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第158話 『痩せこけた子供達』




 結局、リアはセシリアから離れないようにするという事を条件でついてくる事になった。カルミア村の人達もリアが行くなら一緒にと言って誰もが武器を手にしてついて来そうな勢いとなっていたが、危険だし馬も人数分用意できないしと、パルマンさんが上手く説得して止めてくれた。


 私、セシリア、リア、バーンさん、ミラール君の5人で『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』が潜伏しているという盗賊団のアジトへ向かう。時間にして、このカルミア村から馬で4時間もかからない程で、私達は盗賊団のアジトへ到着した。


 アジトの場所は小さな山と山との間に上手に隠れるようにあって、村のような作りなっていた。もしかしたら、もとは村があってそれをアジトに利用しているのかもしれない。でも、村を利用していたとしても、盗賊団のアジトである。その周囲は、柵が張り巡らされていて、弓矢や槍を装備した見張りが、確認できるだけでも10人はいた。



「師匠、まず僕がアジトに侵入して中の様子を見てきます」


「ミラール、お前がか?」


「はい、任せてください」



 カルミア村から出発する際にバーンさんは、冒険者ギルドと王国へ応援の要請をしていた。ただ、盗賊団のアジトには奴隷として攫われた人達が捕らえられている可能性が高い。


 バーンさん曰く、大勢でアジトを攻め立てると、慌てた盗賊達が捕らえている人達を人質として使ったり、脅しに利用したり盾にしたりとか、ヤケクソになって殺してしまう場合があるらしい。だから、王国やギルドの応援が到着して盗賊達を討伐するのは最後の仕上げで、私達はそれまでに警戒されない程の少数で攻め込んで、少なくとも捕らわれている人達を助け出さなければならないというのだ。


 ルーニ様を救出する時にもトゥターン砦で似たような事をしたけど、失敗する事で誰かが殺められるとかそういう事を考えると、恐怖と緊張で逃げ出したくなってくる。だけど、勇気を振り絞る事で救える命もあるのだ。



「そうだな、ミラールなら子供だし見つかってもそれ程、警戒されないかもしれん。それに獣人ならではの身体能力というのか……身軽だし素早い。じゃあここはいっちょ、ミラール君に頼むか」


「待ってください」


「どうした、テトラ?」


「私が行って見てきます」



 それを聞いて、バーンさんとミラールは「本当に大丈夫?」という顔をした。セシリアが言った。



「テトラはミラールよりも、身軽で素早い動きができます。しかも潜入は得意な方です。ですのでここは、テトラにお任せ頂けませんか? バーンさん」


「解った。テトラ、頼んだよ。ちょっと行ってアジトの中の様子を見て来てくれ」


「はい。任せて下さい!」


「テトラさん、気を付けてくださいね」


「大丈夫です。リアはここで、セシリア達と待っていてください。ちょっと行ってすぐに帰ってきますので」



 涯角槍を手に持ち、立ち上がるともう一度セシリアとバーンさん、ミラール君の顔を見た。3人が任せたとばかりに強く頷くと、私は身を低くして素早く見張りに気づかれないように、盗賊団のアジトへ潜入した。


 中に入ると何人もの盗賊がいた。私は慎重に、こそこそと隠れながらも奥へ進む。すると、早速知っている顔を見つけた。鎖鎌を使う隻眼の男。ルーニ様が誘拐された時に、その情報を入手する為にセシリアと二人で行った王都にあるスラム街の酒場。そこでいきなり助太刀だと言って戦いに参戦してきたアーサーと一緒に戦った男。


 最後にセシリアが戦っていた場所の酒場ごと、火球魔法(ファイアボール)のスクロールで店を破壊した後、行方不明になっていたけど――――まさか、『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の関係者だったとは。確か、パルマンさんがこの男の事を、サクゾウって言っていた。


 考えてみれば、あの顔に傷のあったスカーという男も、スキンヘッドのリトルフランケって大男もシャノンの仲間だった。サクゾウは、『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の一員で、あの酒場で色々と情報を取り扱っていたバーテンを見張っていたのかもしれない。



「サクゾウ! カルミア村に行ったやつらが帰ってこない!」


「なんだと? バンパとゴルゴンスは、どうしたのだ?」


「バンパはずっとこのアジトにいるぜ。ゴルゴンスは自分の使い魔を連れて、カルミア村へ行った奴らと一緒に行動しているはずだが、まだ帰って来てねえ」



 ゴルゴンス? 使い魔? 使い魔って言うのは、あのアウルベアーのこと? っていう事は、私達は遭遇しなかったけどゴルゴンスっていう盗賊が、カルミア村へ来ていたという事になる。ここへ戻ってくれば私達が盗賊を撃退して捕らえた事や、パルマンさん達が生きて村の近くに潜んでいる事、バーンさんが救助に来ている事など、全てが知られてしまう。捕らわれている人達がいるなら、急がないと駄目だ。


 私はサクゾウ達に見つからないように、出来る限り気配を消すようにしてアジトの奥へ奥へと進んだ。すると、ついに牢屋のある場所を見つけた。


 近づいて囁くように声をかけてみると、声がかえってきた。



「だ……誰かいるの?」


「お姉ちゃんは誰?」



 ――子供! 牢屋には何人もの子供が鎖に繋がれていた。その姿は服もボロボロで、顔も汚れ身体は痩せこけていた。やっぱり捕らえられている子達がいた!! 早く助け出さないと!! 


 誰かがやらなくちゃっていうのは、解っていた。だからアジトに潜入すると、買って出た。でもいざ恐ろしい盗賊団のアジトに単独で潜入するってなると、いつもの怖気づきというか怖いとも思ってしまっていた。でも、痩せこけて今にも消えてしまいそうな鎖に繋がれている子供達を目にすると、沸々と自分の心の奥底で熱いものが溢れてきているような感じがした。それは、徐々に大きくなって不安や恐怖を凌駕していく。……アテナ様もこんな気持ちになったのだろうか?


 でも無事に子供達を助け出す為には、この気持ちは上手く抑えなければならない。確実に全員を助け出す為には慎重に行動しないと! この気持ちを爆発させる時は必ずあるのだから。


 とりあえずもう一度身を隠しながら、気づかれないように脱出して。バーンさん達に捕らわれている子供達がいた事と、その場所を伝えられればいい。それで、子供達を救出できる作戦を立てられると思った。






――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇サクゾウ 種別:ヒューム

闇夜の群狼の一味。生まれは東方にある侍のいる国。鎖鎌の使い手で、王都スラム街の酒場ではテトラと戦った。


〇ゴルゴンス 種別:ヒューム

闇夜の群狼の一味。如何にも力の強そうな大男。しかもアウルベアーという魔物を使い魔として従えている。


火球魔法(ファイアボール) 種別:黒魔法

火属性の中位黒魔法。殺傷力も高く強力な破壊力のある攻撃魔法だが、中級魔法の中では、まず覚える一般的な魔法。

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