第145話 『続 カルミア村のあれから……』
「パルマンさん!!!!」
村に入って来た者達の顔を見て、リアが叫んだ。
「パルマンさん⁉ もしかして、この方々はリアの知っている人なんですか?」
「はい! この村の人達です!」
そう言ってリアは、1階へ駆け降りるとその人たちに向かって走り出した。――そうなんだ。やっぱり、生き延びた人達がいた。私もテトラと一緒に、リアのあとを追った。
隠れて様子を見ていた家から飛び出した所で、ここへ向かってきていた人達の一人がリアを抱きしめている光景が目に入った。そんなリアを見て、ようやく私は胸をなでおろした。テトラも同様だった。
「セシリアさん、テトラさん! この人は、パルマンさんと言ってこの村の方です! やっぱり、セシリアさんの言っていた事は本当でした! 無事な人達がいました」
リアがパルマンと呼んだ男の人が進み出てきて言った。
「あなた達は……メイドですか? メイドの方がこの村へいったい……」
「私達は、クラインベルト王国の王宮メイドです」
「お……王宮メイドですと⁉ それは、どういう事でしょうか……」
「ご説明致しますが……ここでも大丈夫でしょうか? ここに皆さん住んでいらっしゃらないって言う事は、ここがあまり安全な場所でないか何か他に理由があるという事ではないでしょうか?」
「おお、お気づきになられましたか。実はその通りなのです。森の中に儂らのキャンプがあります。まずはそちらにご案内しますので、そちらでお話をしましょう」
私は頷いた。リアを見ると、嬉しそうにパルマンさんという方の手を握り、ずっと引っ付いている。村で住んでいた頃は、よほど大切にされていたのね。
――――私達は、パルマンさんに連れられてカルミア村から少し離れた森の中にある彼らのキャンプへと案内された。そこには、20人程の獣人が身を寄せ合って暮らしていた。そう言えばリアも獣人、可愛らしい耳と尻尾のある猫の獣人。カルミア村は、獣人の村だった。
焚火の前に案内されると、優しそうな女性がお茶を出してくれた。パルマンさんがリアと一緒に目の前に座る。
「儂らの村は、農作物を育てたり魚を取ったり、狩りをしたり木を伐ったりして皆生活をしておりました。そうやって生計を立て、毎日を平和に送っておりましたある日の事、この村に盗賊団がやってきたのです。盗賊団は略奪行為を働き村人を奴隷にすると言って捕らえ、言う事の聞かないものは残酷にもその者の命を奪い見せしめにしました。その時に、なんとか逃げ出せた者達がここへ集まりました。儂の場合は、その時丁度、木を伐りに森に出かけていて助かったと言うわけです」
「そうだったんですか。ここにいる人達は逃げ延びて、助かった人達……」
「ええ。連れ去られた者達は、奴隷にされ消耗品の如く死ぬまで酷使され続けると聞きました。リアもまさか、生き延びていてくれたなんて…………神に感謝を捧げたい気持ちです」
「リアは奴隷商に商品として、ドルガンド帝国に売られてしまう所でした」
私は、リアがこれまでにあった事をパルマンさんとその横で話を聞こうと集まっているカルミア村の人達全員に説明した。パルマンさんもこれまでの事を語ってくれた。村の高台にある墓は、やはり冒険者ギルドの者達だけでなく、パルマンさん達も一緒に埋葬したそうだ。これが、埋葬された村人それぞれの墓石に掘られた名前がちゃんと一致している理由。
住民台帳に名前が載っているのに、墓がなくこのキャンプ地にもいない者達の事も聞いてみたが、その人達は賊に拘束され何処かへ連れて行かれたという事だった。リアと同じく、奴隷として連れていかれたのだろう。
でもリアのお姉さんであるルキアや、リアの友達で墓のない者の行方を知っている人はいなかった。皆必死で、逃げ惑っていたのだからそれは無理もないが、これでルキア達が生きている可能性も、ぐっと高くなったように思えた。
「それで、パルマンさん達……村の人たちは、カルミア村には帰らないのですか?」
パルマンさんは表情を曇らせる。
「冒険者ギルドの方々が、街へ引き返して間もない位に、またこの村に盗賊団がやってきたんです。やってきた賊は、4人。我々は20人からいたので、賊を追い払う事はできました。しかし賊を追い払うという行為は、間違いでした。賊は仕返しにまたやってきました。しかも大勢の仲間を引き連れて」
「それで、森に逃げ込んで隠れていたんですね! その賊は、まだ村にはやってくるんですか?」
テトラの質問に、パルマンさんは悔しそうに頷いた。昨日も、10人程やってきたらしい。
私は助けを冒険者ギルドや王国へ求めないのか聞こうとしてやめた。王国は、この間までルーニ様が誘拐された事もあって王宮内は混乱していた。冒険者ギルドに頼んでも、上ランクの冒険者が来てくれればいいが、この村を襲った盗賊団はあの世界最大の犯罪組織『闇夜の群狼』の一味だという。簡単に解決はしない。
「生き残った村の者達で、お金をかき集めてリオリヨンの街の冒険者ギルドへ賊討伐と、村の防衛の依頼も出しました。ですが派遣されてきた冒険者は、皆その……賊達にやられてしまって……」
「なるほど……八方塞がりという事ね」
テトラが肘で私の腕を、つついてくる。
「あの……セシリア。私達でなんとかできないでしょうか? ルーニ様も、リアやこの村の事を案じていました。それにルーニ様やリアや皆に、こんな事をした盗賊団を、このままのさばらせたままではいられません」
「そうねえ。…………とりあえず、私達も今日はここで皆とキャンプをして、明日また村の様子をみましょう。賊は昨日も村に現れたというのなら、明日も現れるかもしれないわ」
「ありがとうございます。でもあたな方のような、娘さんに手におえる相手では……」
テトラはおもむろに立ち上がると、涯角槍を手に持ち構えてみせると、巧みに振り回して見せ言った。
「大丈夫です! 私達に任せてください! こう見えても私、多少の武術の心得えがありますし、セシリアだって凄いんですよ! カルミア村にいたスペクターも一人で退治しちゃったんですから!」
「ええっ!!」
スペクターを倒したと聞いて、パルマンさんや他の村人が驚いた。
「あの賊に殺された者達の怨念で、生まれたスペクターをお嬢さんおひとりで、倒したのですか⁉ し……信じられん……」
「倒す代償として、村長さんの館を燃やしてしまったけれど。とりあえず村の脅威をひとつ解決できたという事かしら。でも、それを考えて頂ければ、少しは私達の力量を信じて頂けるかしら。だから、この場はひとつ私達を信じてみて、村にやって来るという賊の情報をもう少し詳しく話して頂けますか?」
パルマンさんは少し考える素振りを見せたが、大きく頷いた。
「はい、賊の情報ですか……」
リアが何かを思いだし、パルマンさんの服の袖を引っ張った。
「あの日、村を襲撃しに来た盗賊達のリーダーみたいな男は?」
「ああ! そうだ。そうだった。盗賊団のリーダーなのか、仕切っていた男がいました。バンパって名前の黒ずくめの男で、抵抗した数人の村の者を両手に持ったナイフであっという間に倒してしまう男で、他にゴルゴンスという恐ろしい魔物を連れた大男と…………そうだ! サクゾウという鎖鎌を持った隻眼の男がいました。その者達は他の賊と違って、かなり腕に覚えのあるといった感じでした」
「鎖鎌を持った隻眼の男ですって⁉」
テトラと顔を合わせた。あの王都にあるスラム街の酒場にいた男。私が火球魔法を封じ込めたスクロールを使用して、酒場を破壊した後、その姿を消していた男。
テトラの話では、あの店のバーテンの用心棒みたいという事だった。ルーニ様救出に急を要していたという事もあってそれ以上は関わってなかったけれど、まさかあの鎖鎌の男も『闇夜の群狼』の関係者だったとわね。
『闇夜の群狼』は、世界最大規模の犯罪組織。それの本拠が何処にあるかは解らないけれど、少なくともこの王国の何処かに隻眼の鎖鎌の男やバンパっていう男達のいる根城はある。
そこを見つけ出して、奴らを駆逐してしまえば、ここの村はきっと救われるだろう。その為にも、まず第一歩としてしつこく村にやってくる賊を締め上げる。そうすれば、根城の場所を聞き出せるはずだ。
「テトラ。これは、奴らをとっちめてあげるしかないわね」
「はい! もちろんです!」
――――カルミア村に平和を取り戻してみせる。私はそう強く思った。
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〚下記備考欄
〇パルマン 種別:獣人
コツメカワウソの獣人。カルミア村の住人で、賊に村を攻められた時にたまたま村の外へ出ていて助かった。リアの事は、産まれる前から知っている。
〇バンパ 種別:ヒューム
闇夜の群狼の幹部。二刀流のナイフ使いで、黒魔法も使える。カルミア村を襲った時に、その賊達を仕切っていた。
〇ゴルゴンス 種別;ヒューム
闇夜の群狼の一人。大男で、恐ろしい魔物を従えている。バンパ指揮下にいる模様。
〇鎖鎌のサクゾウ 種別:ヒューム
闇夜の群狼の一人と思われる。鎖鎌の使い手で、クラインベルト王都にあるスラム街の酒場で用心棒をやっていた。酒場に踏み込んできたテトラと戦い、敗れるもその後逃走。彼も闇夜の群狼とすれば、バンパ指揮下にいる模様。
〇カルミア村近くのキャンプ
カルミア村が賊に攻められ、無我夢中で逃げ惑い逃げ切った者や、たまたま村を留守にしていた者が集まってキャンプをしている。村には時折、あの時の賊がやってくるのでまだ村人達は戻れないでいる。
〇火球魔法 種別:黒魔法
火属性の中位黒魔法。殺傷力も高く強力な破壊力のある攻撃魔法だが、中級魔法の中では、まず覚える一般的な魔法。




