第150話 『キノコ5種の採取依頼 その1』
ミューリとファムを交えて焼肉をした。二人が持ってきてくれたブラックバイソンの肉は、極上だった。ボリュームがあって、ジューシー。やっぱり焼肉は最高だと、改めて思う。
食後はどびきり美味しい焼き肉のお礼にと、お茶を入れて二人をもてなした。すると会話が盛り上がってしまって結果、彼女達の依頼を受ける約束をしてしまった。気になる依頼内容は、このノクタームエルドの何処かに自生している5種類のキノコを探して採取する事。薬になるそうだ。
レッドマッシュ、ブルーマッシュ、グリーンマッシュ、イエローマッシュ、パープルマッシュの五種。
注意点は、イエローマッシュとイエロースマッシュは別物だという事。だけど、キノコ採取には依頼主のミューリとファムが同行してくれるみたいなので、キノコの判別や生息地への案内はしてくれるとの事だった。
そして一応この依頼は、正式に冒険者ギルドを通さなければならないとの事だったので、本日はテントでぐっすりと眠り旅の疲れを癒して、翌朝に早速ギルド関係者のラコライさんに会いに行って、ミューリ達からの依頼を正式に受注し、キノコ探しに出発した。ロックブレイクには、また戻ってくる予定なので、設営したテントはそのまま、大きな荷物はラコライさんに預かってもらった。
「ねえ、ミューリ? 採取するキノコは、同じ場所に生息しているの?」
出発はしたものの、私達ではそれぞれのキノコの生息地が解らない。だから、ミューリに聞いてみた。
「えっとねー、実を言うと僕もキノコにあまり詳しくはないんだよ」
「えええーーー!!」
衝撃の告白に、ズッコケながらもルシエルが突っ込んだ。
「いや、オレ達だって詳しくはないぞ。確かに依頼は受けたが、キノコの生えている場所は案内してくれるとばかりに思っていたんだけど」
「私もそう思ってたんだけど。……でもそれなら、一回ロックブレイクに戻ってキノコ5種がそれぞれ何処に生息しているか、詳しい場所を知っている人がいないか、聞き込みしてみる? ほとんどの人が冒険者みたいだから、聞けばある程度解るかもしれないよね」
「アハハハ。ごめんごめん、誤解させちゃった。そうじゃないんだ。僕は、キノコに詳しくはないんだけどね、僕の妹ファムは詳しいんだよ」
ミューリの妹。緑色のマッシュヘア、ちょっと無口な感じの可愛い女の子。そのファムに目をやると、頷いて指をさした。
「あっちの方角にちょっと行くと道が三又になっている場所があって、そのどれかの奥に、キノコが沢山自生している場所があるよ。ファム達がそこまで案内するけど、何か魔物もいそうだから戦闘になったらアテナ達に、お願いするね」
「うん。任しておいて! こう見えても、戦闘は得意分野だから」
「オレももはやランクB冒険者だからな。おまけにチャンピオンだし。だから、魔物なんて出てもオレが見事にやっつけてやるぞ」
ミューリが笑った。
「ルシエルは、チャンピオンなんだ。アハハ。なんのチャンピオンか解らないけど、凄く頼もしいねー。それじゃ魔物が出たら、アテナもルシエルも頼んだよ」
「あのー?」
ルキアが、もじもじしながらファムに声をかけた。
「なに?」
「ちょっと疑問に思ったのですが、ファムさんは、なぜキノコが生えている場所が解るんですか? キノコに詳しいから、洞窟内に生えているキノコの場所が解るって言ってましたが、いったいそれがどういう事なのか詳しく教えて頂きたくて」
確かに私もそれ、気になる。ルキアはこういう時に、いつもいい質問をしてくれるよね。
「うーーん。言っても、いいのかな? ミューリ?」
「そうねー。本当は企業秘密なんだけど、アテナちゃん達にならいいかな。僕とファムは、今はロックブレイクで色々なキノコを売ったりしているけど、本職は商人ではなく冒険者なんだ。それで、ファムは風の魔法が得意なんだけど、その中でも『風の探知魔法』って魔法があってね」
「ああ! なるほど、そう言う事かー!」
風の精霊魔法を得意とするルシエルには、ミューリが言おうとしている答えが解ったみたいだった。
「ルシエルちゃんには、解っちゃったみたい。風の探知魔法は風属性の探知系魔法なんだよ。その魔法は使用すると、ダンジョン内であれば、自分が今いる場所が解ったりする便利なマッピング能力や、索敵なんかもできるんだけど…………ファムの場合は、ちょっと変わっててダンジョン内の隠されたお宝の位置の特定の他に、キノコの自生している場所も解っちゃうんだよ」
「な……なにそれ。凄いけど、キノコの自生している場所って……」
ファムが少し笑ってこたえた。
「風の探知魔法は、風魔法。魔法で広範囲に風を発生させて色々なものを探るんだけど、ファムの場合は、その探知風にキノコの胞子がひっかかってくるんだよね」
そう言う事ね。胞子が沢山舞っているエリアにキノコが自生しているって事かー。ルキアは目を輝かせながらファムに続けて質問した。
「もしかして、私にもその風の探知魔法っていう探知魔法が使えるでしょうか?」
「うーーん。ルキアちゃんに魔力と才能があれば、頑張れば使えるんじゃないかな。あとは、風魔法適性があればかな。例えば僕は火属性適正があるから火属性魔法を使うし、ファムは火属性適正は無いけど風属性適正があるから風属性魔法を使う」
「適正……それに魔力ですか……」
私は、ルキアの頭をポンと軽く触った。振り返るルキア。
「ルキアも頑張ればきっと使えるよ。これまでだって、ナイフの使い方も文字も覚えたでしょ? 風魔法なら、ここに丁度いい先生がいるし、焦らないでゆっくり教えてもらえばいいんじゃない?」
ルキアと一緒に、ルシエルの方を見る。ルシエルは、私達の話を聞いていたようで「教えてあげましょう!」とばかりに、ニコッと笑って親指を立てて見せて来た。
先頭を歩いていたミューリが立ち止まった。
「そろそろ到着だよ。三又になっている場所は、もうこのすぐ先だ。ファム、どんな感じ?」
「うん。魔物の気配もいくつかするけど、この辺りにいるって解るだけで、どの穴の先にいるかまでは、解らないよ」
「キノコのある穴は?」
首を振るファム。やっぱりそこまでは、解らないか。よし、じゃあ行って確かめてみるしかないね。
「じゃあ私とルシエルで、左の穴から順に先を見てくるから、ミューリとファムはルキアとカルビとここで待ってて」
「探しているキノコを判別できる者がいないとダメだから、ファムも一緒に行くよ」
そう言って、ファムが進み出た。
「じゃあちょっと見てくるね。ルキア、カルビ!」
「はい! くれぐれも気を付けてくいださいね、アテナ」
そう言って、私とルシエル、ファムの3人で、三又になっている道の一番左のルートを選んで中に入って行った。
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〚下記備考欄
〇キノコ五種 種別:アイテム
レッドマッシュ、ブルーマッシュ、グリーンマッシュ、イエローマッシュ、パープルマッシュ。様々な薬を作る為に必要な材料。
〇風の探知魔法 種別:黒魔法
中位の風属性魔法。掌に風でできた球を発動する。それを見る事によって、近くにあるお宝や敵の場所の索敵、ダンジョン内でのマッピング等々できる、冒険者なら是非使えるようになりたい魔法。




