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第143話 『足りない墓』 (▼セシリアpart)





 リアは、もう少し村の中を色々見て回りたいと言ったので、テトラにリアと一緒に行動してあげてと伝えた。賊に襲われて廃墟化した村なのだ。7歳の少女一人で、徘徊させるには不安が付きまとう。武術に特化したテトラが一緒にいれば何かあっても、守ってくれる。


 私の方は、リアに予め聞いていた村長の館がある場所に向かってみた。途中、村に紛れ込んだ1匹のウルフに遭遇したが、ボウガンを向けると警戒したのか去っていった。


 村長の館に着いた。壊されている部分はあるけど、ちゃんと家の形をしていた。扉は、少し開いたままになっている。ボウガンを装備した状態で、館の中へ入った。――エントランス。


 中は、物で散乱しており薄暗く少し前に進むと、足で何かを蹴とばした。



「これだと、灯りが必要ね」



 ザックからカンテラを取り出し、火を灯した。2階へあがり一部屋一部屋を見て回った。廊下の床や壁のあちらこちらには、傷や破壊されて穴の空いている部分がある。金目になるような物が、一切見当たらない。襲撃を受けた際に、賊に全て運び出されてしまったのだろう。


 ――――奥の部屋。



「この部屋は、書斎ね。本や書類などに関しては、賊はまったく興味を示さなかったようね。手つかずのまま、そのまま残っているわ」



 棚や机など順に調べていくと、この村の住民台帳を見つけた。内容に目を通すと、村の住人の名前が記載されている。



「いいわ。とりあえず、欲しいものが手に入ったわ」



 住民台帳をザックにしまうと、村長の館を出ようと会談に向かった。すると1階の方から何か物音がした。何かいる――――


 私は、片方の肩にかけていたザックを両肩に背負い直し、矢筒を確認する。ボウガンを構えて、物音を立てないようにゆっくりと1階へ降りていく。



 ガサガサ……



 奥の方の部屋からする。――――緊張が走る。


 廊下を進み、音のする方へ行くと音がする部屋の前まできた。ドアは、空いたまま。覗き込むと、その部屋は厨房だった。



 ガサガサ……



 いったい何? 更に覗き込もうと身を取り出した時、床に落ちていた空箱を蹴飛ばしてしまった。



 ヒギャアアアアー!!



 ――――気づかれた!! 


 急いで厨房を出て、扉を閉めた。目の前の棚を押し倒して、扉を塞ぐ。



 ドンッドンッドンッ

 


 バキバキバキバキ



 扉が壊される!! 破壊された穴や隙間から、白い煙のような靄が廊下へ漏れ出てくる。煙のようなそれの内側に、禍々しい黒い何かが浮かび上がってきた。この世のものは思えない、白く濁った恐ろしい目が私を睨んだ。



 ヒギャアアアアア!!



 スペクターだ。幽霊とも呼ばれている。戦場跡や廃城などで、怨念が渦巻いている所に魔が入り込むと産まれるという魔物。この村の人たちの多くが賊に殺された。冒険者ギルドが亡くなった人たちをきちんと、埋葬したとしても、こういった魔物が発生する可能性は普通にある。


 扉がもうもたない。館の外に逃げ出そうと、廊下を走った。っが、何かが足に絡みつき転ばされた。



 ヒギョオオオォォォ!!



 スペクターが迫ってきた。すぐに立ち上がり、ボウガンを撃ったが矢はスペクターを通り抜けた。やはり何か神聖系の武器か魔法、聖水などないと有効なダメージを与える事ができない。生憎、神聖系のスクロールも聖水も、幽体に効くようなものは持ってきていない。


 走ってもすぐに追いつかれると思った私は、すぐ近くの部屋に入りドアを閉めた。同じように棚やテーブルでドアを固定した。さっきと同じく、ドンドンと音を立てて、スペクターがドアを壊そうとする打撃音が響く。



「この部屋は、ダイニング……何か武器になるようなものは、ないかしら!」



 私はカンテラで真っ暗なダイニングのあちらこちらを照らし、必死で部屋をくまなく探す。そして、探していたものを見つける事ができた。



 バキバキバキッ!!

 


 ドアが潰され、ダイニングにスペクターがゆっくりと入って来た。

 


「生憎私は、可愛い狐のメイドさんみたいに幽霊を怖がったりしないの。残念ね! これでも、喰らいなさい!!」



 そう言ってこのダイニングで見つけたフォークを、深々とスペクターに突き刺した。



 ギャアアアアアオオオオ!!



「断末魔をあげるのは、まだ早いわ! まだもう一本あるのよ!!」



 もう一つ見つけて持っていたフォークをスペクターの目にも突き刺した。スペクターの煙のような身体が歪に捻じれる。突き刺したフォークは、銀製品。



「銀は少なからず、破邪効果があるのよ。効果覿面だったようね」



 私は隙をついて、スペクターの入って来たドアから廊下へ出た。追いかけてくる気配がする。



「まだ、懲りないのね」



 私は出口に向かわず、最初にスペクターと遭遇した厨房に入った。そこで、瓶に入った油を手に入れたあと、館から脱出する為にエントランスへ向かった。


 廊下を抜けた所で振り向くと、ダイニングからスペクターがよろよろと出てくる姿が目に入った。私は、油の入った瓶に布を詰め込んで、携帯しているマッチで火をつけるとスペクターの方へ放った。


 瓶はスペクターのいる辺りで落下し割れて、油と共に火が飛び散った。そして火は燃え広がり、炎がスペクターを包んだ。スペクターは、燃え広がる炎の中で悲鳴をあげた。


 私はスペクターの最後を見届けると、急いで館を飛び出した。火はあっという間に燃え広がり、館を灰にしていく。


 燃え盛る館を見つめていると、テトラとリアが血相を変えて走って駆けつけてきた。私は、二人に魔物に襲われた事を話したあと、リアに村の住人台帳を手渡した。








――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇スペクター 種別:アンデッド

怨念渦巻く場所に魔が入り込むと、生まれる。霊体で物理攻撃は効果がない。しかし、スペスターからの攻撃は物理攻撃として変化させられるので、魔法や神聖系のアイテムなど使えない場合は逃げるが得策である。黒魔法を使用する個体もいるので、戦闘には十分な注意と準備が必要。


〇住民台帳 種別:アイテム

街や村など、人が集まって暮らしている所ではだいたい使われているもの。街なら町長、村なら村長がもっていて、そこに誰が住んでいるかとか家族構成など書き記したもの。


〇銀製のフォーク 種別:アイテム

銀製のフォークや武器などで攻撃する場合、それは物理攻撃だが銀には魔除けや破邪特性があり、霊体のアンデッドにもダメージを与える事ができる。

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