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第173話 『信念と思惑』 (▼キョウシロウpart)




 ――――時は、アテナ達一向がドワーフ王国に向けて、ロックブレイクから出発した辺りの話。



 ミューリとファムは、これから旅立とうとするキョウシロウを引き留めて、話しをしていた。



「僕達はこれからアテナちゃん達のあとを、追いかけようと思っているんだ。向かっている方向も同じみたいだしね。キョウシロウさんは、アテナちゃんと仲がいいみたいだけど、一緒には行かないの?」



 ミューリの質問にキョウシロウは、首を左右に振った。



「仲がいいと言っても、俺はアテナ達とはロックブレイクで知り合ってまだ間もない」


「ファム達もそうだけど」



 キョウシロウは、ミューリとファムの方へ身体を向き直した。



「それに俺は、大きな仕事の依頼を受けているんだ。だから俺はそこへ行かなくちゃならん」


「大きな仕事って? 魔物かなんかの討伐?」


「用心棒だ。グライエント坑道という場所で、俺は警護の仕事をするんだ」



 キョウシロウの向かうという場所を聞いて、ミューリとファムが驚いた表情で顔を見合わせた。ミューリが「やっぱり……」と言いかけたのをファムがその口を押えて止めた。



「キョウシロウ。その仕事、雇い主が誰だか解っている? 正式な冒険者ギルドの依頼じゃないよね?」


「ああ。俺はここより遥か東方にある国から、剣の修行の為にこの大陸に渡って来た。その直後、俺は最強の相手と出会い、勝負をした。真剣勝負だ。結果、俺の剣はそいつに通用せず……負けただけでなく、大怪我を負って死にかけた。その時に死にかけだった俺を、見つけて助けてくれた恩人がいる」


「その恩人が、キョウシロウさんの雇い主なんだね」


「そうだ。その恩を受けた人からの頼まれ事だ。どんな依頼だろうと、俺はやり遂げてみせる。それに、用心棒という仕事は、己の剣の修行にもなるだろうと気乗りもしている」



 ファムは溜め息を吐いた。今度は代わりにミューリが言った。



「雇い主の名前は?」


「なぜ、それを聞く? 正当な理由がなければそれは言えんな。君達とは、アテナ達も含めて一緒に一丸となってアシッドスライムの群れを打ち払って、このロックブレイクを戦い守った仲間だ。信用して答えてもいいが、それ相当の理由をまず教えて欲しいものだがな」



 ミューリは一呼吸置いて、言った。



「今このノクタームエルドには、ドルガンド帝国の軍隊が進行して来ているのを知っている?」


「そうなのか? そんな事は、知らん」



 ミューリは続けた。



「ドルガンド帝国は、世界征服の野望があって周辺諸国に対して軍事的圧力や、進行を今も繰り広げている。そして、このノクタームエルドにもドルガンド帝国は進行してきていてるんだよ」


「それがなんだ? 俺には関係がない。俺は強くなれればそれでいい。そして、受けた恩は返す、それだけだ」



 ミューリは、懐から石を取り出しキョウシロウの前に放って転がした。それは、鉄鉱石の欠片のようだった。キョウシロウはそれを手に取って見つめた。



「なんだこれは?」


「今、グライエント坑道で金で雇われた坑夫達が採掘作業をしている。その人達の狙いはもちろん鉄鉱石やクロム鉱石、ミスリル、銀などなんだけどね。大量に採掘した鉱石などは、ドルガンド帝国に送り届けられてその軍事力の強化に使われるんだ。僕と妹のファムは、住んでいた村を軍事侵攻してきた帝国によって焼き払われ、両親も殺された。復讐も考えたけど、僕達は冒険者になってノクタームエルドみたいな国を、帝国から守る事にしたんだ」


「復讐は、ファム達だけの問題だけど、ノクタームエルドの豊富な鉱物資源をドルガンド帝国から守り抜けば、ドルガンド帝国の軍事力に歯止めをかけられる。帝国に蹂躙され、焼き払われる街や村、殺される人達を救う事にも繋がる」



 キョウシロウは、手に握った鉄鉱石をミューリに差し出して返した。



「なるほど、そういう事だったのか。それには同情する。だが、見当違いではないか?」



 キョウシロウの言葉にミューリとファムは、怪訝な顔をした。



「見当違い? それはどういう事?」


「……仕方がない。そこまで話してくれた君達に対して答えよう。俺の恩人でもある依頼主は、ヴァレスティナ公国の貴族様だ。ドルガンド帝国ではない」



 ミューリは真剣な眼差しでキョウシロウを見つめて言った。



「知ればキョウシロウさんはショックを受けるかもだけど、これは本当だよ。ヴァレスティナ公国は、裏ではドルガンド帝国と手を結んでいる。僕も最近までは、そんな事ある訳ないと思っていたけど、それは確かな情報だよ。現に、キョウシロウさんが警備をしに行くグライエント坑道で採掘された鉱石は、ヴァレスティナ公国が採掘と管理をしていて、ドルガンド帝国に運搬されているんだよ。後をつければ解る事だ」


「だから、そんな事はこの俺には関係ない。君達の話を聞いて、君達が帝国を恨む気持ちは痛いほど解るが、繰り返すようだが俺には関係ない。俺は恩人に借りを返す事を優先する」


「そんな事を言わないで……お願い!! キョウシロウ! そんな帝国に力を貸すような事はやめて、僕達の側について欲しい」


「――断る!」

 

「な……なんで?」


「君達姉妹にそういう思いがあるように、俺には俺の気持ち、信念がある。ドルガンド帝国の事はよく知らない。そして、俺が警備するグライエント坑道には何があって、誰が何をしているかも興味はない。俺は俺の正義を貫くだけだ」



 キョウシロウは、確固たる決意を姉妹に伝えた。ミューリとファムは肩を落とした。



「ドワーフ王のご子息も、今じゃ欲に目が眩んで帝国の思い通りになってしまっている。このまま、ノクタームエルドの鉱物資源を帝国に差し出してしまえば、帝国の軍事力はもっと強化されもっと多くの人が苦しむ事になる。キョウシロウがどうしても帝国に味方するっていうのなら、きっと僕達は戦う事になる」



 ミューリの言葉にキョウシロウは、諦めのあるような表情で少し笑う。



「それは仕方がない。俺が他の誰かに、俺の生き方を強要されたくないように、俺も誰かの生き方を強要しようとは思わん。ミューリ、ファム。君達と出会って一緒に肩を並べて戦えて光栄だった。だからこの先、君達と斬り合う事になるなら、会うのはこれが最後になって欲しいものだ」



 ミューリとファムは、キョウシロウがそう言って去っていく姿を見えなくなるまで眺めていた。



「やはり、駄目だったか……東方の国にいる、【侍】という者達は、俺達ドワーフよりも頑固だと聞くがその通りだったな」



 後ろの岩場の陰で、隠れて見ていたギブンが顔を出した。



「しょうがない。こうなったらキョウシロウさんの方は、ノエルに任せて私達はアテナちゃんを追っていくよ」



 ギブンは髭をいじりながら、言った。



「……両方、片付けるのか?」


「ううん。キョウシロウさんには悪いけど、用心棒をできない程度に痛めつけさせてもらう。アテナちゃんは、ちょっと探ってみる。まさか、帝国側に手を貸すとは思えないけど、もしもそうなったら、ルシエルちゃんも含めてとんでもない脅威になるからね。味方になるようなら大歓迎だけど、もしも敵になるなら……」



 言葉が途切れたミューリの肩をファムは優しく触った。



「じゃあ、そろそろアテナちゃんを追いかけよう。ドワーフの王国に行くって言ってたし、それまで少し時間もあるし、ファム達の味方になってくれるかどうか見定めればいい」



 ミューリとギブンは、頷いた。


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