第167話 『風属性魔法と風の精霊魔法』 (▼ルシエルpart)
大量に迫り来るアシッドスライムに向かって、火の精霊魔法を放った。
「スライム共を焼き尽くし、その灰を舞い上がらせろ! 《火炎昇竜》!!」
火炎の竜巻が、大量のアシッドスライムを焼いて吹き飛ばす。ファムも隣でまるで競っているかのように、火属性魔法を連発していた。
「燃えろ! 《爆炎放射》! 《爆炎放射》!!」
オレもファムも、得意とするのは風属性魔法なんだが、スライムには火が有効だそうなので、あまり得意ではないが一応使用する事のできる火属性魔法で戦っている。
だが火属性魔法を使用できる術者が二人ともなると、いくら数が多いとはいえスライム共を圧倒できるな。ラコライの切羽詰まった様子を見て、当初はどうなる事かと思って来てはみたが、この分だとすぐに一掃できそうだな。
「《火炎昇竜》!!」
ギョワワアアアアアアア!!
「ルシエルのその精霊魔法、とんでもない威力だね。でも風属性魔法なら、例え相手が精霊魔法でもファムの方がルシエルの精霊魔法よりもレベルが上だと自負しているけどね」
カチーーン。なんとな?
次から次へとなだれ込んでくるアシッドスライムを燃やしながらも、ファムへ言った。
「風属性魔法こそ、オレの専売特許だよ! ファムがいくら、ノクタームエルドで有名な冒険者コンビ『ウインドファイア』のウインドの異名を持っているとしても、風に関して言えば悪いがオレの勝ちだな」
「そんな事はない。ファムは、風属性魔法に関して言えば、誰にも負けない。たとえ、ルシエルが風の精霊に愛されるハイエルフであって、強力な風の精霊魔法を使えるのだとしても――ファムがいる限り、ナンバー1にはなれない」
「なんだと? おま……おま……この風の精霊魔法の使い手ルシエルさんに向かって……」
「ごめんね、ルシエル。風属性魔法術者の頂点にファムがいて」
ムッキーー!! 何を言っているんだ? ファムは!
風の使い手と言えば昔からエルフと決まっているし、その中でもオレの精霊魔法は随一だ。しかもオレはクルックピーレースのチャンピオンだぞ!! 関係ないかもしれないけれど!! ムッキー!!
オレが! オレが一番、風属性魔法を上手く使えるんだああああ!!
何処かで聞いたようなフレーズを脳裏に浮かべながらも、気付けばオレは、ファムにライバル心を激しく燃やし、ぎりぎりと歯ぎしりをしていた。アシッドスライムを次々と焼き払っていくファムは、そんなオレの顔に気づいて、鼻で笑った。
「ちっきしょーーーー!!!! ファムーー!!!! 風魔法で勝負だあああ!!」
「その言葉を待っていた!! アシッドスライムの弱点は、その身体の中にある核だよ! 炎で焼き払った方が効率はいいけど、どちらが風属性魔法で敵を倒せるか勝負だ!!」
「よし、いいだろう! ファム! 目にもの見せてくれようぞ!! これがチャンピオンの、本来の力だあああ!!」
「チャンピオン?」
「ああ! オレはチャンピオン! その力を見せつけてやる! 《風の刃》!! 《風の刃》!! 《風の刃》!!」
オレは両手を交互に使って、風の刃を何発もアシッドスライム目がけて飛ばした。無数に斬り刻まれるスライム達。やはり、スライム相手だと炎で一気に焼いてしまった方が効率的か。だが、時には避けられない戦いがある。それが今だ!
「フフフ。そんな斬撃魔法で、地道に倒していくなんてルシエルは随分と気が長いんだね」
「おのれーー、ファム! その気になればもっと凄い魔法を見せる事もできるんだぞ!」
「待って、次はファムが見せるばんだ。別に火属性魔法を使わなくたって、風属性魔法で同じ位の効果が得られる魔法がある事をお見せするとしよう! これが、ファムの得意とする魔法だ!」
ファムは自信ありげにそう言って両手を合わせた。そして魔法詠唱を始めるとアシッドスライムが沢山集まっている辺り、半径10メートル程に白いサークルが発生した。
「これがファムの得意魔法! 《風撃大噴火》!!」
サークル内、地面から天井に向かって強烈な突風が吹き上げる。その範囲内にいるアシッドスライム達は、強力な風に巻き上げられて洞窟内天井に、勢いよく叩きつけられた。
グチャグチャになったスライムが、天井に投げつけられたヘドロのようにボトボトと落ちてくる。これは、とんでもない魔法だ。ファムのイメージから、もっと大人しい魔法を使うと思っていたのだが。
こうなったら、オレも本当に本当の本気を見せてやるか。オレはこっちへ続々と近づいてくる残りのアシッドスライム目がけてウインドショットの上位魔法を放った。
「ファム、この魔法を見て驚け! 《竜巻轟発射》!!」
オレの両手から竜巻のようにうねった大量の風が、アシッドスライムの群れ目がけて衝撃波のように放出される。それはアシッドスライムがここへ向かってきた洞窟の遥か向こうまで、貫いていく。巻き込まれたスライムやその辺にある石は、衝撃波の中で高速で回転し、壁に勢いよく叩きつけられ粉砕された。
オレとファムが任された真ん中……中央ルートから流れ込んできていたアシッドスライムはこれで殲滅できたようだ。
その大量に迫り狂うアシッドスライムの群れをたった二人で殲滅した圧倒的な光景に、オレ達は顔を合わせ称え合った。
「やるじゃないか、ルシエル! 君の風属性魔法はひょっとしたら、ファムの次位に凄いかもしれない」
「いやあ、ファムの風撃大噴火って魔法も凄くてびっくりしたぞ! まあ、オレが風のチャンピオンである事については、不動である事には変わりないが、ファムがオレの次に凄いというのを認めてやってもいいな」
「フフフ」
「ハハハハ」
オレは、ファムと熱い握手を交わした。
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〚下記備考欄
〇火炎昇竜 種別:精霊魔法
中位の、火の魔法。火炎の竜巻を巻き起こして、敵を焼く範囲魔法。
〇風の刃 種別:精霊魔法
下位の、風の精霊魔法。かまいたちを放ち、風で相手を斬る魔法。切れ味鋭く。ロープなどなら簡単に切断できる。言わば、飛ぶ刃。
〇風撃大噴火 種別:黒魔法
上位の、風属性魔法。広範囲に狙いをつけて風の魔法陣を展開し、その範囲内にいるものを強烈な突風で上空へ吹き飛ばす。
〇竜巻轟発射 種別:精霊魔法
上位の、風の精霊魔法。対象に目掛けて竜巻を発射できる。また、横薙ぎに放つ事もでき、威力も岩を穿つ程の強力な破壊力を誇る魔法。




