第172話 『おすすめ! キャンプスポット情報』 (▼アテナpart)
ラコライさんを始め、ロックブレイクに残っていた冒険者や旅人など、大勢の人達が私達の凱旋を喜んでくれた。このロックブレイクに迫り来る大量のアシッドスライムの群れは、ほぼ全てを討伐する事ができた。
ラコライさんは、ロックブレイクにいる皆で私達の勝利をお祝いしたいと言ってくれた。その申し出に、左の頬を大きく腫らして帰って来たルシエルは、大声高らかに喜んだ。でも私達は「折角だけど、先を急ぎたいので」と丁重に断って、頬を擦るルシエルの腕を引っ張り、再びドワーフの王国に向けて旅立つ事にした。
ラコライさんや、他の皆はちょっとがっかりしてしていた様子だけど、ちょっと照れ臭いしね。それに当初の目的地、ドワーフの王国には早く行ってみたい。
そんなこんなで再び私は、ルシエル、ルキア、カルビ、ミューリ、ファムと一緒にノクタームエルドの大洞窟を進み、ドワーフの王国へ向けて出立している。
…………
…………あれ?
私が気づいてそれを言う前に、ルキアが言った。
「あれ? ミューリさんと、ファムさんはどうして私達と一緒に旅立っちゃったんですか?」
そう! キョウシロウともギブンさんともお別れを言った。ミューリとファムとも確かにお別れの握手をしたつもりだったんだけど…………今頃その事に気づくのもどうかと思うけど、一緒についてきちゃっているんだけど……
ファムは、くすりと笑ってこたえた。
「気にしないでルキア。ルキア達が向かう方角と、ファム達が向かう方角が一緒なだけ」
「アハハハ! そりゃちょっと無理があるだろーファムー! ちゃんと説明しないと。実は僕達もドワーフの王国に、ちょっとした用事があってさ。だから、一緒に行こうかなーーって。だからいいでしょ?」
「そうなんだ! そういう事なら大歓迎だよ。ねっ! ルシエル、ルキア」
「うわーー!! じゃあ、まだミューリさんやファムさんと一緒に旅ができるんですね! 私、とっても嬉しいです!」
ルキアは、本当に嬉しそうに飛び跳ねて言った。特にファムとは、仲良くなったようだしね。
「ルキアとまた話ができると思うと、ファムも嬉しい」
「私もです!」
ルキアとファムが微笑み合う。二人の可愛い少女が見つめ合って……なんて、可愛くて癒される光景。…………それに比べて……ルシエルは――
「うううう…………いってーーー」
ミューリがケラケラと笑った。
「アハハ。まだ痛いのん? アテナちゃんに、癒しの回復魔法の魔法で治療してもらったんでしょー?」
「う……うーーん」
まだ痛そうにしている。ルシエルの怪我の治療は完全に終わっているけど、よっぽど何か芯にくるような凄まじい攻撃を、左頬にもらっちゃったんだろうなっていうのは、想像できた。ミューリもきっと、それが解っているから、面白がって言っているんだろう。
「でもさー、それーー。まさか、アシッドスライムにやられた訳じゃないんでしょ? まるで、思い切りパンチでも喰らったように頬が腫れていたもんね」
黙ってじっとしていればっていう条件付きだけど、いつもははっとするような美しい顔のルシエルが、ずっと目を細めて左頬を摩っている。更に、口を尖らせて「うーーんうーーん」と唸りながら歩いている。
「そうなんだよ……しかしよくわかったな、ミューリ。実は、アシッドスライム討伐時に偶然遭遇した少女にぶん殴られたんだよー」
「しょ……少女⁉」
少女にぶん殴られたと聞いて、ミューリとファムは目を丸くして顔を見合わせた。
「ミュ……ミューリ、もしかして?」
「うん、解ってる。――ルシエルちゃん」
「うん? なんだ?」
「その女の子ってどんな子だった?」
「うーーん、そうだな。褐色の肌で、黒髪。肩ぐらいの長さの髪を横で縛ってたかなー。あと、でっかい斧を投げてきて、死にかけた」
私はびっくりした。まさかアシッドスライムがルシエルの左頬っぺたに、見惚れるような右ストレートを入れたなんて思っては思ってはいなかったけど、まさか見知らぬ少女がルシエルにパンチを入れていたなんて。しかも大きな斧ってバトルアックスでしょ? 一般的な冒険者【ウォーリアー】なんかが使っている通常のバトルアックスなら、恐らく何十キロも重量があると思うけど……それを少女が投げただなんて。
「やっぱりかーー」
「もしかしてミューリもファムも、ルシエルの頬っぺたをこんなにした犯人を知っている?」
ミューリが何か言いかけた所で、ルシエルが先に言った。
「いや、アテナ。犯人って言い方はよくない。確かにいきなり殺されかけた事は確かなんだが、もとをただせばオレが悪いんだ」
ルシエルは、そのバトルアックスを投げて見事なパンチを入れてきた少女との事の経緯を話した。話を聞くと、少女が自分で食べようとしてこんがりと焼いていた肉を、ルシエルがうっかり食べてしまったらしい。
問答無用で襲われ言い訳も聞いてくれない状態だったので、ルシエルは逆に少女をノックダウンさせて、テントに寝かして肉を食べてしまった代金として、金貨1枚置いてきたらしい。
…………なるほど、それは確かにルシエルが悪い。
その話を聞いて、ファムは凄く驚いていたがミューリは、意外にも笑い泣きしていた。
「アッハッハッハ!! ルシエルちゃん!! それなら大丈夫だよ。その子は、ノエルっていう名前の冒険者なんだ」
「ノエル?」
「うん。人間とドワーフの間に産まれた娘で、ハーフドワーフなんだけど――持ち前の怪力とタフさは規格外。……もう経験済みだと思うけどね。だから心配しなくても、きっと大丈夫だよ」
「そ……それならいいが」
「もしかして、ミューリとファムは、そのノエルって子と知り合い?」
「まあね。同じ、このノクタームエルドじゃ、それなりに名が売れている冒険者さ。彼女の見た目は少女だけど、なかなかのベテラン冒険者でさ、キャンプと酒が大好きでよく…………」
「よく?」
話している途中で、ミューリの足が止まった。分かれ道に差し掛かったのだ。
「アテナちゃん。左の洞窟を進めばドワーフの王国へ向かえるんだけど……少しだけ遠回りになるけど、右のルートを選べばいい所に行けるんだ? ちょっと寄ってかない?」
「いい所?」
「このノクタームエルドの中でも、かなり有名なキャンプスポットがあるんだけど」
私は、ルシエルとルキアに「どうしよう?」っという視線を送った。ルシエルは、ずっと目を細めていて表情が掴めないが、少なくともルキアは、乗り気のようだ。大きく可愛い眼を、キラキラと輝かせている。
私は「うん! そんな場所があるなら行ってみたい!」と答えた。ノクタームエルドでもかなり有名なキャンプスポット? こんな洞窟が延々と続く中でそんな場所が本当にあるのだろうか?
本当にそんな場所があるのだとすれば、これはもう行ってみるしかないよね。
私とルキアは、まだ見ぬミューリのおすすめキャンプスポットに胸を躍らせ、洞窟内を更に進んだ。
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〚下記備考欄
〇ノエル 種別:ハーフドワーフ
ヒュームとドワーフのハーフ。髪はサイドテールに結っていて見た目は褐色の小さな少女。だが実際は、けた外れのパワーとタフネスを兼ね備える大酒飲み。その剛拳は素手で岩をも粉砕し、自分程に大きな何十キロもの重量の戦斧を軽々と使う。ミューリとノエルの顔なじみ。
〇ウォーリアー 種別:クラス
冒険者ギルドは、数多くいる冒険者のタイプをクラス分けしていて、そのクラスの一つ。戦槌や斧などの力に頼った武器を装備し、攻撃に特化している。補助系の魔法使いとは、とんでもなく相性が良いクラスとして知られている。
〇癒しの回復魔法 種別:神聖系魔法
黒魔法とは異なり、怪我など癒すことができる魔法。クレリックやプリースト、シスターなどの聖職者が一般的には使用できる。
〇ルシエルのほっぺ
ハイエルフ特有の透き通るような白い頬。でも、今はパンパンに腫れている(涙)。




