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第155話 『張り込み』 (▼テトラpart)






 カルミア村、近くの森。ここでは、カルミア村の人達が一時的にキャンプをして暮らしていた。盗賊団『闇夜の群狼(やみよのぐんろう)』の襲撃を恐れて、身を潜め隠れていたのである。


 私とセシリアは、そんなカルミア村の人々の穏やかな生活を取り戻すべく、盗賊団を殲滅する方法を考えていた。とりあえず、私達がこの村へ来た前日にも盗賊団はやってきたという。だから、待ち構えていれば必ずまたやって来ると思った。そうなったらやって来た盗賊達を捕まえて、アジトを聞き出しそこを叩き潰せばカルミア村だけでなく、この周辺は平和を取り戻すに違いない。


 そんな訳で私とセシリア、それにリアの三人で今日は朝からカルミア村から少し離れた場所の草葉の陰で、村をじっと見張っている。



「なかなか現れませんね」


「そうね。でも、どうしようもないわ。来るのをひたすら待つしかないわね」



 セシリアはそう言って、木陰の方へ移動した。空を見上げると快晴。まだ朝だが、昼に近づくにつれて徐々に温度があがる。ピクニックや、釣りなどしていれば最高の陽気なのかもしれないけれど、私達はひたすらに来るか来ないかも解らない盗賊達を待っている。はあ――――


 だけど、リアやパルマンさん達の平穏の為に、頑張らないと! それにルーニ様や、他の多くの子供達を攫って奴隷にするような恐ろしい連中を野放しにもできない。


 …………だけど。


 私は、自分の頭の上に生えている耳を触ってみた。熱い。日光で熱くなっている。髪も熱を帯びていた。



「セシリア」


「なに?」


「これ、二人で見張らなくても交代で見張ればいいんじゃないでしょうか?」


「駄目よ」


「ええーー。なぜですか?」


「例えば10人程の賊が現れました。その時に見張っていたのが、私とリアでした。勝てると思う?」


「え? セシリア、結構強くないですか? ホーデン湖でも、襲って来るサヒュアッグ達をボウガンで射貫いて倒してましたし、トゥターン砦でも、帝国軍相手に戦っていましたよ。それにこのカルミア村でもセシリア一人で、スペクターっていう恐ろしい魔物を倒したじゃないですか」


「あら、それは死に物狂いだったから、偶々なんとかなっただけよ。それに私はビビりなのよ。例えば食事をしていたとして、その場に一緒にいるあなたが箸とかスプーンをうっかり落としてしまっても、その音で気絶するわよ」


「しませんよ!! 嘘ですよ! そんなの!!」



 そんな嘘をつくセシリアに、プンプンに言った。



「あははは!」



 私とセシリアのやり取りを聞いて、笑い転げているリア。



「だいたい戦闘はテトラの担当なのだから、盗賊が現れたら頑張ってよ」


「言われなくたって、解ってますよ!」



 もう! 頬を膨らませて見せると、セシリアは面白がってそんな私の頬っぺたを人差し指で押した。折角口の中いっぱいに溜め込んだ空気が、漏れていく。


 リアがおもむろに立ち上がる。



「ちょっと私、キャンプに戻って何かお昼ご飯と飲み物を持ってきますね」


「ありがとう、リア。助かるわ」


「ありがとうございます、リア!」



 リアはにっこり笑ってパルマンさん達がいるキャンプの方へ駆けていった。それから、リアがお昼ご飯などを持って戻ってくると、食事にした。


 なんとか、夕方まで粘ってみたけど、この日カルミア村に盗賊が来ることはなかった。


 私達は、カルミア村の皆がいるキャンプへ戻り、もう一泊してみる事にした。森の中でのキャンプ。夜になると、森の何処かから獣の鳴き声のようなものが聞こえて来た。なんとなく、私はルーニ様を救出する為にセシリアと、王都から旅立った時の事を思い出して懐かしくなった。


 あの時は、暗い森の中でカンテラとロウソクで辺りを灯して、慣れないながらも頑張って火を起こして焚火をしたりしていた。懐かしい思い出。



「さあ、晩御飯にしましょう」


「はい! もうペコペコですよ」



 食事は、パンと鶏肉と山菜のスープ。パンとスープの材料は、パルマンさんに頂いた。セシリアが調理を始めると、そのスープのにおいが辺りにたちこめる。少し嗅ぐだけで、お腹が何度もぐーーっと鳴った。


 リアも、パルマンさんや村の皆とでは無く私達と食事を一緒にしたいと言ったので、一緒に食事をして同じテントで過ごした。森には村の人達が使っているテントや焚火も、辺りに沢山見えたので寂しさや心細さのようなものは、微塵も感じなかった。


 ――――翌朝、私とセシリアとリアは再びカルミア村の様子を見に行った。昨日と同じ場所、草葉の陰からカルミア村を覗く。


 昼過ぎ頃だった。



「セシリア! あれ!」


「誰か村にやってきたわね」



 カルミア村に、何者かが現れた。人数は8人。腰には盗賊達が愛用するシミターを帯刀している。雰囲気からも、盗賊で間違いない事が解る。ついに私達の前に現れた。よーーっし!



「どうしましょう? セシリア?」


「そうね。リアはパルマンさん達のもとに行って、カルミア村に盗賊達がまたやって来た事を伝えて」


「はい」



 リアは、返事をすると森にあるキャンプの方へ駆けた。



「私達は、奴らが来た村のゲートの方へ回り込みましょう。その方が戦闘になった場合、奴らの逃げ道を多少は塞ぎやすくなるし、有利になるわ。まあ、戦闘には間違えなくなるでしょうけどね」


「戦闘は私の担当ですから。任せてください!」


「ええ。頼りにしているわよ」



 盗賊団を全て壊滅させて、カルミア村に平和を取り戻さなくちゃ!


 私は涯角槍を手に取り強く握ると、セシリアとカルミア村のゲートの方へ盗賊達に気づかれないよう注意しながら移動した。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇テトラ・ナインテール 種別:獣人

本作2章及び3章の、もう一人の主人公。狐の獣人で、九尾と言われる種族。だが、尻尾は4本しかない。クラインベルト王国の王宮メイドで、棒術や槍術も得意で第一王女モニカの練習相手を務めていた。第三王女ルーニの誘拐事件以来、ルーニを誘拐した盗賊団、闇夜の群狼を倒す為に同僚のセシリアと旅に出る。悲惨な過去を持つが、色々な者との出会いや経験をして少しずつ強くなっている。クラインベルト最強と噂されるゲラルドから、涯角槍という武器を譲り受ける。


〇セシリア・ベルベット 種別:ヒューム

クラインベルト王国、国王陛下直轄の王宮メイド。また上位メイドともいう。テトラの事を、ヘタレだと思い嫌っていたが、ルーニ誘拐事件の件で一緒に行動するようになり、彼女の事を知っていく中で信頼できる者だと考えを改めていく。美しい長い髪に、眼鏡をかけており目つきも鋭いので、一目置かれる事が多い。確かにできるメイドなのだが、でも彼女にも弱点はある。朝が極端に弱い。


〇リア・オールヴィー 種別:獣人

カルミア村に住んでいた猫の獣人の少女。賊に家族を殺されて村を焼き払われ、奴隷として連れ去られえた。ドルガンド帝国領にあるトゥターン砦の地下牢にルーニと一緒に閉じ込められていた所をテトラ達に救出された。


〇パルマン 種別:獣人

コツメカワウソの獣人。カルミア村の村人で、リア達の事を生まれる前から知っている。賊に村が襲われた時、外出していて助かった。今は、生き残った者を集めてカルミア村から少し離れた所にキャンプを作って生活している。


〇サヒュアッグ 種別:魔物

半魚人の魔物。ルーニ誘拐事件の時に、ホーデン湖という湖を渡った。その時にテトラ一行は、湖をナワバリにしていたサヒュアッグに襲われ戦闘になった。


〇カルミア村 種別:ロケーション

リアや、ルキア、ミラール達の生まれ育った村。もともとはのどかで平和な村だったが賊に襲われ、家は焼き払われ村人の多くは殺された。


〇闇夜の群狼 種別:組織

ヨルメニア大陸最大規模の巨大犯罪組織。窃盗、強盗、暗殺、麻薬、奴隷売買、武器密輸等々、様々な犯罪を牛耳り日々シェアを拡大させている。ルキアやリア、ミラール達もこの盗賊団に奴隷にされかけた。

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