第170話 『止まらない好奇心と欲望』 (▼ルシエルpart)
アシッドスライムは、ほぼ全て倒しただろう。ファムの風属性魔法、風の探知魔法は周囲にいる生物など、探知する事ができる。それによると、いくつか反応はあるものの、ロックブレイクへ向かっていた大群のような反応はもはや全く感じないとの事だった。
しかし、風の探知魔法って魔法、なんて便利な魔法なんだろう。オレも風の精霊魔法なら得意なんだけど、風の探知魔法のような魔法は覚えていない。うーーん。持っていないとなると、余計に欲しくなる。
「ルシエル、ここはもう大丈夫のようだ。アテナやミューリの方も、きっと上手くいっていると思うけど、様子を見に行った方がいいかも。アシッドスライムの群れもこの位の量になると、きっとボスがいるはずだから」
「なに、ボスだと⁉ ボスがいるのか? そいつ、でかいのかな?」
「うーーん。だいたいボスクラスに進化する魔物は、大型になる傾向があるからね。アシッドスライムみたいな低級な魔物は特に、巨大化してそう」
「……まずいな!!」
「それってどういう意味?」
「うん? いや、別に……」
正直、アテナの心配はしていない。こんな魔物にやられるはずがない。だとしたら、何がまずいかと言うのか。
そう、まずいと思ったのは、そのボスサイズのアシッドスライムをアテナやミューリがすでに倒してしまっているという事だった。そんなデカいスライムなんて、オレは見たことがない。だから、もしそんなデカいスライムがいるなら是非見てみたいのだ。きっと、物凄く強いだろうし、インパクトのある姿をしているに違いない。
うーーん、なんとかそのボススライムを見る事ができないものか、あれこれと考えを巡らせているとファムがつっついてきた。
「何している、ルシエル。アテナやミューリの方も、見に行こう。ファム達の応援が必要な場合だってある」
「そ……そうだな。それはそうと、ファム。そのボスサイズの奴っていうのは、この群れに対して1匹だけなのかな?」
「うーーん、どうだろう? 今まで見たことが無い位の数の、アシッドスライムだったからね。ひょっとすれば、2、3匹現れるかもしれない。だけど、もしいてもボス同士で固まっている事は稀だから。例えばアテナの方に、出現していて、他にもいるというのなら、ここかミューリの方だね」
なるほど、そうか。なるほどな。なら――――
「解った! ファムは、じゃあこれからミューリの応援に行ってやってくれ」
「ミューリは絶対に大丈夫だよ。ボスクラスのアシッドスライムが現れたとしても、きっと一人でも倒す。それにミューリの方は、ギブンとルキアもいる」
「そうか……よし! じゃあ、アテナの方を頼む!」
「……ルシエルは?」
「オレはこの中央の洞窟内をもう少し見て、完全に安全だと思ったら皆の方へ行くつもりだ。だって、ほら……もう大きい群れとかで移動している生物はいないらしいけど、生命反応はいくつかあるんだろ? それがもし、ボスクラスのアシッドスライムだったら?」
ファムがじーーっとオレを見つめる。
「ルシエルは、その巨大なスライムを見てみたいだけじゃないよね?」
――――っう! 図星!
「ち……違うよ。だってほら、生き残っているそいつがまた再び、仲間を集めてロックブレイクを強襲する事だって考えられるだろ? だったらほら、完全に叩いておかないとな?」
「確かにそれは一理あるけど……じゃあ、ここはルシエルに任せる。もしアシッドスライムが生き残っていたら、くれぐれも酸の攻撃は気を付けてね」
「おうっ! 任せろ!」
ファムに手を振って別れた。
――――さて。
運が良ければ、その巨大なスライムを見る事ができる。エルフの里の周辺にもスライムは、ちょいちょい出現はしたけどな。ここに現れたスライムとは異なって、プルンプルンしてて丸みがあって小さくて弱かった。
だから、ちょっとボス位の巨大な奴がいるのだとすれば、見てみたい。危険な事かもしれないが、どうしようも無く見たいものはしょうがない。きっとこれは、オレの中からどうしようもなく溢れ出る、止めようのない程の好奇心がそうさせているのだと思った。
――――しかし、ひとしきり巨大スライムを探してみたものの、見つけたのは単体で弱っているアシッドスライムばかりだった。一応、火属性の精霊魔法で焼き払い、とどめをさしておいたが――がっかり感が否めない。
「残念だ。もしかしたら、やっぱり巨大スライムはアテナの方に現れているのかもなー」
そんな事を考えつつも辺りを探索し、そろそろ諦めてファムの後を追おうと思ったその時だった。
物凄く美味しそうな肉の焼けるにおいがしてきたのだ。周囲を見るが気になる物は見当たらない。しかも、においは、どんどんこの辺りの洞窟内に充満し始めた。
これは間違えない。何処かに焼けた肉がある!!
アシッドスライムの群れとの戦闘で、魔法も連続で使用し大量に魔力を消費したせいか、空腹感も感じていた。これはもう、その匂いの正体を突き止めなければならないと思う。
すると、煙を見つけた。何処からか風に乗ってここまで煙がつたってくる。美味しそうな肉のニオイも合わさって…………
「まさか、倒したアシッドスライムから知らず知らずのうちに、焼いた肉がドロップしていたとか、そういう夢物語みたいな事が起きている訳じゃないよな」
何はともあれ、とりあえずこの美味しそうな肉の匂いがなんなのか突き止めなければならない。
匂いと煙を追って先へ進む。懐中灯で周囲を照らす。
「むっ! 灯りがあるぞ!」
見るとそこには、焚火があった。そしてそこには、こんがりと焼けた美味しそうな肉がある。美味しそうなニオイの正体は、こいつだった。
「うっひょーーー!! 肉―――う!! 丁度、もう腹がペコペコだったんだよー!! まさか、こんな所で肉が用意されているなんてな!! ありがたやー、ありがたやー」
オレはなぜこんな所に、こんがりと焼けた美味しそうな肉があるかというような事は考える暇もなく、一直線に走っていってその肉にかぶりついた。
口の中にジュワ――っと肉汁とともに、旨味が広がる。おいしーーーい!
細かい事は何も考えずに、オレは一心不乱にその上質な肉を貪った。
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〚下記備考欄
〇洞窟内で調理されていた、こんがり肉 種別:食べ物
自然には発生しない。もちろん、何処かの誰かが焼いて育て上げたもの。勝手に食べては駄目なのです。
〇風の探知魔法 種別:黒魔法
中位の風属性魔法。掌に風でできた球を発動する。それを見る事によって、近くにあるお宝や敵の場所の索敵、ダンジョン内でのマッピング等々できる、冒険者なら是非使えるようになりたい魔法。




