………



 ふと思う。アテナの剣と、俺の剣。果たしてどちらが上なのか――――


 アテナは、アシッドスライム討伐の際に火属性魔法、そして頬を腫らして帰って来たルシエルに回復魔法もかけてやっていた。多種様々な魔法を使う上に、あの達人レベルの剣術。そんなアテナと俺とでは、もし試合っても勝負にならないかもしれない。しかし、剣のみの勝負となればどうだろうか? 僅かに俺の方が勝っているのではないだろうか? …………俺もこれまで剣で生きてきたという自信がある。例えばもしも試合ってみたいと申し出て、アテナは剣だけで勝負をするという俺の勝手な望みを、受け入れてくれるだろうか?


 キョウシロウは、そんな思いを巡らせながらもグライエント坑道を目指した。そしてゴブリンの群れを倒した場所から3時間程歩いた所で、再び殺気を感じた。



 ギチギチギチギチ……



「魔物か?」



 ギチギチギチギチ……



 キョウシロウは、暗闇の先を松明で照らした。松明を握っていない方の手で刀を抜いて、音の方に近づいて行く。



 シャアアッ!!



 するといきなり暗闇の中から、黒い塊が飛び出してきた。咄嗟に刀を振り下ろす。塊は真っ二つになって地に落ちた。体液のようなものが飛び散り、真っ二つになったそれはギチギチと音を立てて動き、間もなく停止した。



「こいつは人を襲う蟻の魔物か⁉ ジャイアントアント!!」



 正体に気づいた所で、暗闇から更に2匹3匹とジャイアントアントが、キョウシロウに目がけて襲い掛かってくる。キョウシロウは慌てて後方の岩がある場所まで下がり、その岩の上に松明を固定して置くと刀を両手で握り直した。


 一度に何匹も襲い掛かてくる大型犬程の大きな蟻は、顎をギチギチとならしてキョウシロウの喉や手首、足首などを狙って襲い掛かってくる。蟻達は、獲物の何処に喰らいつけば一番効果的なのかという事も本能で理解しているのだ。


 キョウシロウは、襲い掛かってくるジャイアントアントを斬って斬って斬り倒し、突き殺した。


 全部で40匹は倒した。そこで、延々と波状攻撃を仕掛けて来ていたジャイアントアントは、敵わぬと悟ったのか姿を消した。



「ふう……危なかった。こういう時、一人で旅しているとより一層寂しさを感じる」



 アテナ達の顔が、キョウシロウの脳裏にちらつく。


 再び、グライエント坑道を目指して歩き出そうと、松明を手にしようとした時だった。暗闇の中からフォンフォンフォンっという、何かが回転する音が近づいてきた。



「何か飛んでくる!! ブーメランか?」



 ドガアアッ!!



 ――――何かが飛んできた後に、それが勢いよく岩に突き刺さった音! キョウシロウが振り返ると、松明を乗せていた岩に大きな戦斧が突き刺さっていた。



「暗闇から飛んできていたのは、これだったのか⁉ いったい誰だ、こんなものを投げたのは?」



 こんな何十キロもある物を、俺に目がけて放った奴がいる。キョウシロウがそう思って、戦斧が飛んできた方を再び振り返ると、目前には浅黒い肌の少女がこちら目掛けて、拳を思い切り振りかぶっている光景を目に入った。



「この一撃で終わりだ!! 喰らえええええ!! ッオラアーーー!!」


「うおっ!!」



 咄嗟に避けた。少女が思い切り振りかぶって突き出した拳は、キョウシロウのすぐ後ろにあった岩壁を粉砕した。――転がって距離をとる。


 キョウシロウはすぐさま体勢を立て直すと、少女に向かって刀を突き出した。斬っていいのかどうか、判断ができない。少女は、素早く戦斧を拾い上げると凄まじい勢いでキョウシロウの刀をかちあげた。



 ガキーンッ!!



 大きな金属音。少女の戦斧もキョウシロウの刀も一緒に、少し先の岩壁まで飛んで行って突き刺さった。



「悪いなあ。あんたに恨みはねえが、フルボッコにしろって事なんでな。覚悟してくれよ! なーに、命まではとらねえからさ! っオラア!!」


「命までとらないだと? さっきの飛んできた戦斧は命中していたら、ただじゃ済まなかったぞ!」


「うるせえ!! こまけえ事はいいんだよ!!」



 そう言って少女は、連続でパンチを放ってくる。キョウシロウは、そのパンチを避けて防ぐが、腕で防いだ時に少女の重いパンチがその腕にめり込んで、骨のきしみと共にキョウシロウの顔が歪んだ。


 キョウシロウはチラリと飛んで行った刀の方を見て拾いに行こうと試みるが、そうすると少女が回り込んでくる。どうやら、少女はあくまでもキョウシロウに刀を使わせないつもりだった。この場を突破するには、徒手空拳で戦えという事。



「悪いな。武器での勝負じゃ、あんたの方が上手っぽいからな。あたしの得意分、格闘戦に引き込ませてもらうぜ」


「くそー! こうなったら……」



 キョウシロウは拳を強く握ると、少女の腹に思い切りパンチを放った。

 





――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇ゴブリン 種別:魔物

小鬼の魔物。洞窟などに巣をつくり、集団で人を襲う。醜悪で、残酷な性格をもっており獲物をいたぶる。人間の子供程度の大きさだが、剣や槍、棍棒などの武器を所持していて悪知恵も回る。


〇ジャイアントアント 種別:魔物

蟻の魔物。昆虫系の魔物は結構多く、多種様々に存在するがこの魔物はポピュラー。人を襲うが、人がいなければ自分達の巣を作りそこへ食糧を溜め込むことに生涯を賭けている。


〇徒手空拳

素手での格闘の事。

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