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第17話 『渓流釣り その2』 (▼アテナ・ルシエルpart)






 見つけた釣り場は、やはり当たりだった。もう早速イユナを、私が2匹でローザが3匹釣り上げている。こんな晴れた天気の良い日に、キャンプして渓流釣りしてってもう最高だね。



「あははは、楽しいなアテナ! 釣りは初めてなのだが、なかなか奥が深くて面白い。これも、キャンプの醍醐味のひとつなのか?」


「そうだよ。狩りして肉を焼いたり、薬草採取したり、ただポケーっとテントの前の焚火でお茶を飲んでくつろいだり。全部、キャンプの醍醐味なんだよ」


「そ……そうか。ふーーん。ふーーん。そうなのか。キャンプは、いいものだな!」



 餌をつける度に震え上がり悲鳴をあげ、オドオドしながら釣りを始めはしたローザ。だが、1匹目を釣りあげると、それからずっと興奮している。子供のように、はしゃいでいる。もはや誰の目から見てもローザは、渓流釣りを楽しんでいるように見える。顔は、まだ強張るものの、自分で餌も付けられるようになったというのも驚きの進歩だ。あれだけ嫌がっていたのにね。



「そうだね。しかも、私よりも釣っているしセンスもあるよ。私もローザに負けてられないね」


「いや、アテナの指導の仕方が素晴らしいんだよ。だから、あっという間に魚を釣り上げられた。ありがとう! アテナ」



 微笑んだ。


 ところで、ルシエルの方は、順調に釣れているのだろうか。ちゃんと釣りを楽しむ事ができているのだろうか。そういった事が、ふと気になった。でも夕方になればキャンプに戻って合流するので、結果を知るのはそれまで楽しみにしておこうと思った。






 ――――――――






 一方、ルシエル。


 ――――ルシエルは、まだ1匹も魚を釣る事ができていなかった。




「うーーーむ。全く釣れんぞ。どうなっているんだ? このままでは……ローザは餌を怖がってあんなだからまだ釣ってないにしても、アテナは……………このままいくと……オレだけ、釣れてないとかそんな事にはならないだろうか」



 穏やかな森、鳥の鳴き声に澄んだ空気。それに水の流れる音。

 

 だが、ルシエルの心はざわめいている。


 餌もちゃんとつけたし、これで全く釣れないなんて…………餌が悪いのだろうか? そう思って、釣り糸を引き上げてみると、針に餌はもうついてなかった。



「なっ! さっきつけたばかりだぞ!」



 食べられたって事か? いや、ずっと集中して釣り竿を握っていたが魚の当たりのようなものは無かった。じゃあ、なんで……


 考えてみるが、解らない。川を凝視すると、魚の影のようなものが動いている。魚はいるみたいだ。



 ………………



 更に少し考えてみたが全く答えが出ないので、再度針に餌を付けて少し場所を変えて釣ってみる事にした。



「ふーーむ。ここで、いいだろう」



 ――ちゃぷんっ



 すると突然、目前の草の茂みが動いた。釣り竿を置いて咄嗟に弓に手を伸ばそうとしたが――――しまった! 弓矢は、キャンプに置いてきてしまっている。いつも弓を持っている手に、今日は釣り竿があったのでそれでなんだかしっくりしてしまって、変に思わなかったんだ。まずいな。


 草の茂みからは、2匹の魔物が現れた。犬の頭をした、人型の魔物。人間のように、剣や槍などの武器を装備し、人を襲う。ゴブリンと違って、中にはおとなしい個体も稀に存在する。



「コボルトか!」



 弓矢がないので、ナイフを構える。武器がこれでもコボルト2匹程度なら、私なら簡単に始末できる。


 コボルトと目が合った。



「来るか!!」

 


 こちらに気づいたコボルトは、武器を握りしめ襲い掛かってくる…………と予想していたのだが…………あれ? 襲い掛かってこない。こちらに気づいてじっと見ているが、特に襲って来る気配が無い。警戒しているようだが、敵意を感じない。なぜだ?



「いったいこれは、どういう事だ? おまえら、コボルトだろ⁉ オレは、エルフだぞ! 冒険者だ! 冒険者ギルドにも登録しているぞ! 襲ってくるなら、退治するぞ」



 言ったことを理解しているのかは解らないが、じっとこっちを見ている。まあ森にエルフがいるなんて、コボルトからしたら特に珍しくもないかもしれないが、普通は敵意をむき出しにして襲って来るのが王道パターンだ。…………だが、こいつらには、敵意そのものが感じられない。



 ザザッ



「むっ!! やはり襲って来るか!!」


 すると、コボルト達は、なにやらゴソゴソと持っていた荷物の中から棒状の武器を取り出して手に持った。



「武器を取り出した!! 槍か⁉ いや、違う!! あれは…………」




 ――――武器ではなく、釣り竿だった。




 ……………………は?




 目を一回、コシコシと擦って、もう一度よく見てみたがやはり釣り竿だ。釣り竿。恐らくは、コボルトの手作りの釣り竿。竿の表面には、塗料のようなものも使われていてかなり上手にできている。



「驚いた…………コボルトが釣り竿を持ってくるなんて」



 暫く、コボルトに見とれていた。するとコボルト達は、オレの事を一応警戒はしつつも、せっせこ渓流釣りの準備をし始めた。信じられない…………こんな光景を初めて見たが魔物って釣りをするのか? エルフの里周辺でもコボルトと出くわす事はあったが、あんなタイプはいなかったぞ。遭遇したら即戦闘だった。


 いや……でも、人型の魔物で武器や防具を普段装備して使っているのだから、別に釣り竿を持って魚を釣りに来ていたって不思議ではないのか。…………本当に? 



「うううう…………」



 …………アテナ達に、話したい!この状況をアテナやローザに話したい。きっと驚くぞ!…………いや、話してみて信じるのか? こんな話を信じるか?


 そんな事を考えて苦悩していると、ついにコボルトがキャスティングし始めた。ちょいちょいこちらを意識してはいるが、凄く普通に釣りをしている。……っていうか、物凄く釣りをし慣れている。


 そして、片方のコボルトがイユナを釣り上げると、続けてもう片方のコボルトも釣り上げた。嘘だろ⁉

オレは、まだ1匹も釣り上げられていないのに。ちくしょー、羨ましい。


 更にコボルト達は、イユナを釣り上げる。連続で釣り上げる。坦々と釣り上げる様を見せつけられる。うおおおおお!! これは、もう負けてられないぞ。


 ナイフなんかもう必要ない。ナイフをしまうと、自分の釣り竿に飛びついて新たに餌を取付ける。こちらもキャスティングするぞ。狙いは、木の葉が重なり合って影になっているところだ! キャスティングした。



「コボルトどもめ! 今に見ていろ!! その無表情を、驚きの顔に変えてやるからな! 待ってろよー!!」



 勝手にコボルトにライバル意識を燃やした。戦いには、決して避けられない戦いがある。それがこれだ。


 ――――しかし、やはり釣れない。オレの釣り竿は、ピクリともしない。どうして釣れないんだ? と引き上げる。すると、餌がもう無くなっている。餌が無くなっているという事は、魚に食べられているという事なんだろうが…………いったいいつ食べられているのだ。それも解らず、モヤモヤする。



「くっそーー、くっそーー」



 コボルトに目をやってみると、またまた釣り上げている。いったい、あいつらとオレの釣りの違いってなんなんだ? 教えて欲しいぞ! 



「ええい! もう我慢できない!!」



 竿を地面に置く。そして、コボルトに近づいていった。コボルト達は、オレの行動に一瞬ビクビクっとした。逃げられるかもしれないので、ゆっくりとナイフを取り出して武器はこれだけだぞ! って十分見せた後、そのナイフを地面に置いて指を指さした。そして、両手をあげて叫んだ。



「武器は、下に置いたぞ!! 敵意はない!! どうしても、お前たちの釣りの仕掛けが見たい!! 見たらすぐ離れるから見せて欲しい。頼む!」


「………………」


「頼むよ…………駄目か⁉」



 そういうと、2匹のコボルトは顔を見合わせた。そしてまた、オレをじっと見ている。



「いいか? そっちへ行くぞ。何もしない、誓って何もしないから」



 ゆっくりと動く。できるだけ、脅かさないように、ゆっくり慎重に。かなり近づくと、またコボルトがビクッと警戒する素振りを見せたので、コボルト達の持つ釣り竿を指さした。そして、頑張ってジェスチャーを使いながら誠意を込めて言った。



「仕掛けが見たい! 釣り竿の仕掛けが見たいだけだ。なぜか、オレは、魚を釣ることができない。魚はいるはずなんだが、餌がなくなってしまうんだ。だから、見せてくれ」



 すると、コボルト達はもう一度顔を見合わせて、何事もなかったかのように釣りを再開した。いいよって事なのだろうか? コボルトの真横まで移動したが、見事誠意が伝わったのか、逃げもしないし襲ってもこない。



「ありがとう」



 コボルトに御礼を言って、釣りをするコボルトの隣に座った。そして、釣りをするコボルトの傍らで注意深く観察しているとついに見つける事ができた。オレがいくら頑張っても釣れなかった答えがそこにはあった。



 ――――それは、餌の付け方だった。



 オレは、ブドウ虫の背中部分に針を付けていた。ここの渓流はそこそこ流れが強い。だから、その餌の付け方だと川の流れで針から餌が簡単に外れて流されてしまうのだ。つまり、キャスティング後、餌はすぐに流されてしまって、何も針についてない状態でずっと魚を釣ろうとしていたという事になる。



「針を口から入れて、お尻から出す。なるほど、上手い事Ⅽの形……自然に虫のような形にもなるし、針もしっかりついて外れないわけか」



 ――――そういう事だったのだ。なるほど。そうと解れば――――



「いや、勉強になった! ありがとう!!」

 


 コボルト達に頭を下げてお礼を言ったら、懐から干し肉を取り出して差し出した。


 コボルトは、一瞬動揺していた様子だったが、恐る恐る干し肉を受け取ると再び何事も無かったように釣りを再開した。



「ふむ。世の中には、こんなフィッシングマスターのコボルトもいるんだな。面白いな。いや、いい勉強になった」



 コボルト達の釣りの邪魔にならないように、そこから少し距離をとった所でオレも気を取り直して釣りを再開した。



 餌の付け方を変えキャスティングする。



 ――――するとすぐに、ブルルルっと魚が針に喰いついた感触が釣り竿に伝わってきた。きたきたきた!! ついにきた!! オレは、歓喜の声をあげてコボルト達に手をふって、ガッツポーズをした。









――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄〛


〇アテナ 種別:ヒューム

Dランク冒険者で、物語の主人公。キャンプが趣味で、今は薬草を使用したお茶作りもマイブーム。ギゼーフォの森で知り合ったルシエルと、エスカルテの街で知り合ったローザとパーティーを組む。エスカルテの街の冒険者ギルドでマンティコア討伐依頼を受注し、達成。その後、ルシエルやローザと共に釣りを楽しむ事にした。本命はもちろん、キャンプ。


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

Fランクの冒険者なりたてのホヤホヤで、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も使える。外見は少女だが、実は114歳。長い髪の金髪美少女エルフだけど、黙っていればという条件付き。一人称は、「オレ」。とても立派な弓を所持しており、ナイフ捌きに関してもなかなかの腕を持つ。ギゼーフォの森でアテナと知り合い、それからはエスカルテの街で正式に仲間としてパーティーを組む。タユラスの森で、ローザよりも魚を釣り上げてぎゃふんと言わせようと釣りに没頭するが……


〇ローザ・ディフェイン 種族:ヒューム

クラインベルト王国、王国騎士団の団長。現在はアテナが自家製の薬茶を売る為に立ち寄ったエスカルテの街の治安維持の任務についているが、アテナと出会った事により任務を副長のドリスコに放り投げてアテナについて行った。外見は赤い髪のショートヘアで凛々しい感じ。20匹程度のゴブリン相手なら、一人で倒せる程の剣術の持ち主。マンティコア討伐では、いい所は見せられなかったので、釣りで挽回しようと意気込む。最初、釣り餌が芋虫で恐怖したが、魚を釣り上げる事もできて、徐々に釣りの楽しさにのめり込む。


〇ゴブリン 種別:魔物

小鬼の魔物。最も冒険者と戦っている魔物。背丈は人間の子供位の大きさだが、性格は残忍冷酷。獲物をいたぶる趣味もあり、極めて醜悪。だいたいは群れで行動しているが、ゴブリンキングなどがボスとして君臨し何百何千匹となる群れもある。そうなれば、村や街を襲う。


〇コボルト 種別:魔物

人型の犬の魔物。フォルムも行動もゴブリンによく似ている。だが、洞窟や洞穴を根城にする事はゴブリンやオークとさほど変わらないが、コボルトは集落を作る群れもある。ゴブリンやオークと一緒にはされるが、残忍さはそれほどまでではなく友好的な個体も存在する。アテナ達が今回釣りをするタユラスの森でルシエルが出会ったコボルトは、なんと釣り竿を持っていた。そして、凶暴性も感じられなかった。ルシエルは魚が釣れず、上手に魚を釣りあげるコボルトが気になって仕方がなくなる。もちろんコボルトが釣りをするなんて、知られていない事実。


〇イユナ 種別:魚

イワナとアユを掛け合わせたようなハイブリットな川魚。空気の綺麗な森にある渓流に生息しているので、どちらかというとイワナよりの魚なのかも。塩焼きにすると美味しい。警戒心が強い魚で釣るためにはそれなりの熟練がいり、味も美味しいので釣り人に人気の魚。


〇干し肉 種別:アイテム

アテナや狩り友のヘルツ・グッソーとルシエルがグレイトディアーを狩って食べた時に、残ったお肉を干し肉にしたもの。干し肉は、塩があれば簡単に作ることができる携帯保存食。コボルトも、干し肉は好きです。


〇キャスティング

魚を釣るために、釣り竿を振って針のついた仕掛けを投げる事。



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― 新着の感想 ―
これルシエルよりコボルトの方が知性高いまでない…?w
本文より長い備考欄…
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