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第141話 『早朝の川べりで』





 早朝、目を覚まし、テントから出るとリアがもう起きていた。そして焚火に薪をくべて、お湯を沸かしてくれていた。



「おはようございます。リア」


「あっ。おはようございます。テトラさん」


「リアは、とても早起きなんですね」


「はい。なぜか、テトラさんやセシリアさんと一緒だと、凄く落ち着くというか、安心できるんです。それに昨日は、美味しいご飯も遠慮なく頂いちゃったし、お腹もいっぱいになっちゃって、すぐ眠くなっちゃったから」



 リアは、もじもじしながらそう言った。



「フフフ。ゆっくり休めたのなら、良かったです。それはそうと、セシリアはまだ起きてきませんねー」


「まだ、眠っているんですかね?」


「セシリアは、朝弱いですからね。起きてくるまでにまだ時間が掛かりそうですから、ちょっと近くの川にでも行って魚でも獲りましょうか?」


「はい。いいですね」



 私は涯角槍を手に持つと、ザックからナイフ2本と紐を取り出して、リアと森の中に入った。少し歩いた所に、川があるのだ。そこへは、昨日キャンプを始めてから何度も水を汲みに行っている。


 川へついた。



 バシャバシャッ



「わあーー。冷たくて、気持ちいい!!」

 


 リアが楽しそうに川に入って行く。水が膝までの所で歩き回っては、はしゃいでいる。それに本当に気持ちよさそう。考えてみれば、リアはルーニ様と同じ7歳なんだもの。遊びたいさかりだ。



「リア! その辺にお魚さん、いないですか?」


「え? あ、はい! 見てみます!」



 リアが川の中を歩き回り、声をあげた。



「いるいる!! テトラさん、魚がいますよ!! ええいっ!! だめだーー」



 リアは着ている服がびしょびしょになる事も気にしない様子で、川を泳ぐ魚を手掴みしようと頑張っている。



「それじゃあ、お魚さんをなかなか捕まえる事はできないかもしれませんね。私に、いい案がありますよ」


「いい案ですか?」


「はい!」



 その辺を見回して、適当な長さの棒を2本手に入れる。その棒の先端部分に、紐を巻き付けてナイフを取付けた。簡易的だけど、一応――槍のできあがり。そのうちの1本をリアに手渡した。



「わあ、凄い。お手製の槍ですね。これで川の中を泳ぐ魚を突くんですね」


「はい。セシリアの分も獲らなきゃいけませんからね、頑張ってお魚さんを獲りましょう」


「でもテトラさん、その立派な槍があるのに、なぜもう1本作ったんですか? 両手で、それぞれ槍を使って魚を獲るんですか?」



 私は、リアのその発想に笑った。



「っぷ! いえ。違います。この槍は、『涯角槍(がいかくそう)』と言って、リアも会っている方なんですが、近衛兵隊長のゲラルド・イーニッヒ様から頂いた、大切な槍なんです。だから、お魚さんを突いたりとか、そういうのに使うのは、ちょっと恐れ多いかなーって」


「なるほど、そういう事だったんですね」


「はい、そういう事なんです。それじゃ、頑張ってお魚さんを獲りましょう!」



 気合を入れ、リアに続いて川に入ろうとした。それでようやく自分がメイド服を着ている事に気がついた。ロングスカートなので、このまま入ると水に濡れてしまう。


 …………うーーん。こうなったら、致し方ない。


 私は着ているメイド服を思い切って脱ぐと、きちんと畳んで川べりを見回し、ちょうどいいサイズの石の上に置いた。下着1枚の状態になってしまったけど、しょうがない。それに川や湖で潜って魚を獲っている人達は、普通皆こんな感じだし大丈夫だと思った。涯角槍(がいかくそう)は、用心のために紐を使用して背中に背負う。



「じゃ、じゃあリア。行きますよ」


「ええーー!! テトラさん、そのかっこ!!」



 私のあられもない姿を見たリアが、動揺を隠せず顔を真っ赤にしたが、私はすでに真っ赤になっていた。



「服を濡らすよりはいいかなって。えへへ……さあ、リア! お魚をどっちが先に捕まえられるか競争ですね!」



 そう言ってリアの注意を下着姿の私から、お魚さんへと向けさせた。


 リアが、両手でしっかりと槍を持ち、そして構える。――魚影。今だよって声をかける前に、リアは槍で見事に魚を突き刺した。



「やったーー!! やりましたよ、テトラさん!」


「すごーーい! じゃあ、見ててください! 私だって、お魚さんを捕まえるのは、結構得意なんですよ!」



 お手製の槍を手に持ち、穂先を水面に向けながら歩き回って魚を探す。



「あっ!」



 ――――魚影発見。


 槍で突こうとしたら、川底の石に生えている水苔に足を滑らせ滑って転んだ。頭から、川の中へ入ってしまい、髪も下着もビショビショになってしまった。リアは、そんな私を見て大笑いした。



「ううーー。ビショビショです。でも、用心して服を脱いでおいて良かった」


「アハハハハ。テトラさん、大丈夫?」


「よーーし! こうなってしまったら、もう一緒だよね」



 私は全身水で濡れてしまった事により、開き直って水に頭から浸かった。そのまま川の中を泳いで、魚を探し始める。その甲斐もあって、5匹ゲット。


 満足してリアが魚を獲っている所に戻ると、リアもあれから3匹獲っていた。



「じゃあ、そろそろキャンプに戻りましょうか?」


「テトラさん、早く服を着て下さい!!」


「え? でも、下着を乾かしてからじゃないと……」


「違うんです! あれ!!」



 リアが指した方を見ると、すぐ近くの川べりに人が集まっていた。全員、男の人。こっちを見て、なんか騒いでいる。



「狐ちゃん! もう行っちゃうのーー?」


「なんだよ、もう終わりかー?」


「おじさんも、ちょっと一緒に川で泳ごうかな?」


「拙者、この日の為に切磋琢磨し泳げるようになったと言っても、過言ではない!」



 はっとした。顔がみるみる熱くなる。


 私は石の上に畳んで置いていたメイド服を取ると、靴だけ履いてリアの手を引いてセシリアのいるキャンプへ急いだ。



「あはは。テトラさん、凄く可愛いから……あの男の人達、皆テトラさんを見てましたね。次からは、気を付けないとだめですよ」


「ううーー、言わないでください。顔から、火が出そうです!」


「アハハハハ。――実は私、泳げないんです……前にお姉ちゃんと川で、泳ぎの練習をしたんですけど、その時にはどうしても泳げなくて……」


「ルキアちゃんでしたっけ? お姉ちゃんが、泳ぎが上手だったの?」



 リアは、顔を横に振った。



「まったく泳げない事はないですけど、お姉ちゃんも泳ぎは得意ではないから、一緒に練習していたんです。テトラさんがあまりにも、上手に川で泳いでいたので見とれていたら、それを思い出して…………だから私、お姉ちゃんの分も泳ぎが上手くなりたいです。また、次に川で魚を獲る時に、私に是非泳ぎ方を教えて頂けませんか? …………だめでしょうか?」



 あのルーニ様を攫った賊達は、リアの両親とお姉さんの命を奪った。


 私は急に胸が苦しくなって、駆けていた足を止め、リアの方を振り返ると笑顔で答えた。



「もちろんいいですよ! 一緒に泳いで、お魚さんを沢山獲ってセシリアを驚かしちゃいましょう!」


「はーーーい!」



 リアは、右手をピンと勢いよく挙げて大きな返事をした。


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