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第162話 『元Sランク冒険者』 (▼テトラpart)




 まさか盗賊のアジトにマリンが現れて、私達の前に立ち塞がるだなんて、誰も夢にも思わなかった。マリンはルーニ様救出の旅の際に知り合った私とセシリアの友人で、助力もしてくれた。今はバンパに騙されているだけ。彼女が私達の前に立ち塞がるのは、彼女の本心の行動ではないとバーンさんに説明した。


 バーンさんは、私達とマリンの関係を理解してくれていた。


 だけど、私とバーンさんの二人で、マリンを抑え込もうとしたけど、まるで敵わない。こんなに強かった? って思っていたら、確かホーデン湖を魔法で真っ二つに割って、そこを歩くというような事ができるウィザードだった事を思い出した。尋常ではない、規格外の魔力を秘めてはいるけど何処かフワフワしていて底が掴めない――それがマリン。


 マリンとの戦闘中、隙を見て逃げようとしたバンパは、私達の戦いに巻き込まれて無残にも吹き飛ばされて気を失った。今は、部屋の隅で、転がっている。あとは、マリンをどうにかするだけなんだけど…………


 マリンも私達に攻撃を仕掛けてはくるけど、手を抜いてくれていると言った感じだ。だって、マリンの本気はこんなものじゃない。だけど、それは再会した最初の辺りだけで、今はもう本気になった様子のバーンさんと一騎打ちを繰り広げている。



「元Sランク冒険者にここまで本気を出させるなんて、とんでもねえ娘っ子だな! だが、ここからは本当にマジで行くぜ!! 覚悟するんだな!! だああああああ!!」


「無駄だよ。何度斬りかかってきても、押し返す。《水大砲(ウォーターランチャー)》!!」



 マリンが魔法詠唱し、片手を翳すと大量の水が大蛇のようにバーンさんに襲い掛かった。


 バーンさんと私は、さっきからマリンを抑え込もうと向かって行っては、この魔法を浴びせられて押し戻されている。マリンは壁を背にしているし、このままじゃいつまで経っても近づけない。



「いつまでも、同じ方法が通用するだなんて思うなよな!! どりゃああああ!!」



 バーンさんはそう言って、マリンの水大砲(ウォーターランチャー)を擦れ擦れで回避し、持っている大剣で大蛇のように襲ってきている大量の水を横薙ぎにした。



「むっ、これは驚いた。やるね、おじさん」


「お兄さんだよ!! お嬢ちゃん!!」



 バーンさんが踏み込む。



「近づかせないよ。《水玉散弾(ウォーターショット)》!!」


「水水水……全く、なんて鬱陶しいウィザードなんだ!」



 一気に距離を詰めてくるバーンさんを、迎撃するかの如く、マリンは水の散弾をバーンさんへ打ち込んだ。しかし、バーンさんはニヤリと笑みを浮かべ大剣の表面をマリンに向けると盾として防ぎ、かまわず突っ込んだ。



「あれ? おじさん、こんなに強いの? これは誤算だったよ、甘く見すぎていた」


「そう思っているのは、お互い様だな」



 マリンの目前まで詰めたバーンさんが、マリン目がけて大剣を振り上げた。


 ダメ!!


 ――止めないと! 私は二人に出せるだけの声を振り絞って「もう止めて!」と、叫んだ! 

 

 すると、二人はピタリと動きを止めた。二人は、私の声ではなく別の何かが目に入ったので戦いを止めたようだった。


 セシリアとリア、ミラールが大勢の子供達を連れてやってきたのだ。マリンはその光景を見てキョトンとしている。



「子供達……これはいったいどういう事だい? テトラ、良ければ説明してくれないかな?」


「だからさっきから言っているじゃないですか!! マリンは、バンパに騙されていたんですよ! ここは子供達を攫ってきて、奴隷商に売り飛ばしている悪い盗賊団のアジトなんです。私達は、攫われた子供達を助けにここへ来たんですよ! その証拠にもうじき、ここにクラインベルト王国の兵士がやってきますよ」



 痩せこけた身体。ボロボロになった衣服を身に纏う子供達、そして私やセシリア、バーンさん達を見つめようやく悪者に利用されていた事に気づいたマリンは、青ざめ始めた。


 そして、気まずそうにその場で土下座をして見せた。



「ごめんなさい……勘違いだったようです」



 バーンさんは、溜息をついた後、笑って許してくれた。


 それから間もなく、クラインベルトの王国兵と、エスカルテ、リオリヨンの両方の街の冒険者ギルド関係者が、アジトへ雪崩れ込んできた。


 子供達は、無事に保護されとりあえずそれぞれの街へ送られる事になった。


 バーンさんは、部下達や王国兵士に何か指示を出した後、私達の方へ近づいてきて言った。



「ご苦労さん。これでこのアジトは壊滅、任務完了だ。俺はここでもう少しやる事がある。『闇夜の群狼』の他のアジトが、まだこの国にいくつかあるはずだ。だから、少しでも手がかりがないか調べておきたい」


「私達にもお手伝い出来る事があれば、言ってください」


「王国兵の他に、冒険者ギルドからも応援がきているからな、大丈夫だ。気持ちだけ受け取っておくよ。それより、お前らエスカルテの街に行くんだろ? それなら馬を用意させるが?」



 セシリアと顔を見合わせた。



「ありがとうございます! それじゃ、遠慮なくお借りしますね」



 リアがミラール君に言った。



「ミラールも一緒にいくでしょ?」


「師匠。僕もリアについて行っていいですか?」


「おう。しっかりとお前が責任をもって、エスカルテの街までお嬢さん方を護衛してやれよ。少ししたら俺も戻るから、お前はエスカルテに付いたらそのまま街にいればいい。リア達を案内してやれ」


「はいっ! ありがとうございます! 師匠!」



 私とセシリア、リアとミラールは一緒の馬に乗るみたいだから、あとはマリンの分で計4頭の馬をお借りした。



「馬はエスカルテの街についたら、冒険者ギルドの外に繋いでおいてくれればいい」


「はい。では、お先に失礼します」



 バーンさんに手を振って、私達はエスカルテの街を目指して馬を駆けた。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


水大砲(ウォーターランチャー) 種別:黒魔法

下位の、水属性魔法。下位の水属性魔法の中では強力。勢いある放水で、目標を撃つ。

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