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第164話 『大洞窟でもグルメを楽しみたい』



 その素敵な味に、思わず声をあげてしまった。



「なにこれ! 美味しい!」


「フッフッフ。だろっ?」



 ルシエルが持って帰って来たへんてこな果実は、意外な事に甘くて美味しかった。見た目はちょっとあれだけど、中身は鮮やかな色をしていていて瑞々しくて――――

 


「こんな果実、何処で見つけてきたの?」


「なんか、ダンジョンフルーツとかいう種類の果実らしいぞ。マナがいい感じにあって、綺麗な水の流れる洞窟の中なんかで自生していたりするそうだ。売っていた人からそう聞いた」


「ふーーん、不思議な果実ね。……シャクシャクシャクッ」



 マナというのは、辺りに漂う魔力の事。霧のように漂っていて、濃度が濃ければ肉眼で確認する事もできる。洞窟などダンジョン内で、確認できる場所が多い。



「ただいま戻りました」



 振り向くと、ルキアが帰って来た。手に何か包みを持っている。何か良い物の予感。



「おかえり、ルキア」


「ミューリさんとファムさんから、おすそ分けでお肉をもらいました。ホワイトヌーという、主に荒野に生息する牛に似た魔物のお肉だそうです。とても美味しいそうですよ」


「ホ……ホワイトヌー⁉」



 ルシエルが飛び上がった。何かあったのかな? それを聞くと、ルシエルはロッキーズポイントでチギーと狩りに出た時の事を語った。なるほど、確かにそんな事があったと言っていた。ホワイトヌーのゾンビ。そんな経験をしたんなら、ちょっとギョッとするかも。でも、このお肉は大丈夫だから。


 腕時計を見ると、夕方になっていた。洞窟の中にいると、昼か夜か全く解らないし気づいたらあっという間に時間が過ぎ去っていくような気もする。そろそろ夕御飯にしよう。


 私はルシエルとルキアに、晩御飯の支度を手伝って欲しいと言った。



「おーそうだ、ルキア」


「はい?」


「作業開始する前にこれ食べてみろ。これ!」



 ルシエルは果実を、ルキアに勧めた。ルキアもやはり、そのへんてこで異様な形のダンジョンフルーツにびっくりした表情をする。だけど、恐る恐るルシエルが差し出した果実に手を差し伸べた。



「で……では、おひとつ頂きます。シャクシャクシャク……」



 咀嚼。ルキアの目が、キラリと輝く。美味しい物を食べた時の顔だ。



「お、美味しいです!! とても瑞々しくて、もっと食べたいです!!」


「はいはいはい。果実はそこまでにして、先にご飯の準備をしようね。はい、二人共協力してくださーーい」



 この辺で止めておかないと、折角いいお肉を頂いたのに、それを味わう前に果実でお腹がいっぱいになっちゃう。



「は……はいっ!」


「おいーーっす」



 ホワイトヌーのお肉を、まずルキアに食べやすいように切り分けてもらう。ルシエルには焚火に薪を足してもらって網の準備など火の番をしてもらう。



「ホワイトヌーの肉は、どうやって食べるんだ?」


「うーーん。とりあえず、もっと食材があればレパートリーも考えるんだけど、ここじゃあまり手に入らないからね。昨日と同じだけど、味付けを変えて焼肉にしようと思っているよ」


「ほーーう、昨日と同じく焼肉か。それならオレも吝かではないぞ」



 ちょっとちょっと、ルシエル、口から少しよだれが垂れてるよ。


 ルキアが食べやすい大きさに切り分けたホワイトヌーのお肉を、鍋の中に入れる。そこへ特製のタレと胡椒、あとは隠し味としてそれ用に以前作りおきしていた、乾燥させた料理に合う薬草を刻んでまぶす。


 お肉に十分それらが、染み込んで味が整ったら、ルシエルが用意している焚火の上に設置した網へ順番にお肉を乗せて焼いていく。ジュワワワーーっと食欲をそそる音と、におい。たまらないよーーーう。



「もういいか! もういいだろ? アテナ! もうきっと焼けたぞ!」


「ルシエル! もっとお行儀良くしてください! 食べられる状態になったら、ちゃんとアテナが言ってくれますから」



 私はウフフと笑って、二人を差し置いて先に箸でお肉を挟んで口へ運んだ。



「おーーいしーーーーい!!」


「こ……こら!! アテナ!! おま……先に!!」


「あ、アテナったら!」


「あははは。ほら、二人とももうお肉焼けてるよ」



 ルシエルもルキアも焼肉に飛びついた。やっとそのニオイに気づいた寝坊助のカルビも勢いよくテントから飛び出して来た。皆、夢中になって美味しそうに食べる。フフフ。


 食事を楽しみながらルキアは、ミューリとファムの所に行っていた事を話してくれた。ファムにはかなり、風魔法の事やこのノクタームエルドの魔物や採取してきたキノコなどの事など、動植物について色々と聞いてきたらしい。風魔法については、興味があるならこの機会にエキスパートのファムに色々と教わって来れたのはいい勉強になったかも。ルシエルは使えると言っても精霊魔法だし、ルシエルはあまり人にものを教えたりっていうのは苦手な気がするから。


 食事も終えて、お腹も落ち着いた。直後のお茶を楽しもうと3人分入れると、それでついにお茶が無くなってしまった。明日、旅立つ前にもう一度このロックブレイクの売り場を覗いて、お茶かそれに代わるものが無いか見ていこうかな。


 腕時計を見ると、22時を回っていた。懐中灯もそうだけど、本当に腕時計をモルトさんから購入しておいて良かったと常々思う。



「さあ、そろそろ明日に備えて眠ろうか」


「はい」


「おう、りょーかい」



 私達はテントに入り、眠りに付いた。


 ――――どれくらい、眠っただろう。


 外がなんだか騒がしい。私とルキアが眠るテントへルシエルが入って来た。



「アテナ、起きろ」


「うん? 何かあった?」


「ロックブレイク内がなんだか騒々しくなったんで、目が覚めた。それで聞いてきたんだが、どうやらここへ魔物の大群が押し寄せてきているらしいぞ」



 え? 魔物の大群がここへ? 私は飛び起きた。



「むにゃむにゃ……あれ? アテナ? ルシエル? どうしたんですか?」


「ルキア、起きて。ここへ魔物の大群が押し寄せているらしいわ。急いで準備して! 私達にも何か手伝えることがないか、聞いてこようよ」



 ルキアもそれを聞いて飛び起きた。


 私達は急いで、まずラコライさんのもとへと走った。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇ミューリ・ファニング 種別:ヒューム

赤髪マッシュヘアの女の子。ノクタームエルドを中心に活動する冒険者。だけど、キノコを収穫してポーションなどと共にロックブレイクで売っていた。人懐っこい性格。


〇ファム・ファニング 種別:ヒューム

緑色の髪の女の子。ノクタームエルドを中心に活動する冒険者。ミューリの妹。口数が少なく大人しいように見られがちだが、意外と博識で興味のある事にはものっそい喋り出す。


〇ホワイトヌー 種別:魔物

牛の魔物で、皮膚も体毛も白い。相手を挟み込むような立派な角を持っているので、追い詰められて反撃してくると危険。お肉も美味しくて焼いても鍋にしても良い。もちろん、クリームシチューに入れてもベリーグー。


〇ダンジョンフルーツ 種別:食べ物

洞窟や苔や植物の根など生い茂った遺跡などに生息している果実。形は、歪な物や色鮮やかな物が多い、食べれないものや、毒のあるものもあるがとても美味しいものも沢山ある。とりわけマナの多い場所で育つダンジョンフルーツは美味しい。因みに、ダンジョンフルーツとは、そういうダンジョンで採取できる果実の事で、それぞれに名前がある。険しい場所や隠れた場所に自生している事が多く、一般流通はあまりしていない。


〇マナ

洞窟やダンジョン、森などに漂っている場合がある。空気のように、実はそこら中にあるが濃度によって、目に見える場合もある。ウィザードや魔物などは、それをその他の者よりも敏感に感じとれる。マナが多い所には、魔力を含んだ特殊な物が生まれる事がある。

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