第151話 『キノコ5種の採取依頼 その2』
少し奥まで進むと開けた場所に出た。そこは地面も壁も天井も、苔やキノコに覆われていた。見た事もない植物もいくつか生えている。じめじめっとして気持ち悪さもあるけれど、半面幻想的な感じもする不思議な世界。
「これはすっげーなあ! ノクタームエルドの中には、こういった場所もあるんだな」
「ルシエル! あまり離れないで。何があるか解らないから、固まって行動しよう。ファム、探しているキノコはこの辺にあるかな?」
ファムは周辺を軽く見渡した後、こんもりと山になっている所に目を向けると、それに近づいた。そこにも、様々なキノコが大量に自生している。ファムはそこにしゃがみ込むと、生えているキノコを眺めたりつついたりして調べ始めた。
「どうだーー? ファム? あったかーー?」
「こら! ルシエル! だからあまり、離れないでって言ってるでしょ」
「あっはっはっは! アテナは、本当に心配症だなー。大丈夫だよ、大丈夫」
ルシエルは、はしゃぎながら不思議な植物やキノコを触ったりつついたりして、辺りをうろちょろしている。まったくもう、危険だって言っているのに。ここには見当たらないから別のルートにいるかもだけど、ファムが『風の探知魔法』で魔物の気配もいくつかするって言っていたから警戒しなきゃいけないのに。
「あった、これだ。イエローマッシュとパープルマッシュだ。早速、採取したいんだけど手伝ってもらえるかな?」
「もちろん! 折角だから、十分な量を採っていこうよ!」
ファムが指したキノコを確認する。これがイエローマッシュとパープルマッシュか。確かに名前と同じ色をしている。イエローマッシュも、イエロースマッシュと同じく黄色ではあるけれど、形状はぜんぜん違っていた。
当然3人で採取した方が早いので、その辺で遊んでいるルシエルを呼んだ。
「ねえ! ちょっとルシエルも手伝って! ルキア達を呼ぶまでもないけど、三人で作業した方が早く沢山集められるから」
「おう、任せろ!」
ルシエルがこっちへ駆けて来た。――――瞬間、ルシエルの足が地面にグニャリと沈みこんだ。
「うげ? なんだ?」
地面に沈み込んだルシエルの足はどんどん呑み込まれていく。それは、身体の部分にも及んだ。私とファムは、採取していたキノコを投げ出してルシエルの手を掴もうと走った。だけど、ルシエルは地面の中へどんどん呑み込まれて行きその姿を消した。
「うわーーー!! 身体が地面に沈んでいくーー!! 助けてくれーー、アテナーー!!」
「ちょっと!! ルシエル!! 待って!!」
ファムと一緒に、ルシエルが消えた場所を確認すると、そこの地面には大きな穴が空いていた。穴の入口には土のような物が沢山付着している。苔やキノコもある事から、そういった土類がこの場所に積み重ねられて、もともとあったこの穴を塞いで隠していたんだなという事が解った。簡単に言ってしまうと、天然の落とし穴。
じゃあこの穴の下の方に、ルシエルは滑り落ちて行った事になるよね。
「アテナ! 大丈夫ですかー⁉」
「ファム! 何かあったのー? 大丈夫?」
ガウガウッ!!
ルキアとミューリの声。それにカルビ。振り向くと、ルキア達がこっちへ駆けて来ていた。ルシエルの叫び声が聞こえて慌てて来てくれたみたい。ミューリがきょろきょろと辺りを見る。
「あれ? ルシエルちゃんは?」
「アハハハ……ルシエルは……穴に落ちて行っちゃった」
私はルシエルが落ちて行った穴を指さしてこたえた。
「えええ!! この穴に落ちて行っちゃったの⁉」
「ルシエルは、一体何をやっているんですか⁉」
当然だけどミューリやルキアは、物凄く驚いた。そりゃそうだよね。仲間が得体の知れない穴に、滑り落ちていっちゃったんだから。……っていうか、あれこれ言ってないで早く助けてあげないとね。
「じゃあ私、ちょっと下まで降りてルシエルを救出して連れて戻ってくるから、皆はここで目的のキノコを採取してまってて」
「本当に大丈夫ですか? アテナ。私も一緒に行きますけど」
「ううん。ルキアは、ここで待ってて。すぐルシエルを見つけて、ここへ戻ってくるから」
ザックからロープを取り出すと、柱状になっている岩を見つけてそれに縛り付ける。ちゃんとロープが外れないか数回引っ張って確認した後、そのロープをルシエルが滑り落ちて行った穴の中へ垂らした。
「じゃあちょっと行ってくるからー!」
「アテナちゃん! 何かあったら叫んでよ! すぐに助けに行くから」
ミューリに「うん、お願い」っと言って私は、ロープをしっかり握って穴に入った。穴を降りて行くと、中は大人が一人通れる位の幅で、下に行くほど傾斜になっているようだった。ルシエルが滑り落ちて行った風に見えたのは、こういう事だったのか。
更に先まで行くと、縦穴は斜めになりその傾斜もどんどんと緩やかになって、もはや横穴になっていた。なのでそこからは、四つん這いになって這って穴から出た。すると、そこは広い空洞になっていた。
「へえ。ノクタームエルドの洞窟の中には、探せばこういった部屋がいくつもあるみたいね」
周囲を見ると、上にいた時と同じく沢山のキノコやへんてこな植物が沢山生い茂っている。
そして、その隅にはルシエルが倒れていた。
「ちょ、ちょっと! ルシエルーー⁉」
ルシエルに近づいて、抱き起す。顔が青く、何やら苦しそうに呻いている。
「ちょ……ちょっとどうしちゃったの? ルシエル?」
ルシエルが倒れていた場所は、この空洞部屋の隅の方。落ちて来た穴からは、距離があるし滑り落ちて来た勢いで飛び出して来たとしても、ここで倒れているっていうのはかなり不自然だわ。
しかもこのルシエルの症状…………
「毒じゃ! そのエルフの娘は毒に侵されておるんじゃ!」
「え? そこに誰かいるの⁉」
懐中灯を声の方へ向けると、立派な髭を蓄えたドワーフが横になった状態でこちらを見ていた。顔がルシエルと同じく青い。
「あなたはいったい、何者なの? こんな所で何をしているの?」
ドワーフは、私の質問に大笑いで返した。だけど、額からは大粒の汗。かなり体調が良くないという事が見て取れた。
「おまえさん達と、一緒じゃ! この上の空洞部屋でキノコを採取していて穴に落ちた。もう、3日もここにいるが奴に襲われて、この有様じゃ」
――奴?
「奴って誰なの? 魔物?」
ドワーフは頷いた。
「気を付けろ。噂をすれば、またここへ来やがったぞ! おまえさんの後ろにおるぞ!!」
ドワーフがそういった刹那、魔物の気配を感じた。背後!! ――――剣を抜いて振り返る。
ヂュフフフフンフンフン
シュタタタタ…………
振り返り、懐中灯で照らし出すと、そこには大小無数のキノコがいた。キノコなのに手足があり、そのキノコの表面には顔がある。小さなのは、そこら中を走り回っている。
「キノコ型の魔物、マイコニッドじゃ! 毒の胞子を散布するぞ! 気を付けろ!」
キノコが笑い、走り回るというカオスな空間で、私は顔を引きつらせながらも、剣を構えた。
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〚下記備考欄
〇マイコニッド 種別:魔物
キノコの魔物。キノコに手足が生えていて、顔もあるという多機能なキノコ。大きさや色も様々でカラフルかつバリエーションに跳んでいる。毒の胞子を散布するので、退治するのには備えが必要。




