第165話 『ロックブレイク防衛依頼』
ラコライさんのもとへ行くと、ロックブレイク中の冒険者達が集まっていた。その中にはミューリやファムにギブン――あれ? 引き返して来たのか、旅立ったと思っていたキョウシロウもいた。
ラコライさんが皆を前にして、大声で呼びかけた。
「皆!! 落ち着いてくれ!! 今、このロックブレイクには、北の洞窟から大量の魔物共が向かってきている。つまりこの拠点は、現在極めて危険な状態となってしまった。……だからここにいる皆には、慌てず速やかに安全な場所へ非難してもらいたい。そして、もし手を貸してくれる者がいるというのであれば、我々と一緒に魔物と戦ってもらいたい!! できる限り喰いとめるんだ」
「どうする…………」
「俺は死にたくない」
「今のうちにロッキーズポイントまで逃げるか」
「確かにそうすれば、他の冒険者に助けを求める事も可能かもしれない」
「だけどなあ、ラコライは残るみたいだし……」
パラパラとあちらこちらから、冒険者達の悩む声が聞こえてくる。私は人をかき分けて前に出た。
「すいません。通して下さい。と……通ります。すいませーーん」
「アテナ!」
「ラコライさん。ちょっと聞きたいんだけども、北の方から魔物が押し寄せてきているって言っていたけど、その魔物ってなんなの?」
「ああ。魔物とはスライムだ。大量のスライムがこっちへ向かってきている」
スライム⁉ スライムと言えば、色々な種類があったりするけど、洞窟だものなー。あっちのタイプのスライムだろうな。
「スライムっていうのは、相当危険な種類なのかな?」
「ああ。アシッドスライムだ。それが大量に向かってきている」
やっぱり、そっちのタイプのスライムかーー。あまり戦いたくない方のスライムだった。ルキアが私の腕を引っ張った。
「アテナ! スライムって私の村の近くでもたまに見かけました。なんだかプルプルしてて、それ程危険な感じはしなかったですけど」
「うん。ルキアの知っているスライムは、あまり驚異じゃないスライム。ゼリー状で草原とかに生息しているスライムなんだけど、今ここへ向かってきているスライムは液状のスライムで、ドロドロしているの」
「ド……ドロドロですか」
「ラコライさんが言ったけど、アシッドスライムって種類みたいだよ。確か昔私が子供の頃に、少量だけど王都の下水にそのスライムが現れて大騒ぎになったんだよ」
犠牲になった兵士もいた。最終的にはゲルハルトがウィザード数人と、兵全てに松明を持たせて全部焼き払って討伐したんだっけ。そうだ。アシッドスライムは火が弱点だったはず。
「それで、誰か一緒にこのロックブレイクを守る為に戦ってくれる者がいれば募りたい。アシッドスライムはもうそこまで来ている。あまり時間もない。助力してくれるのであれば、申し訳ないが今すぐ挙手して頂きたい!」
よし! 私も協力しよう! そう思った時だった。ルシエルが手を挙げる。
「はいはいはーーーい」
「え? ルシエル? 何だ? 我々と一緒に戦ってくれるのか?」
「これってギルドからの正式な依頼要請なのか? 報酬とか、冒険者ランクの評価とかと関係する?」
「本来、こういった緊急の場合の依頼要請の報酬は、高額だ。もちろん、はずませてもらうさ!!」
「っしゃーーー!!」
ルシエルが雄叫びをあげた。まったく、この子はたこんな時でも逞しい。ルシエルが私の方を見て「もちろん、やるよね?」って顔をしたので頷いて見せた。
「ラコライさん。私達もここを守ります」
「おーー!! それは助かる!! でも、本当にいいのか? 頼んでおいて、こんな事を言うなんて矛盾しているが、かなり危険な相手だぞ」
「その代わり、条件があるんだけど――まずアシッドスライムには、私達でぶつからせてほしいの。それで喰止められるだけ、喰い止める。それで、もしも突破されたら、その突破した分のスライムをラコライさん達に叩いてほしいの」
「なるほど。二重に守りを作るって事か。だが君達が強い冒険者だって事は知っているが、大丈夫なのか?」
「もう時間がないんでしょ。やるしかない。それに全部は無理かもだけど、ある程度押さえる自信はあるよ」
ラコライさんは、一瞬考える素振りを見せたがすぐに私に「頼んだ」と言った。
私はすぐに戦いの準備をして、ルシエルとルキアと共にアシッドスライムが迫って来ているという方へ向かう事にした。因みにカルビは、ラコライさんに預けて来た。カルビにとって、アシッドスライムは相性が悪いと判断したからだ。ジャンケンで言えばカルビがグーとしたら、アシッドスライムはパーと言ったところ。
「じゃあ行ってきます!! できるだけやっつけてくるから!」
「まあ泥船に乗ったつもりで、待っててくれ! オレ達の本気を見せてやろう!」
「ルシエル、泥船だと沈んじゃいますよ! それを言うなら、大船だと思います」
「あれ? そうだっけ? ルキアはなかなか博識だなー。はっはっはっは!」
「アテナ! ルシエル! ルキア! くれぐれも無理をするな! アシッドスライムは強力な酸を吐いて攻撃してくる。下手をすれば、火傷だけじゃすまない。だから、ちょっとでも駄目だとか危険だと思ったら、すぐにここへ引き返してくるんだぞ! 解ったな?」
解ったと言って手を振ろうと、振り返った。すると、ロックブレイクにいる大勢の冒険者達が手を振って私達に声援を送ってくれていた。ルシエルが言った。
「どうやら皆、ここで残って戦うみたいだな」
「そうだね。私達も頑張ろうね」
「アテナ!」
ルキアの声、振り返ると後方から何人かが私達の方へ駆けてくる。
「ミューリさん、ファムさん、ギブンさん! 皆私達と一緒にスライムを喰い止めに来てくれるんですね! ……あれ、もう一人いるみたいだけど、あの男の人はどなたでしょうか?」
「うん。キョウシロウっていう侍。私の知り合いなんだけど、手を貸してくれるみたいね」
自分で言うのもちょっとおこがましいけど、言わせてもらえるならば、このロックブレイクに今集まっている冒険者達の中で、最強のパーティーが編成されたと思った。
これならアシッドスライムの大群を撥ね退けるどころか、きっと殲滅できるに違いないと思った。
――――絶対に、私達がロックブレイクを守り切ってみせる。
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〚下記備考欄
〇ギブン 種別:ドワーフ
ノクタームエルドを中心に活動する冒険者で、ミューリやファムとは顔なじみのよう。ウォーハンマーを武器として持っている。白く長い髭が、よりドワーフっぽさをかもしだしている。アテナ一行や、ミューリやファムと同じく、ロックブレイクに滞在中。
〇スライム 種別:魔物
プルンプルンしている魔物。草原でよく見かける魔物。人を見かけると攻撃してしてくる事もあるが、あまり目がよくなく弱い魔物なので、脅威度は最低レベル。繁殖期というものはなく、分裂して増える。人間の子供でも棒でもあれば戦えるため、分裂でもして増えないとあっという間に淘汰される。
〇アシッドスライム 種別:魔物
洞窟や下水などを好むジェル状の魔物。通常のスライムと違って非常に危険。体液自体に酸性の毒が含まれており、それを吐きかけて攻撃もしてくる。危険な魔物で冒険者に見つかれば直ぐに討伐される魔物だが、魔法使いによっては生きたまま捕獲して、自分の研究所やアジトのトラップとして利用したりもするという。餌は、なんかしらの肉を与えておけばよく、腐った肉でも問題はない。もちろん、アンデッドも捕食する。火が弱点。




