第153話 『ウインドファイア その1』 (▼ルキアpart)
「助けてくれーー!!」
近くで、男の悲鳴が聞こえた。どうしよう!! アテナとルシエルの他にも誰かいる⁉ 私は、ミューリとファムと顔を見合わせた。
「今、誰かの助けを求める声がしました。わ……私、ちょっと見てきますので、ミューリさんとファムさんはここでアテナとルシエル、二人が戻ってくるのを待っていてください!」
「ええ⁉ ルキアちゃん一人で行くの? 大丈夫? ルキアちゃんて、そんなに強いの?」
「強くないですよ。でも、誰かが助けを求めていますし、行けば力になれるかもしれないです。それにカルビもいるから、大丈夫です」
ワオンッ!
そう。流石に私一人でだとちょっと心細い。カルビは、連れて行こうと思っていたのでカルビが返事してくれたのは嬉しかった。
でもミューリさんとファムさんは、顔を見合わせ心配そうな顔をする。すると、またさっきの人の叫び声がした。
「すいません! 私、ちょっと行ってきますので、ここはお願いします!」
「ちょ……ルキアちゃん……」
緊急事態かもしれないので、助けを求める声の方へ急いで向かった。洞窟内。道が三又になっている所まで戻る。
「誰かーーー!! 助けてーーー!!」
助けを呼ぶ声は、三又になっている道の真ん中のルートから、聞こえてきている。
「行くよ! カルビ!」
ワオンッ!
怯まずに中へ進む。すると、その道の奥の方で一人の男の人がショートソードを手にしたままうつ伏せの状態で倒れていた。
「大丈夫ですか⁉」
私はその倒れている男の人に、駆け寄って身体を少し揺すってみる。反応が無い。あれ? さっき助けを求めて叫んでいた人は、この人だとおもうけど。
懐中灯を手に、辺りを照らしてみるがやはりこの人しかいない。そしてキノコ、キノコ、キノコ――――辺り一面、床だけでなく壁もキノコや苔のようなものがびっしりと、生えていた。
もしかしたら、ミューリさん達が探しているキノコがここにあるかもしれない。そう思ったけど、先にこの人を助けなければ。
「ちょっと動かしますよ。今、助けますから頑張ってください」
そう言っても全く反応が無いので、まず今の状態を少しでも診断できて治療できる事があればと、倒れている男の人を仰向けにしようとした。
ガルウウウウウ……
唸り出す、カルビ。どうしたんだろう? まさか、魔物が近くにいる?
「仰向けにしますね。よ……よいしょっ!」
私は思わず悲鳴をあげた。
「きゃあああああ!!」
倒れていた男の人。仰向けにして再び語り掛けようと顔を見ると、目や鼻が無かった。そして、すでに男は屍と化していた。
「はわわわわ……そ……そんな……じゃあ、誰が助けを求めて叫んで……」
その時だった。死んでいるはずの男が私の腕をつかんで喋った。
「た……助け……」
恐怖で身体の中を寒気のようなものが、走った。次の瞬間、男は口を大きく開けてボロボロになっている歯で私に噛みつこうとした。私は必死になって抵抗する。だけど、かなり力がある。このままじゃ、齧られる……
一瞬、事あるごとに私の耳をハムハムしてきていたニガッタ村で出会った冒険者ハルの事を思い出した。顔をブンブンと振って、迫ってくる男に抵抗する。
ガルウウウウ!!
カルビが助走をつけて、男に体当たりをした。よろめく。隙をついて、逃れる事ができた私はホルスターからナイフを抜いて構えた。私を守る感じで、足元にカルビが戻ってくる。
「これはいったい……ゾンビなの?」
ゾンビを見るのは初めてだけど、どんな魔物かは知っていた。私がもっと子供の頃に、お父さんがゾンビという魔物がいるという話をしてくれた事がある。アテナから貰った色々な魔物の事が書いてある本にも記してあったけど、今目前にいるゾンビは、私の知っているゾンビと違う気がする。まず、ゾンビは喋らない。唸るだけ。
「たすけーー……助け……」
男は途切れるような声を発しながらも、再びショートソードを片手にどんどん接近してきた。私に近づくとショートソードを振り上げてきたので、距離をとった。すると、背後からも何か気配を感じた。
振り向くと、同じようなゾンビがどこからともなく4体も現れ、ここに入って来た道を塞いでしまった。どうしよう。
「た……たすたす……助け……」
ショートソードを持つ男の後ろにも、更に2体のゾンビ。さっきは、いなかったのに、どこから……
ベリベリベリベリ……
嫌な音。音がした方を見ると、壁がどんどん盛り上がっていた。盛り上がった壁は、弾けて中から更に別のゾンビが現れた。衝撃で、胞子や壁にびっしりと張り付いていた苔やキノコが宙に飛ぶ。
「だすげげげ……」
「きゃああああ!!」
全部で10体以上になちゃった。もう、私やカルビじゃ対応しきれない。なんとか、逃げ出さないと。
ガッルウウウウ!!
今にもゾンビに飛び掛かりそうだったカルビを抱きかかえて、ゾンビの間をすり抜けようとした。でも、駄目。すり抜けようとしても、捕まってしまう。ゾンビはそれぞれ、短剣や斧など武器も持っていた。スケルトンなら武器を装備していてもおかしくはないけど、武器を装備しているゾンビなんて聞いた事が無い。目の前に居る魔物がゾンビだとすれば、それもおかしな点だと思った。
「だずげてぐれえええ!!」
前後から一斉に襲い掛かって来た。ナイフで斬りつけたが怯まない。痛覚はないんだ。
「このままじゃ、やられる!! せめて、カルビだけでも逃がせば……」
助けを呼んできてくれる。ミューリさん達を! そう思って、カルビを走らせようとしたその時、出口側を塞いでいたゾンビ達が涼やかな風と共に斬り刻まれた。更にゾンビ達の斬り刻まれた身体が発火する。みるみる炎が広がり、燃やし尽くした。
「大丈夫かい? ルキアちゃん!!」
「助けに来たよ!! ルキア!」
「ミューリさん、ファムさん!」
良かった! 二人が助けに来てくれた。そう言えば、向こうにいた時に、ここにいたゾンビの声が聞こえていた。私もここで叫んだから、それが同じようにミューリさん達にも聞こえたんだと思った。
「だずげえええ!!」
まだ正面にいる6体のゾンビが、こっちに目がけて襲い掛かってくる。
ミューリさんとファムさんが私を守るように、前に出た。そして、二人一緒にゾンビ向かって手を翳し、魔法詠唱を始めた。
「ルキアちゃん。僕達がきたからには、もう大丈夫! こんな魔物、すぐに燃やし尽くすよ」
「ルキア。ここは、さがっていて。ファムとミューリに任せて」
ミューリさんの翳した手に炎が発生し、ファムさんの翳す手には風が集まっていく。十分な量の力が集まると、二人は同時に魔法を発動した。
「燃え尽きろ! 《爆炎放射》!!」
「斬り刻め! 《斬撃風》!!」
炎と風が、ゾンビ達を斬り刻んで燃やし尽くした。
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〚下記備考欄
〇ハル 種別:ヒューム
クラインベルト王国を旅していた時に、ニガッタ村周辺で知り合った冒険者。アテナ一行と意気投合し仲良くなる。ルキアの事を凄く気に入っており、事あるごとに彼女の猫耳をハムハムしていた。
〇ショートソード 種別:武器
短めの剣。武器はリーチがある方が戦いにおいて有利という常識は間違いではない。だが、短ければその分素早く攻撃する事も相手の攻撃を受ける事もできる。つまり「ショートソードは、通常の剣よりリーチを少し縮めてその分使いがってを良くしたもの。割と人気で、冒険者や兵士でもロングソードとショートソードの二本持ちなどざらにある。
〇爆炎放射 種別:黒魔法
中位の黒魔法。爆発させる魔法ではなく、手の平から爆発により発生する強烈な炎を放つ魔法。低位の魔物ならこの魔法で、こんがり焼ける。
〇斬撃風 種別:黒魔法
下位の、風属性魔法。ブーメラン状になった風の刃が対象を襲う。




