第154話 『ウインドファイア その2』
ミューリさんとファムさんは、とんでもなく強い人達だった。そう言えば姉妹で冒険者をやっているって言っていた事を思い出した。
ファムさんが、倒したゾンビの身体の破片を見つけてそれを調べる。
「これは、マインドニッドという魔物だね」
「ええ⁉ マインドニッド? そんな魔物聞いた事がないです! でも確かに見た目はゾンビでしたが、ゾンビは喋らないし武器も使用しないので、ゾンビじゃないような気はしてましたけど」
「ほら、これ」
ファムさんが指をさした先。ゾンビの首の部分には、キノコが生えていた。よく見ると、そのキノコは動いていて表面には顔のようなものもある。
「ええ!! これがマインドニッド⁉ もしかしてマインドニッドってキノコ系の魔物ですか? でも、それでどうやって……」
「そう。キノコ系の魔物。この魔物は、死体などに寄生してその寄生した身体を操るんだ。そして、人や魔物、動物などを襲って殺すと、今度はその新しい死体に乗り移る。それを繰り返して生きている、キノコの魔物なんだ」
そういう事だったんだ。じゃあ、もしここで私達がこのマインドニッドにやられていたら、私だけでなくカルビも乗っ取られていたかもしれない。
でも、このなんだか得体の知れないゾンビの正体も、知る事ができて凄くすっきりした。ファムさんは、こういう知識があって凄いと思う。
「ありがとうございます! 魔物の知識もそうですけど、助けてもらっちゃって。本来だったら、私達が依頼主を守らなくちゃいけないのに、逆に助けてもらってしまいましたし……」
ミューリさんは、ケラケラと笑った。
「いいの、いいの。危険な場所や色々な魔物が生息する大洞窟、ノクタームエルドで特殊なキノコを5種類も探さなきゃだからさ。はなから自分達も戦わなきゃいけないっていうのは、折込積み済みで依頼を出しているつもりだからさ」
「そうだよ。ファム達だけだとやっぱり心細いから、戦力が欲しくてルキア達に依頼を頼んだんだ。だから気にしないで」
それでも、本当なら私が助けなきゃいけないのに、逆に助けてもらって申し訳ないと思った。もっと私も戦闘の練習をして、アテナみたいに強くならないと駄目だ。
「あっ!! アテナ!!」
アテナとルシエルの事を思い出して、ミューリさんとファムさんも、私と同じく声を上げた。
「急いで戻りましょう! きっとアテナなら、ルシエルを連れて戻って来ているはずですよ!」
「うん! そうだね! ファムも急いで!」
「言われなくても、急いでる! ミューリこそ、急いで!」
「ファムの方こそちょっと遅いよ! 早く早く!」
「ミューリはもっと遅い! ファムの方がぜんぜん早い」
「ちょ……ちょっと! ちょっと待って下さーーい!!」
二人ともなんて、足が速いんだろう。競い合うミューリさんとファムさんの追いかけっこに、私一人置いてけぼりを喰らいながらも、アテナとルシエルが入った穴のある洞窟部屋まで戻ってきた。
「ルキア、ただいまー! 大丈夫だった?」
「アテナ!! ルシエル!! 二人とも無事で良かったです!!」
「ふーー、戻ったぜ。アテナが来てくれなかったら、ちょっと駄目だったかもしれん。ルキアにも心配かけてしまって、ごめんな」
アテナとルシエルが、もう戻って来ていた。良かった! 二人の微笑んでいる顔を見て、ようやく胸を撫でおろすことができた。
「はあーー儂もなんとか生きて戻れたわい!!」
え? ドワーフのおじさん? 誰? アテナに聞いてみる。
「こちらの方は、どちら様ですか?」
「あっ。そうそう。この人は、見た通りドワーフで冒険者のギブンさん。私達と同じキノコを採取しにこの辺りに来ていたらしいんだけど……採取中にルシエルと同じパターンで穴に落ちて、魔物に毒に侵されてた所を見つけて知り合ったの」
「そうだったんですね。私、アテナとルシエルの仲間で、冒険者のルキアといいます」
「ほう、獣人の娘さんか。ギブンだ、よろしく頼む」
「あーーっ! ギブン!!」
ミューリが声をあげた。その様子からギブンさんとは、知り合いなのかな。
「おお! ミューリ! それにファム! ウインドファイアは、健在だな」
ウインドファイア? 凄くかっこいいけど、なんだろう。そう言えば、マインドニッドを二人が魔法を唱えて倒した時に、ミューリさんは火属性でファムさんは風属性の魔法を使っていた。それと何か関係があるのかもしれない。聞いてみようかなと思っていたら、代わりにルシエルが聞いてくれた。
「ウインドファイア? なんかかっこいいな! もしかして、それってミューリ達のパーティーネームとかなのか?」
ミューリさんとファムさんは頷いた。ギブンが続ける。
「以前はもう一人仲間がいて、3人でパーティーを組んでいたんじゃ。そしてミューリ達はこのノクタームエルドを中心に活動していて、この辺りの冒険者界隈じゃめちゃくちゃ強いって評判で、かなり有名な冒険者パーティーだったんじゃ。今は、ミューリ達姉妹だけでウインドファイアって呼ばれちゃいるが、3人の時は、アース&ウインドファイアっていう名前でな……儂もたまに一緒にパーティーを……」
ギブンの話をミューリが遮った。
「めちゃくちゃは強くないよ。女三人にしては、強いって言われていただけだから、大げさに言わないでよ。恥ずかしいしーー。それはそうと、そっちはキノコ集まったの?」
そっち? ギブンさんもキノコ集めしてたってアテナが言ったけど……もしかして、ミューリさん達とは行動は別だけど、ギブンさんもミューリさん達に一緒に協力してあげてキノコ採取を協力しているって事かな。
ギブンさんは、沢山キノコが入った袋をミューリさんとファムさんに見せた。ファムさんは、次々とキノコを見ては何か頷いたり、唸ったりしている。
「どうかな? ファム?」
「これだけあれば十分だと思う」
「なら、この位でいいかな。アテナちゃん、ギブンは僕の仲間なんだけど、ギブンが別行動で集めてくれたキノコも含めて量も十分になったから、これで依頼達成って事でいいんだけど。それでいいよね?」
「ミューリさんとファムさんが、それでいいなら私達は別にそれでいいよ。本当は、三又になっていた場所だけど、全部調査してキノコを採取するつもりだったんだけど。だから、他に何かあればするけど?」
「流石アテナちゃんだね。ありがとう! でも、キノコはこれで十分だから……あとはそうだねー、うーーん。じゃあさ、良かったらロックブレイクまで僕達を護衛して欲しい。それで依頼完了って事でいいかな?」
アテナは、笑顔で頷いた。
私はロックブレイクに帰る道中、ファムさんの隣を歩いて色々とキノコや他に生えていた不思議な植物、マインドニッドという魔物の生態、風属性の魔法についてなど、あれこれと質問を繰り返して色々聞いた。
ファムさんは、面倒だというような顔を全くせずに、丁寧に知っている事を色々と教えてくれた。
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〚下記備考欄
〇マインドニッド 種別:魔物
キノコの魔物。人間や動物の死体に寄生し、ゾンビのように動かして獲物を襲う。襲った獲物には、また胞子をとばして新たに寄生させる。こうして、キノコゾンビを増やしていく魔物。ちょっと、気持ち悪い。
〇ウインドファイア
ミューリとファムの冒険者姉妹のユニット名。それで、ノクタームエルド中をブイブイ言わせているらしい。ウインドは、風属性魔法の得意なファムで、ファイアは火属性魔法の得意なミューリから名付けている。
〇アース&ウインドファイア
ミューリとファムには、もう一人仲間がいて、その時にこのユニット名を名乗っていたらしい。ギブンも一緒にパーティーを組んでいた事があったらしいけど……そうなると、アース&ウインドファイアうぃずギブン?




