第160話 『一宿一飯の悪魔』
いくらバーンさんと一緒に二人でと言っても、50人前後という人数の盗賊達に一斉にかかってこられるのは、流石にきつかった。
「たああああ! えいや!!」
「ぐへえっ」
更に何十人かは打ち倒したけど、その間に何回かヒヤッとするような攻撃をもらいかけた。危ないと思う度にバーンさんが私のすぐ隣や後ろに移動してきていて、フォローしてくれる。なんて凄い人なんだろう。
「てめーら、しゃんとしやがれ!! 相手はたった二人、おっさんと小娘だぞ!!」
「カッチーーン。おっさんだと? お兄さんって呼びやがれ!!」
バンパは、二本のナイフを巧みに使い、かなり強そうな気配を漂わせていた。だけどバーンさんは、重そうな大剣でそのバンパを含めた何十人の盗賊を相手にしながらも、こちらを助けてくれている。エスカルテの街のギルドマスターとは言っていたけど、ギルドマスターってこんなに強いのだろうか? それともバーンさんが異常なのだろうか? もともとSランク冒険者って聞いてはいたけど、こんなにも強いなんて……凄いとは思っていたけど、想像よりも遥かに凄いと思った。
「狐ちゃん! ボヤボヤすんな! デカいのが来るぞ!!」
「え? あっ、はいっ!!」
「どりゃあああ!!」
ッガアアアアン!!
ゴルゴンスの不意の一撃。だけど、バーンさんのお陰ですぐに応戦できた。鉞を涯角槍で受け止める。だけど、衝撃で手が痺れた。
「オレ様の一撃を受け止めるだとおお? なんだ? このメイド?」
更にもう一撃。避ける。
「とんでもねえ動きだ!! ハッパ! やっちまえ!!」
ハッパ? 誰かの名前? ゴルゴンスが叫ぶと、後方の茂みの方から見た事のあるアウルベアーが飛び出して来た。爪。相手の攻撃に合わせて涯角槍で、弾く。
ホーーーッ!!
「気を付けろ、狐ちゃん! そいつはゴルゴンスの使い魔だ!」
バーンさんの方を見ると、バンパの他に何十人もの盗賊を相手に戦っていた。周囲には無数に男達が転がっている。他の盗賊達は皆、バーンさんの方へ行っているんだ。それなら私は、ゴルゴンスとこのアウルベアーを倒す!
バーンさんの大剣とバンパの二本のナイフが重なり合い、弾ける。金属音。それを横目に私はゴルゴンスとその使い魔に仕掛けた。涯角槍で思い切り突く。ゴルゴンスは鉞で私の攻撃を防御した。
「やるなあ! 狐女!! しかし2対1だ。しかも、俺様とハッパは最強コンビだ。何者だって俺様達にゃ勝てやしない。ハッパ! いけ!」
ホーーーーーッ!!
顔は梟だけど、身体とそのパワーは熊。受け流す感じで攻撃は受けないと、まともにもらったら吹っ飛ばされる。
長期戦は不利だと判断した私は、尻尾の力を使った。4本の尻尾のうち、1本が光始める。
「やあああああ!!」
――――高速突き、一閃!
「どわあああっ!!」
ゴルゴンスを狙った一撃。ゴルゴンスは私の突きを受けようとしたが、涯角槍はゴルゴンスの鉞を貫き折った。突きはそのまま貫通して、ゴルゴンスの脇腹をえぐった。
ホーーーーーーッ!!
ザクリッ
血が飛ぶ。
「あああああっ!!」
アウルベアーの一撃。避けたつもりだったけど、ゴルゴンスを攻撃した瞬間の隙を狙われた。左腕を少し、爪でえぐられた。
でもこれで、相手は使い魔1体になった。
「覚悟おおおお!!」
ホーーーーーーッ!!
私はアウルベアーに向かって駆けた。目前まで距離を詰めると、アウルベアーが私目がけて腕を振り下ろして来た。今だ!!
私はそのアウルベアーの攻撃に合わせて、くるっとコマのように一回転して避けると同時に懐に潜り込んだ。尻尾が光り輝く。渾身の力を込めて。
――――方円撃!!
ギャウウウ!!
真下から、アウルベアーの喉元に涯角槍の石突を喰らわせた。流石のアウルベアーも、その大きな身体を支えられず崩れ落ちた。
「バーン・グラッドめ! 消し飛べ、《火球魔法》!!」
「この野郎、そんなもん喰らってたまるか!!」
バーンさんの方を見ると、信じられない事にバンパ以外の盗賊を全部倒していた。バンパは追いつめられた様子で火球魔法をバーンさんへ放った。
――――爆炎。土煙が舞い上がり、バンパの姿が消えた。
「バーンさん!」
「バンパめ。あの野郎、アジト内に逃げ込みやがったな! 狐ちゃん、奴を追うぞ!! 俺はアテナ王女のように甘くないからな、ここで決着をつけてやる」
「はいっ!」
盗賊のアジト。その入口付近には、およそ100人程の盗賊達が倒れていた。これを全部、私とバーンさん一人でやったなんて……ちょっと信じられないと改めて思った。
私はバーンさんと一緒に、バンパのあとを追ってアジト内へ入った。きっと今頃、セシリア達が捕らわれている子供達を助け出している頃だろう。
通路を進んで一番奥まで駆けると、大きな部屋にでた。そこにバンパがいた。
「もう逃がさないですよ! 覚悟して下さい!」
「バンパ! 大人しくしろ! お前は、王国に引き渡して正式に裁いてもらう。それに悪いが急いでいるんでな、2対1だ。勝負は見えているだろ?」
「それはどうかな?」
バンパが笑った。すると、バンパの前に噴水のように水が吹き上がりバンパを守るように壁となった。
「水属性魔法⁉ 狐ちゃん、気を付けろ! まだ一人、近くにウィザードがいるようだぜ!」
「ウィザード!?」
「《貫通水圧射撃》!」
言ったそばから、高圧力の線上の水がバーンさんの頬を引き裂いた。皮膚が裂けて、血が飛ぶ。魔法で攻撃してきた術者が姿を見せる。私はその術者の正体を見て、驚愕した。
「えええええ!!」
「あれ? テトラじゃないか? もしかして、賊はテトラ達の事だったのか?」
嘘? 三つ編みにした銀色の髪。水色の三角帽子とローブに身を包む眼鏡の少女。バーンさんに貫通水圧射撃の魔法を放った術者は、なんとクラインベルト王都で別れたマリンだった。
「え? どういう事? なぜ、ここにマリンが? それに盗賊はバンパ達ですよ⁉ 子供達を攫って奴隷にしようとしているんですよ!!」
「ほう、そうなのか? それはボクがバンパから聞いていた話と随分かけ離れているようだ」
マリンが振り返ってバンパの顔を見る。
「言っただろ? 俺達は義賊だ! 子供達には疫病が蔓延しているんだ。病気の子供達を治療するまで俺達が看病し、預かっているんだ! こいつらは、そんな俺達を盗賊だと言って問答無用で叩きのめすと言ってここへやってきたんだ! すでに皆、この二人にやられちまったんだぞ!」
「え? テトラ? そうなのか?」
「違います! その人は嘘をついているんです! その人は、人攫いで子供達を攫って奴隷にしているんですよ! 私とセシリアは、その子供達を助ける為にここへ来たんです!」
「うーーーーん」
マリンは目を閉じると、苦しそうに唸り始めた。
「マリン! 一宿一飯の恩を忘れたのか? 腹が減って行き倒れていたお前を、俺が助けただろ? 俺を信じるのに十分な出来事だったはずだろ?」
「そんなの裏があるからです! マリン、その人達は奴隷商と繋がっている盗賊団なんです。これまで一緒に戦った私達を信じてください!」
明らかに悩んで迷っているマリン。だいたいなぜ、彼女はこんな所に……あまり時間をかけてはいられない。隙を見てバンパを倒せないかと考えた瞬間、バーンさんが先に動いた。
「バーンさん?」
「友達なんだろ? 任せろ! 説明はあとにすればいい。このウィザードの娘は気絶させちまえばいいのさ!」
このままだと、駄目だ! バーンさんはマリンの力量を誤解している。マリンは恐ろしい程の強大な、魔力の持ち主なのに!
「待ってください! マリンは、とんでもなく強いウィザードなんです!」
叫んだが、一足遅かった。マリンを気絶させようとしたバーンさんは、逆にマリンの水属性魔法水玉散弾を近距離で浴びてしまった。大きな身体が後方へ吹っ飛んだ。
私は涯角槍をマリンに向けて構えた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
〚下記備考欄
〇マリン・レイノルズ 種別:ヒューム
Cランク冒険者で、ウィザード。水属性魔法を得意とする。テトラ達がルーニ誘拐事件の時に、トゥターン砦に向かっている際に出会い、仲間となった。ルーニ救出後、共にクラインベルト王都へ帰ってからは、マリンは王都の書庫にある本に興味があると言って残り別れた。それから数日経って、なぜか闇夜の群狼のアジトで再会。どうも、何か誤解をしているようだね。
〇ハッパ 種別:魔物
ゴルゴンスの使い魔のアウルベアー。ゴルゴンスとハッパの出会いは、もう何年も前になる。盗賊団の仲間がアウルベアーに襲われた。それで、その襲われた盗賊は何十人もの仲間を率いて襲ってきたアウルベアーを退治した。すると盗賊達は、そのアウルベアーの近くで子供のアウルベアーを見つけた。食べるかう売り払うか考えて捕まえてアジトへ連れ帰った時に、ゴルゴンスの目にとまりゴルゴンスが仲間からそのアウルベアーを買い取った。ゴルゴンスはアウルベアーにハッパという名前を付けて自分の使い魔とした。因みに名前の由来は、アウルベアーの身体に葉っぱがくっついていたという単純なものだった。
〇高速突き 種別:槍術
ノーモーションから素早く放つ一撃。攻撃を当てた所からねじり込み、貫通力を増す。
〇貫通水圧射撃 種別:黒魔法
上位の、水属性魔法。指先から光線のように細い水を放水する。しかし、高圧力で発射されている水で、岩をも貫通する威力。触れたとしても、切断されるという恐ろしく殺傷能力にずば抜けた水属性魔法。
〇水玉散弾 種別:魔法
下位の、水属性魔法。小さな水の弾を無数に生成し、一斉に放って目標を撃ち抜く。水と言えど、その小さな粒は弾丸のように固く感じる。散弾なので、逃げ回る相手や複数の敵にも有効な魔法で、下位魔法に位置づけされはいるものの、物凄く優秀な魔法。




