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第171話 『剛拳』



 あっという間に肉を平らげると、そばに落ちていた薪を拾い、ナイフで削って楊枝を作ると歯に挟まっている肉の破片を取った。うむ、お腹も満たされて、満足満足。



 ん?



 そこで初めて、目前に設置されていたテントが目に入った。


 あれ? もしかして、この肉…………



「も、もしかして、誰かが食べる為に焼いて……」



 ――――殺気!! 咄嗟に身を屈めた。ほぼ同時に身を屈めるオレの頭上を何かが勢いよく飛んで行った。



 ヒュンヒュンヒュン!!


 ザコンッ!!



 物凄い音。見ると、戦闘用の両刃の大斧、バトルアックスが洞窟内の岩壁に突き刺さっていた。


 あ……あっぶねーー!! 身を屈めていなかったら、あの重そうなバトルアックスに首から上をもっていかれていた!! そして怒号!!



「こーーの肉泥棒めえ!! あたしの肉を喰いやがったなー!! クソがあああ!!」



 振り返ると、そこには小さな少女がいた。肌は浅黒く、髪の毛を横で縛っている。確か、サイドテールっていうんだっけか。……いや、そんな事よりめちゃくちゃ怒っている――


 オレは、蛙のようにピョンっと飛んで土下座をした。



「す……すまん!! もしかして、お前の肉か! 腹が減りすぎてて……うっかり?」


「うっかりだとおお!! それが言い訳かあ!! この、肉泥棒があああ!! 楽しみにしていた晩飯だったのに!!」



 少女は思い切り、オレの方へ飛び込んでくると、拳を思い切り振りかぶった。



「ちょ……ちょ、待てよ! 謝るよ! 許してくれ!! オレの悪い所なんだ! いつも仲間に食いしん坊って言われているのに……すまーーん!」


「それがいい訳かああ!! 歯を食いしばれ!! このクソエルフ!! あんたに一生懸命肉をいい感じに育て上げ、今か今かと楽しみにしてやっと食べられると思った刹那、何処からかいきなり現れた馬鹿にその肉を奪われた者の気持ちが解るのかああ!!」



 少女から勢い良く繰り出されるパンチ。――――轟音。


 本来なら罪の意識があるならば、罰として甘んじて殴られようと考える。だが、このパンチはなんかもらっちゃいけない予感がした。


 オレは少女のパンチをよけた。空ぶった少女の拳は、勢いがついていてそのままオレの後ろにある岩を粉砕した。



「ひえええええ!! 嘘だろおお!?」


「チッ! 避けたか!!」



 嘘だろ? 背もルキア位に小さな少女。だがとんでもない怪力だ。少女は更に容赦なく連続パンチを繰り出してくる。剛腕が掠める度に、身の毛がよだつ。



「わっ! 危ないっ! 謝ったろ? 攻撃するのを止めてくれ!!」


「うるさい!! あたしのいる世界じゃ、肉泥棒は極刑なんだよ!! だから、さっさと死んで詫びろっ!!」



 大きいパンチが来た! 確かに悪いのは、勝手に人の肉を食ってしまったオレなんだが――――この少女のパンチは喰らいたくはない。よし、しょうがない。こうなったらとりあえず、気絶させよう。


 ――――大振りになった少女の懐に飛び込んだ。



「すまん、怒れる少女よ!! ウインドショ…………」

 


 少女に至近距離から突風を発する精霊魔法を当てて、吹き飛ばし気絶されようとした。手を前に突き出し突風魔法(ウインドショット)を放とうした刹那、少女はもうそこにはいなかった。


 殺気を感じ、そこへ視線を向けると少女はオレの攻撃を避けると同時に、オレの真横に素早く移動していた。



「オラーーーーッ!!!!」



 少女の豪拳が、オレの左頬を捕える。凄まじい衝撃。痛みを感じる前に意識が飛ぶ。そしてオレの身体も殴り飛ばされた方へロケットのように吹っ飛ばされ、先にある岩壁に叩きつけられた。



「ぎゃーーーーんっっ!!」


「どうだ! 少しは思い知ったか! 肉泥棒め! あたしのパンチを喰らったら最後。もう動けんだろ? これに懲りたら、もう二度と肉泥棒なぞに手を染めるな」



 ――――いってーーー!!


 咄嗟に風の精霊魔法を発動させて、殴り飛ばされる方向へ自分から高速で飛んで威力を軽減させてなかったら、危なかった。あの岩をも素手で粉砕する威力……まともに喰らっていたら死んでいたかもしれん。あの華奢で少女のような身体の何処にこんなパワーがあるんだ!



「さあ、とりあえずテントを片づけたらお前を、肉泥棒として拘束しロックブレイクまで引っ張っていく」



 少女はそう言うと、テントの方へ振り向いた。今なら、やれるか!!


 オレは魔力を爆発させるつもりで、少女がいる方とは逆方向に渾身の突風魔法(ウインドショット)放った。強風を放った勢いで、オレは勢いよく少女の方へ宙を飛んだ。



「おりゃああ!! 《突風魔法(ウインドショット)》!!」


「な……なんだ? バカな⁉ 信じられん!! このエルフは、あたしのパンチを受けて平気なのか?」



 強風を思い切り噴射、少女に突貫する。瞬時に少女の懐に入り込むと、先程の二の前にはならんぞ言わんばかりのスピードで、突風魔法(ウインドショット)を至近距離で少女目掛けて打ち込んだ。



「吹き飛べええええ!!」


「うわああああ!!」



 少女は遠くまで吹き飛ばされ、さっきのオレと同じように今度は少女が岩壁に叩きつけられた。


 そして少女はドサリと、地面に前のめりに倒れると気を失った。



「とんでもない奴だな。……っう、殴られた頬っぺたが痛い……後で、アテナに回復魔法をかけてもらおう」



 オレはもう一度、少女がちゃんと気絶しているか確かめると、彼女を抱きかかえて彼女のテントの中へ運んでやった。そして、寝かせてやるとその枕元に金貨を一枚取り出して置いた。



「肉を食べてしまった事は、本当に悪かったし今度また会う事があれば謝ろう。その金貨は、とりあえず食べてしまったお肉代という事で……」



 こんがりと焼けた肉一つで、金貨1枚は破格の値段だ。だがあの肉の味は、金貨1枚分の価値があるとみた。それにオレは、悪い事をしてしまった。これで吊り合えばいいが、どちらにしても謝罪は必要だろう。


 オレは気絶し横たわる少女に向かってもう一度、頭を下げてごめんなさいと謝った。



「さてと……じゃあ、ファムの後を追いかけ……って、ボスクラスのアシッドスライムがいたとしても、もう今から行っても倒してしまってそうだからな。頬っぺたが、なんか腫れてきたし、アテナの方へ行って治療してもらうとしよう」



 アシッドスライムを討伐していたら、とんでもない怪力少女にあって顔面を思い切り殴られるというアクシデントが発生した。オレは、気を取り直して皆と合流しに向かった。

 

 でも――っまこれでロックブレイクは、守られた。皆と合流したら、いよいよドワーフの王国へ出発だな。それを思うととてもワクワクしたが、同時に殴られ腫れた頬が、その胸の鼓動に負けない位にズキズキしていた。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇バトルアックス 種別:武器

大型の戦斧。戦士やドワーフが愛用している。もっと大きなものをミノタウロスという魔物が愛用している。本来投げて使う武器ではないが、重量もある為投げるととんでもない凶器になる。


突風魔法(ウインドショット) 種別:精霊魔法

風の下位精霊魔法。衝撃波の如き風を、手の平から瞬発的に放つ魔法。本来は対象物や攻撃対象を吹き飛ばす魔法なのだが、ルシエルはそれを地面に向かって放ち宙へ飛んだりとユニークな使い方をする。ルシエルは、いくつか使える精霊魔法の中でも特に風魔法を得意としている。

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