第147話 『ロックブレイク その1』
ノクタームエルド。広大な大洞窟に無数にある空洞。その空洞のひとつに冒険者などが集まって拠点にしている場所があった。その名も、『ロックブレイク』という拠点。
そこで一旦休息をとろうと、私達はテントを張る事にした。テントを張ろうとすると、一人のドワーフが近づいてきて使用料だと言って料金を提示してきたので、とりあえず大人しくお金を支払った。郷に入れば郷に従えっていうしね。
どうやら、このロックブレイクでテントを張るには、お金を払う必要があったみたい。ルシエルは最初、テントを張るだけで、なぜお金を支払わなければならないんだと不満に思っているようだった。だけど、「さっきのお金を支払ったドワーフがこの場所を管理しているから、その管理費として支払ったんだよ」って説明すると納得したようだった。
テントの設営が完了し、焚火を作ろうとしたルシエルが首を傾げた。
「テントを張り終えたけど、焚火はどうやってするんだ?」
「え? そんなのいつも薪を拾って…………」
「そう言えば、私も気が付きませんでしたけど、ここって洞窟ですもんね。燃料というか……木が無いですよね」
え? 言われてみれば確かにそうだ。じゃあ、ここの人達は、いったい何を燃やして焚火をしているんだろう。
周囲を見回と、ロックブレイクのあちこちで、焚火をしている人達が見える。
「ちょっと聞いてこようか?」
「じゃあオレは、カルビとテントにいるよ。全員でどやどや聞きに行っても、何事かとびっくりされるかもしれないだろ」
「そうね。じゃあ、ちょっと聞いてくる」
ルシエルとカルビをテントに残して、私はルキアと一緒にロックブレイクを見て回る事にした。
「アテナ! あれ、あの人は薪を使って焚火をしていませんか?」
「ほんとだ。ちょっと聞いてみようか。――――すいません、ちょっといいですか?」
「おうん? なんだねん?」
ちょっと変わったドワーフだった。ボッサボサの髭。ルキアが私の陰に隠れる。
「私達、今日ここへ着いたばかりでテントを張った所なんですけど、焚火をしたくて。それで焚火なんですけど、こちらの焚火って薪を使っていますよね? それって、何処で手に入りますか?」
「薪ん? それならん、あそこで売っているよん」
ドワーフが指した方に、大量の薪があった。その隣に座り込んでいる男がいるけど、あの人から薪を購入できるのかな。…………まあ解ってはいたけど、やっぱり普通……洞窟内には木は生えてはいないもんね。だからああやってここまで薪を運んで来て商売をしている人がいて、買う人がいるんだ。それなりに需要もありそうだし、いい商売かもしれない。なるほどね。
ルキアが私の腕を引っ張った。
「あそこ! あそこ見て下さい!」
ルキアが言う方を見ると、おばさんが萎びた大根のようなものを並べて売っていた。その前には、商品名と思われる名前と値段が記入された板が立て掛けられてあるけど、なになに……
「…………薪茸? え? 薪? あれ薪なの? 萎びている大根みたいなんだけど? しかも一つ大銅貨7枚か。それってお買い得なのかな? あんなの初めてみるから、解らないよ」
「アテナ、聞いてみましょう。薪茸っていうんですから、薪になるキノコじゃないですかね?」
「……そ、そんなキノコある?」
――――売っているおばさんに聞いてみたら、ルキアが言うようにまさかの薪になるキノコだった。遠目には本当に萎びた大根のように見えるけど、確かに近くで手に取って見てみると傘がついていてキノコだった。珍しくて面白いので、とりあえず10個程購入してみた。ルキアは、気に入ったようでその薪茸を持たせるとずっとプニプニと指で押したりして触っていた。
「面白いものがあるね。折角だから他にも見てみようか」
「はい!」
どうやら近くに鉱石のとれる場所があるらしく、そういった鉱石や宝石などを売っている人達もいた。でも一番私とルキアが興味を示したのは、やはりキノコ。青やら黄色やら色々な変わった形のキノコを売っている人もいた。
キノコ自体は、クラインベルト王国を旅して回っている頃に、色んな森で食用のものを採取しては焼いたり鍋にいれたりして食べていた。だからある程度、その種類も見分けられるはずだったんだけど、中には見た事の無いキノコがいくつも売られていた。
「ねえねえ、お姉さん、もしかしてキノコ好きなのー? ねえ?」
ふいにそこでキノコを並べて売っていた女の子が、声をかけて来た。あれ? 二人いる。マッシュヘアが似合う、赤い髪と緑色の髪の女の子。姉妹かな?
「うん、好きよ。キノコは、よく森で食用の野草と一緒に採ったりして食べるし。――ここに並んでいるキノコは、全部あなた達が採って来たものなの?」
赤い髪の子が、自慢げに胸を張った。
「そうだよ。僕達が二人で採ってきた茸だよ。キノコには様々な種類があってね、美味しい食用の茸から薬になる茸、毒薬になる毒茸だってあるよ。例えばこの黄色い大きな茸は、イエロースマッシュっていう茸でメチャウマだよ」
イエロースマッシュ!! なんか凄い名前のキノコ!! ルシエルが聞いたら、喜びそう。フフフ。
「へえ、面白いキノコね。じゃあ、そのイエロースマッシュを8つ頂戴。あと、回復薬になるキノコもあれば欲しいかな」
「うわーー。お姉さん、それなら丁度ベストタイミングだよ。これ、買わない? 回復キノコをいくつか調合して作った、僕お手製の回復ポーションだよ」
そう言って、彼女は自分のテントの中から箱を取り出し中身を見せた。何本もの、青い色の液体が入った瓶が並んでいる。……ポーションには見える。でも通常のポーションは、いくつもの薬草で生成されるのが主だ。キノコで生成するポーションっていうのは、初めて見るし初めて知った。
「確かにポーションには見えますね」
「おっ! こちらの子猫のお嬢ちゃんも可愛いね。買ってくれるならメチャメチャおまけしちゃうけど」
「こんなキノコで生成するポーションも珍しいし…………じゃあ、折角だからこれも5本もらおうかな」
「まいどありーー!!」
私とルキアは、キノコ関連の商品を売っているマッシュヘアの可愛らしい女の子二人から、食用のイエロースマッシュというキノコを8つと、キノコで生成したポーション5本を購入した。
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〚下記備考欄
〇赤髪と緑色の髪をしたマッシュヘアの可愛い二人の女の子
顔もよく似ているので、姉妹と思われる。ロックブレイクでキノコを販売していた。売っていたのは、恐らくこの子達が採取していきたキノコだろう。
〇薪茸 種別:アイテム
太くて長い、大根みたいな大きなのキノコ。なんとなく表面がしなびている感じがする。着火すると、簡単に火がついて燃え上がり、それでいてなかなか燃え尽きないので、木のない大洞窟では重宝されている。
〇イエロースマッシュ 種別:食べ物
焼いて良し、煮て良しの黄色い食用キノコ。だけど、焼くのがオススメかも。ノクタームエルドでは一般流通しているが、他の国ではあまり知られていない食材かも。




