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第163話 『やっぱり薪で焚火がしたいんですっ』 (▼アテナpart)




 ミューリとファムの依頼、特殊なキノコ5種の採取を達成し、ロックブレイクに戻ってきていた。冒険者ギルド関係者のラコライさんにその依頼達成の報告を終えると、報酬を受け取った。


 ルシエルは、マイコニッドというキノコ型の魔物の毒に侵されて動けなくなって大変な事になっていたけど、解毒効果のあるキノコポーションですっかり元気を取り戻していた。


 ルシエル自体、もう身体は大丈夫だと言っていたけど用心の為、もう一日このロックブレイクで休息してからドワーフの王国へ向かう事に決めた。


 なので、今日はお休み。ルシエル、ルキア、カルビ共に丸一日時間ができたので、それぞれ思い思いに時を過ごしている。


 ルシエルはまたその辺に散策に出たみたいで、ルキアの方はミューリとファムの所へ行っている。


 そしてカルビは、私とキャンプでゆっくりしているのだ。



「しかしここは、本当に不思議な所だなー。ダンジョン自体、あまり挑んだ事はないけれど、ここは世界全てがダンジョンなんだもんね」



 カルビの可愛い二つのある耳を、両手でフニフニっと触って一頻り堪能したら、テントから出て焚火をしていた場所の前に座った。


 

 ワウ?



 ロッキーズポイントを出てから、ノクタームエルドという大洞窟が広がる世界に入ってもうかれこれと太陽や雲、月とか大空自体を見ていない。今まで当たり前かのように毎日目に入っていたものがそうでなくなって、すでにもう懐かしくも思う。


 振り返ってテントの方を見ると、その中でカルビは気持ちよさそうに丸くなって眠っていた。なんて、寝つきのいい子なのだろう。そう思いながらも呟く。



「カルビは、ずっとこの洞窟内にいて外の世界が恋しくはならないのかな」



 残り僅かしかないお茶を入れようと、焚火をおこす。ここで購入した薪茸という燃料キノコを使用してはいたけど、やっぱりちょっと木の薪が恋しくなった。だから、ミューリ達の依頼を達成した報酬も手に入ったので奮発して木の薪を購入した。


 それで早速、木の薪で焚火をしているけど――――


 パチパチと心地よい、枯れた木の燃える音。やっぱり、木の薪で焚火をするのは凄くいい。うん、これだよね。音も匂いも――全てに癒される。


 水を入れた鍋を火にかけて、お湯になるまで少し読書をした。


 お湯が沸いたので、お茶を入れる。すると、焚火の近くに一人の男がやってきた。



「やあ、ちょっと聞きたいんだが……もしかしてそれは、茶か?」


「ええ。そうよ」



 笑って答えると、男は物欲しげな顔をしてお茶と私の顔を交互に見返した。



「あはは。良かったら、あなたもお茶をいっぱいどう? 美味しいよ」


「本当か? 俺もお茶を飲ませてもらってもいいのか?」



 にっこり微笑んで頷いた。男は、焚火の前に手ごろな石を持ってくると、置いてそこに座った。私は自分の分とその男の分のお茶を入れると、男に「どうぞ」と言って差し出した。



「すまんな。ゴクリ――――美味いな! やっぱり茶はいいなあ」


「そのお茶は私が色々お茶になる薬草をいつくも採取して、それを選別しブレンドして作った特製の薬茶よ。美味しいでしょう?」



 男は頷いた。そして、自己紹介をしてきた。



「俺はキョウシロウという」



 キョウシロウ。遥か東方にある国――そこにいる人達がそういう感じの名前だった気がする。東方の商人などがクラインベルト王国にも来たことがある。服装も、着物という変わったものを着ているし、腰には刀を差している。間違いない、このキョウシロウという男は東方の国の【侍】という者だ。



「私はアテナ。旅する冒険者よ」



 握手を交わすと、キョウシロウは続けた。



「アテナか。いい名前だな。しかも美しい……女神のようだ」


「え⁉ め……女神?」



 咄嗟にそんな事を言われて、私は顔を真っ赤にしてしまった。いきなり美しいとか、女神ってどう反応していいか解らないよ。……とりあえず、平静を装う。



「あ……ありがと。キョウシロウは、なかなか人を誉めるのが上手なんだね。お茶のお礼と思って素直に喜んでおくね」



「はっ! そうだった。行き成り会うなり、茶を馳走になってしまって申し訳ない、感謝する。ありがとう。俺は仕事があって、このノクタームエルドにやって来たんだ。だがこのノクタームエルドという洞窟世界は、茶とかそういった物が、なかなか手に入らんのだな。少しホームシックになっていた所を、あんた……アテナが薪を使って焚火をしているのを見て、声をかけてみた」


「そうなんだ。ここじゃ、燃料キノコを使って皆焚火をしているみたいだから、私もそうしていたんだけど、やっぱり木の薪で焚火をするといいよね。火の燃える音やにおいも全然違うし」


「うむ、確かにその通りだ。心が落ち着く」



 ――――そんななんの変哲もない会話を続けて、暫く二人で焚火の炎を見つめていた。



「いや、邪魔をしたな。そろそろ行くかな」


「うん。キョウシロウは、仕事でこのノクタームエルドに来ているって言っていたけど、もうそこへ向かうの?」


「ああ。俺の仕事は用心棒……っというか、護衛かな」


「やっぱり! じゃあ、キョウシロウはやっぱり侍なんだ。刀も持っているしね」


「ん? ああ、よく知っているな。俺は侍だ。このロックブレイクからもっと北西へ行った所に鉱山があってな。俺の雇い主がそこで宝石やらなんやらを掘っているらしいんだが、そこは魔物もでるそうなんだ。だから俺の仕事は、そこへ行って魔物が出た場合に、探鉱作業や採掘している者達を守ってやる事なんだよ」


「へえー! じゃあキョウシロウってもしかして、かなり強かったりするのかな?」



 そう言うと、キョウシロウは笑って私に、自分が帯刀している刀を少し触る仕草を見せた。



「じゃあアテナ。また何処かで会う事を楽しみにしている。それと、美味しいお茶をご馳走さま」


「うん、どういたしまして。私もまた再会できればって、楽しみにしているね」



 キョウシロウは、私に軽く頭を下げると歩いて行ってしまった。


 ここから北西にある鉱山か――――


 私達の向かっているドワーフの王国って言うのも、ざっくりだけど同じ方向だからキョウシロウとはまた出会うような気もするな。



「おーーっす! ただいまーー」



 声の方を見ると、なんか見た事もない果実のようなものを沢山抱えたルシエルが帰って来た。私はその得体の知れない果実のようなものを見るやいなや、怪訝な表情で「おかえり」と答えた。

 






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇アテナ・クラインベルト 種別:ヒューム

本作品の主人公。Aランク冒険者で、その正体はクラインベルト王国第二王女。二刀流の使い手で魔法も使える。ルシエルやルキア、カルビと共にパーティーを組んでノクタームエルドを冒険中。


〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ

Bランク冒険者。弓と精霊魔法の使い手。とても森の知恵者と呼ばれるエルフとは思えない性格で、お調子者でがさつで食いしん坊。何かがあって住んでいたエルフの里を出てクラインベルト王国までやってきてアテナと知り合ったようだが、旅をしていた理由は不明。本人が語らないので、アテナは聞いていない。今はアテナと冒険に心をときめかせている。


〇ルキア・オールヴィー 種別:獣人

Fランク冒険者。猫の獣人で、心優しき女の子。アテナに助けられてからは、一緒にパーティーを組んで旅をする。その間に、文字を覚え剣術などを稽古しキャンプや冒険の知識を学んで日々成長をしている。ルシエルがいつも暴走するので、私がちゃんと見ておかないといけないと思っている。因みにルシエルは114歳でルキアは9歳。


〇カルビ 種別:魔物

子ウルフで、ルシエルの使い魔。一応使い魔という事にはなっているけれど、アテナ一行の4人目の仲間。カルビはウルフにしては、知能が高く協調性もあって使い魔の素質がありありだった。ニガッタ村のエギーデ曰く、カルビはウルフはウルフでも、亜種のようだと言っていた。


〇ラコライ 種別:ヒューム

ロックブレイクに駐在している冒険者ギルドの者。彼と話をすれば、冒険者ギルドの依頼の受注や報酬の受け取りなどできる。


〇キョウシロウ 種別:ヒューム

遥か東方の国からやってきた侍。腰には、刀と言う武器を差している。強者が持つ風格のようなものを纏っており、アテナも彼もお互いに興味を持った。


〇ロックブレイク 種別:ロケーション

ノクタームエルドに広がる大洞窟内にある、冒険者達の拠点。キャンプや買い物、冒険者ギルドの依頼も受注できる。


〇アテナ 種別:女神

この世界には神がいると言われ、崇められている。女神アテナは、知識や芸術、戦いの女神としても崇められ、アテナが祝福した者は必ず勝利すると言われている。冒険者アテナは、その女神アテナから名をつけた。

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