第161話 『VSサクゾウ』 (▼セシリアpart)
テトラとバーンさんは、見事にアジト正面で盗賊達を引き付けるという作戦を成功させていた。二人が、かなり大騒ぎしてくれているお陰か、賊のほとんどがそこへ集まっているようだった。
アジトに忍び込むなら、今しかない。私はリアとミラールに目で合図を送ってアジトの中へ侵入した。
テトラから聞いていた通路を見つける。何人か残っている見張りをかわしつつも進む。この先に行けば、牢があるはず。リアが小さな声で耳打ちした。
「この先ですよね。でも、見張りが何人かいるようです。どうしますか?」
「そうね。4人位か……私達だけでもなんとかなりそうな人数だけれど」
ミラールが背負っている長剣を抜いた。
「セシリアさん。やりましょう。僕は冒険者としては、まだまだひよっこですが、毎日あのバーン・グラッドに稽古をつけてもらっています。4人程度なら不意を突けば倒す自信はあります」
長引かせても、何があるかは解らない。それに子供達を助け出してしまえば、テトラやバーンさん、それに後々突入する王国兵も遠慮することなく賊を殲滅できる。
「いいわ、やりましょう。最初に私とミラールで突入するから、リアは私達を援護してくれる? 使い方は解るわよね?」
そう言ってリアにボウガンを手渡した。
私はナイフを取り出すと、ミラールと共に牢を見張っている盗賊にゆっくりと忍び寄った。
「なんだ? うっ!!」
私とミラールで素早く同時に2人倒す。残り2人。
「侵入者か!! 貴様ら!」
気づかれた。盗賊は剣を抜いてこちらに向かってきた。やるしかない。だけどナイフで剣とやり合うのは、分が悪い。ここは、用心して持ってきたスクロールを使用した方がいいかもしれない。そう思った刹那、私目がけて向かってくる盗賊の足を矢が貫いた。
「ぎゃあ!」
盗賊はその場に倒れて、悲鳴をあげた。矢が足を貫通している。賊はもう戦意喪失しているようだ。見事なリアの、後方からの一撃だった。
「リア! ありがとう!」
「セシリアさん、気を付けてください! ミラールが!!」
――――ミラール!! はっとして振り向くと牢を見張っていたもう一人の盗賊にミラールは倒されていた。
「ミラール!!」
叫ぶとミラールは、少し反応した。――良かった。出血している様子もない。殴り倒されたのだろうか?
「久しぶりだな。メイドの嬢ちゃん。まさかこんな所で再会できるとは思ってもみなかったぜ」
再会? 盗賊の顔を見て、私はナイフを再び構えた。鎖鎌を持った隻眼の男、確かサクゾウという名の賊。
サクゾウは、鎌鎌の分銅がついてる方をブンブンと回転させ始めた。この男は王都スラム街の酒場で、テトラやアーサーと戦っていい勝負をしていた。果たして武術なと戦闘訓練もした事が無い私なんかが、まともに戦って勝てるのだろうか?
「再会ついでに、おまえと狐のメイドには借りを返したいんだがな。まあいい、順番だ。まずはおまえからだな」
サクゾウはそう言って、倒れているミラールの頭を踏みつけた。ミラールは一瞬、声をあげる。私はナイフを強く握るとサクゾウ目がけて飛び込んだ。鎖の音と共に分銅が飛んでくる。
「うぐっ!!」
肩に激痛が走り、腕が痺れる。目をやると分銅が私の肩へめり込んでいる。前に戦った時は、テトラが代わりにこの分銅を受けてくれたけど、気が狂いそうな位に痛い。
――――だけど、テトラだって耐えた。ここぞという時は私だって耐えられる!!
力いっぱいに踏み込んで距離を詰める。サクゾウに向かってナイフを勢いよく斬りつけるが、鎌で軽く弾かれてしまった。
「ふん! 期待外れだ! 狐のメイドと、あの時一緒にいたキザな剣士がとんでもねえ強さだったから、おまえも強いのかと思っていたんだがな。ちょっと気が強いだけの、ただのメイドか」
サクゾウの言葉にカチンときた。私は持っていたナイフで更に斬りつける。サクゾウの顔に笑み。完全に私を見くびっている顔だと確信した私は、もう一度ナイフで斬りつけるのと同時に、懐からスクロールを取り出してサクゾウに翳した。サクゾウは、驚いた顔をし、私から距離を取ろうとした。――だが遅いわ。
「スクロールを隠し持っていたのか⁉」
「うふふ。私はあなたと戦ったテトラやアーサーより、遥かに弱いわ。だけどその分、手加減や出し惜しみは一切しないわよ」
「くそっ!」
「ごきげんよう。《爆風衝撃》!!」
スクロールが光り輝き、サクゾウに向けて魔法が放出された。それは衝撃波さながらの強風。サクゾウを轟音と共に後方の牢まで吹き飛ばした。牢は、サクゾウが飛ばされてきて、叩きつけられた衝撃で破壊された。
「さあ皆出てきても大丈夫よ! 私達はあなた達を助けにきたの。一緒に逃げましょう」
そう叫ぶと、壊された牢から沢山の子供達が姿を見せた。リアが急いで駆け寄る。牢の奥の方にも、動けなくなっている者がいるかどうかくまなく調べている。
私はミラールの手を掴むと、優しく立ち上がらせた。
「ありがとう、セシリアさん」
「一瞬ヒヤっとしたけれど、大した怪我がなくて良かったわ」
「僕がもっと強ければ、セシリアさんのその肩の怪我もしなくて良かったのに……」
「慌てなくてもあなたは、きっと強くなる。リアもね」
そう言って、リアを見た。
リアは助け出した沢山の子供達の話を聞いて、怪我などした者がいないか一人一人の状態を、見てあげていた。
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〚下記備考欄
〇爆風衝撃 種別:黒魔法
下位の、風属性魔法。瞬間的に、広範囲に突風を放つ魔法。




