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第169話 『キングアシッドスライム』 (▼アテナpart)




 アシッドスライムを一掃できたと思っていた。全てを倒しきったと思っていたら更にその奥から超大型のアシッドスライムが現れ迫って来た。キングサイズのアシッドスライム――――つまり、キングアシッドスライムだ。


 キングアシッドスライムの身体に口のような穴が開くと、そこから大量の液がこちらに向かって勢いよく流れ出て来た。それはちょっとした津波のようだった。



「あの液は危ないっ!! 避けて、キョウシロウ!!」


「くっ!」



 キョウシロウが跳躍する。寸でのところで、キングアシッドスライムが放出した大量の液をかわして、高さのある岩へ飛び乗った。地を這う大量の液は、地面を流れ触れた岩などをジュジューっという音とともに溶かしている。


 吐き出された液の量は、とんでもない。これから戦うのであればリスクが大きすぎるので認めたくなかったけど、あれは紛れもなく酸だった。大量の酸。



「アテナ! 今度はそっちを狙うつもりだぞ! 距離をとって酸を浴びないように身を隠せ!!」


「え?」



 キョウシロウのその言葉にギョッとして、キングアシッドスライムの方へ振り返ると、キングアシッドスライムはすでに私の方に狙いを定めて、再び酸を放出しようとしている様子だった。


 嘘でしょ!? こうなったら、先手必勝!!


 私はキングアシッドスライムへ両手を翳し、魔法詠唱を行った。酸を浴びせられる前にこちらが先に討つ。キョウシロウの叫ぶ声が再び聞こえる。



「やめろ!! アテナ!! そんな大量の酸を頭から全身に浴びたら、ひとたまりもないぞ! 全身大火傷する。だから、早く距離をとって身を隠すんだあああ!」



 そんなこと言ったって、もうやるしかない! 今から逃げようとしても背中から酸を浴びる。どちらにしても、もう退けないのだ。


 私は、火属性魔法で火球を作り出すと、それをキングアシッドスライムへ放った。



「これでどう!! 《火球魔法(ファイアボール)》!!」



 爆炎と共に、火が燃え上がる。炎がキングアシッドスライムをそのまま包み込んで焼いて溶かすと思った。しかし、考えがあまかった。私の放った火球魔法(ファイアボール)の火がキングアシッドスライムを包み込む前に、キングアシッドスライムはその燃え広がる炎ごと打ち消す勢いで、大量の酸を吐いた。


 酸の津波が私に迫る。至近距離。



「おいーー!! アテナーーー!! いかん、このままじゃやられるぞ!」



 やらないよりはと思ったのか……少しでも自分に気を引いて軌道を逸らせるかもと思ったのか……キョウシロウが刀を抜いて、キングアシッドスライムに側面から斬りかかった。ズバズバと音を立てて斬るが、相手は大きすぎる上にヘドロのような身体…………まったくダメージが通っていない。


 私の方は、酸を全身に浴びる直前になんとか素早く次の魔法を詠唱する事ができた。この防御魔法は、かつてまだ私が冒険者になる以前に、魔法が得意ではない私に魔法を叩き込んでくれた爺直伝の魔法なのだ。ほぼ無詠唱で、即発動できる


 だけど、斬撃や打撃、炎や冷気などは防げるけど、酸を防げるかどうかは、やったことがなかった。でもこれしか、選択肢がない。


 ええい!! こうなったら、これで防いで見せる。



「《全方位型魔法防壁(マジックシールド)》!!」



 光り輝く魔法で作られた膜が私を覆う。その上から大量の酸を浴びる。



 ジュジュジュジューーーーッ



「な……なんか、全方位型魔法防壁(マジックシールド)の表面から嫌な音がするけど、なんとか防げたみたい」



 キョウシロウの方を見ると、私の無事を確認してホッとした表情をしている。私は全方位型魔法防壁(マジックシールド)を張りながらもキョウシロウに大丈夫だよーっていう意味で、手を振った。…………あっ、溜息を吐いている。



「燃えろお!! 《火弾操作連弾(フレイムラッシュ)》!!」



 ミューリの声。小さな無数の火球がキングアシッドスライムを襲う。キングアシッドスライムは苦しいのかその巨大な身体をブヨブヨと激しく揺らせた。そして、ミューリに続いてルキアとギブンさんの声と姿も見えた。どうやら、あっちは片付いたようね。良かった。



「アテナちゃん!! こいつはヤバイ相手だよ!」


「ミューリ! 応援ありがとう。この魔物は本当にかなり危ないよ。津波のような酸を吐くから。それで、誰か犠牲者が出る前に、さっさとケリをつけたいんだけど――――」



 ミューリはニヤリと笑って見せた。



「もちろんその方がいいけど、アテナちゃん、手を貸してくれる? そうすればきっと、ケリをつけられるよ。だって、こう見えて僕は火属性魔法にかけてはプロフェッショナルだからねー」


「よし、言ったね! じゃあ、一気にケリを付けようよ! ルキア、ギブンさん、キョウシロウ!! 少しでいいから、あの魔物の気を逸らせて!!」


「はい!!」


「わかった!!」


「任された!!」



 キョウシロウを先頭に、ルキアが松明、ギブンさんがウォーハンマーを持って駆ける。キングアシッドスライムの側面から攻撃を仕掛けて気を逸らせてくれる。


 私とミューリがキングアシッドスライムを一撃で倒せる位の強力な魔法を発動する事は可能だけど、その発動前にまたあの津波のような酸を浴びせられたらたまらないからね。それまで、気を引きつけてもらう。



「やあああ!!」



 ルキアはキングアシッドスライムの足元に松明を投げた。それに続いてギブンさんが、ルキアの投げた松明目掛けて壺を放った。壺は割れ、中身の液体が散布されると松明の火に引火し、燃え広がった。壺の中身は油だったのだ。


 更にキョウシロウとギブンさんが、斬撃と打撃を交互に織り交ぜつつも攻撃を繰り返し、十分に気を引いて時間を稼いでくれている合間に、私とミューリは火属性魔法を詠唱し終える事ができたので、キングアシッドスライムへ思い切り放った。



「この一撃で確実に倒すわ!! 爺直伝の上級魔法! 《地獄の炎(メギドフレイム)》!!」



 地獄の業火が迸る。放った先で、激しく燃え広がりキングアシッドスライムを炎が包み込んだ。



「火が弱点って時点で、『ウインドファイア』のファイアである僕に勝てる要素なんてないんだよ! これで終わりだ。《高熱圧縮放射(フレイムキャノン)》!!」



 ミューリの両手からも、熱と炎が圧縮された太いビームが放たれる。ビームは、地獄の炎(メギドフレイム)の魔法によって、地獄の業火に包まれ苦しんでいる最中のキングアシッドスライムの身体に、大きく風穴を空けた。そしてその穴からは、徐々に高温が広がり始めキングアシッドスライムの身体を内から外側に向かって燃やし消失させた。


 私は勝利した事で、ミューリとハイタッチするやいなや、ルキア達を含め全員でまだ戦っているだろうルシエルの応援に向かう事にした。


 ルシエルがいるのは、確か中央のルートだった。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇キングアシッドスライム 種別:魔物

キングサイズのアシッドスライム。アシッドスライムと同じくジェル状で、非常に強力な酸性の毒を放つ。とても恐ろしい魔物とされていて、例えばクラインベルト王国の街や村近くでこのキングアシッドスライムが出没したという事になれば冒険者ギルドから何十人もの冒険者が討伐に駆り出される位である。並の冒険者でもかなわないので、逃げる事を推奨。必殺技は、酸の津波。


火球魔法(ファイアボール) 種別:黒魔法

火属性の中位黒魔法。殺傷力も高く強力な破壊力のある攻撃魔法だが、中級魔法の中では、まず覚える一般的な魔法。


全方位型魔法防壁(マジックシールド) 種別:防御系魔法

強力な防御系上位魔法。自分の周囲にドーム状(実は球体)の光の幕を張り、物理攻撃や炎や冷気などの攻撃も防ぐ。とても強固な防御魔法で、なんとアテナはこの魔法を瞬時に発動できる。アテナは魔法は得意ではないらしいが、王宮にいた頃に教育係の爺にスパルタで教えられて扱えるようになった。


地獄の炎(メギドフレイム) 種別:黒魔法

火属性の上位黒魔法。地獄の炎で、敵を焼き尽くす魔法。非常に強力な火炎で、通常の火属性魔法よりも遥かに高温度で火力が強い。地獄の炎は、通常の炎で燃えないものも燃やす事ができる。魔法が苦手というアテナだったが、爺直伝とはいえ上位の黒魔法も使用できるようだ。


高熱圧縮放射(フレイムキャノン)種別:黒魔法

中位の、火属性魔法。熱と炎を圧縮して、放つ魔法。さながらビームのようで、この魔法で打ち抜かれた対象は、燃えて焦げる。

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