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第140話 『いざ、カルミア村へ』 (テトラpart)





 ――――カルミア村。それが、リアのいた村の名前。産まれ育った場所。


 私とセシリアとリアの3人は、そのカルミアの村を目指して旅をしていた。でも旅と言っても、あと1日そこいらで、到着する。



 プッギイイイイイ!!



 森の近くを歩いていると、草の茂みから4匹のオークが飛び出して来た。オークとは、人型の豚の魔物。豚の顔と、その口から飛び出した牙、そして槍やら斧やらで武装していたりするのがその魔物の特徴だ。



「セシリア、リア。二人ともさがっていてください!」



 私は背負っていた槍を取り出し、ぎゅっと握って構えた。穂先はオーク達に向いている。この槍は、ゲラルド様から、頂いた大事な槍で『涯角槍(がいかくそう)』という槍だそうだ。使ってると尚更感じるけど、間違いなく一級品の武器。普段、王宮で働かせて頂いているとはいえ、下級メイドの私にとっては過ぎる程の宝物。



「援護するわ」



 セシリアはそう言って、ボウガンを構えた。それを確認して、私はオーク達に向かって行った。



 プギュアアアアアア!!



 4匹のオークの装備は、槍が2匹に斧が2匹。私は涯角槍(がいかくそう)を振り回して、オーク達を牽制すると1匹を狙って勢いよく突き刺した。オークが悲鳴をあげて倒れる。斧を装備しているオークのうち、盾を持つ1匹がウッドシールドを突き出して突っ込んできた。


 私は避けもせず、重心を低くしてしっかりと足で踏ん張ると、突っ込んでくるオーク相手に涯角槍(がいかくそう)を突き出した。その攻撃はウッドシールドを簡単に突き破り、構えていたオークをもろとも貫いた。


 残った2匹のオークが怯む。刹那、怯んだ1匹の頭部に矢が突き刺さる。セシリアの声。



「テトラ! あと、一匹よ! 頑張ってー!」


「はい!! 任せて下さい!!」



 あっと言う間にオーク達を倒した。ルーニ様を救出する使命で、私達はかなり戦闘にも慣れて、鍛えられたと思っていたけど、それだけじゃない。改めて涯角槍(がいかくそう)という武器の凄さが解った。



「ふう、なんとか襲ってきたオークは全て倒せたようですし、旅を続けましょうか」


「はい! よろしくお願いします」



 リアの返事はしたが、セシリアの声はしなかった。見ると、倒したオークに近づいて何かを探っている。



「セ……セシリア? 何をしているんですか?」


「戦利品の獲得よ。備えあれば憂いなしとも言うでしょ? この先、何があるか解らないからね。……金目の物があればいいのだけれど」



 相変わらずセシリアは、逞しい。以前、セシリアが私の事を逞しいっていたけど、私はセシリアの方がよっぽど逞しいように思えた。


 途中、まるでセシリアが計算しすでに想定していたかのように、行商人とすれ違った。もちろんセシリアは、行商人に声をかけてさっきの倒したオークから獲得した、武器やら装飾品やらの戦利品をお金にかえ、必要な物を購入した。


 陽も落ちてきて、辺りが暗くなり始めた頃、セシリアが目の前の草原地帯を指して、「今日はここでキャンプをしましょう」と言った。私とリアは、返事してすぐに設営作業に取り掛かった。テントは全部で3つ。ルーニ様が旅の準備をしてくださって、リアにも自分用のテントやキャンプ用品も揃えて下さったのだ。



「これで、いいですか? セシリアさん」



 リアはテントの張り方を、一番近くにいた私を通り過ぎてセシリアに聞いた。私も、一応一人でテントを張れるんだけど。ちょっと悶々とした。でももしも私がリアだったとしたら、きっと同じようにセシリアに聞くかなと思って苦笑した。



「上手ね、リア。それだけ手際よくテントも設営できれば、もう十分に一人でキャンプする事ができるわね」


「褒めてくれて、ありがとうござます。セシリアさんの教え方が、上手いのだと思います」



 照れているリアに、私も声をかけた。



「じゃあ、次は焚火をするので、一緒に作ってみませんか?」


「はい。お願いします!」



 私はリアの小さくて柔らかい可愛い手を引いて、焚火を囲む為の石やら燃料にする薪を拾いに行った。



「そう言えば、リアっていくつなんですか?」


「はい。私は7歳です」


「7歳!! 丁度、ルーニ様と同じ年ですね! なるほど、ルーニ様とお友達になれる訳ですね。フフフ」

 


 リアは、顔を赤くして俯いた。でも、その表情はとても嬉しそう。


 石と薪を集め終えると、キャンプへ戻った。セシリアはすでに鍋一杯の水を汲んできていた。焚火ができると、水の入った鍋を火にかける。


 今日の晩御飯は、セシリアお手製のサンドイッチ。挟んである卵は、潰してあるものでなくて、きっと卵焼きになっているものだろう。想像するだけで、お腹が鳴った。そしてお湯を沸かしているのは、きっと紅茶を入れる為だ。


 ようやく落ち着くと、セシリアはサンドイッチの入った包みを3人分取り出し、それぞれに配った。



「あれ、セシリア? 卵や野菜の他に、お肉の入ったサンドイッチもありますね? これ、なんのお肉ですか?」


「フフフ。ホワイトポークの特上肉よ。それにパン粉を塗して、油でカラッと揚げたのよ。奮発したのだけれど、気に入ってもらえるかしら」


「ええーー!! それって、ポークカツじゃないですか!! ポークカツサンドですよ!! ポークカツサンド!! 私、これ大好きなんです!」


「ちょ、ちょっと興奮しすぎじゃない?」


「しかも、ホワイトポークって……そんなにいいお肉を使用しているんですかー。食べるのが、楽しみです」


「そうよ。だから、ちゃんと味わって食べてね」



 リアもサンドイッチの中に見える、美味しそうな衣をまとったお肉を見つめて震えている。



「わ……私、そんないいお肉食べた事がないです。お肉って言ったら、お魚とかそういうのがほとんどで…………あとは、干し肉……」


「お魚もいいとは思うのだけれど。でもたまには、美味しいお肉を食べるというのも悪くないわよ。なんて言っても、お肉を食べればパワーがつくから。ほら、こんな感じにね」



 セシリアは、そういって私の胸をつついた。



「ちょ……セシリア⁉ もう! ちょっとやめてください! 私の胸を、つつかないでくださいよ」


「あら? いっつも強調しているから、ひょっとしてつついて欲しいのかなって思っていたわ」


「あっ! ちょちょ……ちょっと、またつつかないでください!! なんか、変な声が出ちゃうじゃないですか!! っもう! それに大きいのは、私のせいじゃありませんよ!」


「そう? はたして本当に、そう言えるのかしら? 調べてみる必要があるかもしれないわね」


「っもー!! そんな必要は、ありませんっ!!」



 そんなやり取りをする傍らで、リアは笑っていた。


 食事を始めると、途端に夢中になってサンドイッチを食べる私とリア。セシリアのサンドイッチは、絶品だものね。


 明日は、リアのいた村に到着する。リアの村は、奴隷商や盗賊団に襲われ荒らされたと聞いているけど、今はどんな状態になっているのだろう。


 私は夜空を見上げると、少しそのことに考えを巡らせた。だがまたすぐに、セシリア特製のジューシーなサンドイッチに勢いよくかぶりついた。

 







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇テトラ・ナインテール 種別:獣人

狐の獣人。本作第二章の、もう一人の主人公。クラインベルト王国王宮の下級メイドだが、伝説の狐の獣人、九尾の一族である事からセシル王に呼ばれテストを受ける。九尾でありながら、尻尾は4本しかない。だが、テトラ自身は棒術や槍術といった長柄武器を巧みに扱う事ができて戦闘力は非常に高い。それに加え、獣人特有の身体能力に恵まれている。栗色の長い髪に、丈の長いロングスカートのメイド服を着用している。自分のせいでドルガンド帝国と闇夜の群狼に捕らえられてしまったルーニを仲間と共に見事に救い出した。今度は、ルーニと共に救い出したリアという獣人の少女を彼女の村へ送って行く。


〇セシリア・ベルベット 種別:ヒューム

クラインベルト王国、国王陛下直轄王室メイド。王宮に大勢いるメイドの中でも、トップに位置するエリートメイド。眼鏡をかけていて、長く美しい髪は知性だけでなく気品も感じる。戦闘能力は特にないが、国王陛下に対する忠誠の厚さは凄まじい。仲間と共に、ルーニや、その他多くの奴隷にする為連れ去られたクラインベルト王国の子供達を助ける。その功績を称えられた後、再び国王陛下直轄の王宮上位メイドとして職務に戻る……かと思われたが、テトラについて一緒にリアを村へ送り届けに城を出る。セシリアとテトラの間には、厚い友情が生まれたのかもしれない。


〇リア・オールヴィー 種別:獣人

猫の獣人で、カルミア村という村の出身。村は賊に襲われ家族も殺害される。その後リアはドルガンド帝国領のトゥターン砦という場所の牢でルーニと囚われていた。まだ幼いけれど、とてもしっかりしている子。どうやら、彼女には両親の他に姉がいるようだ。


〇ゲラルド・イーニッヒ 種別:ヒューム

クラインベルト王国、近衛兵隊長。剣の腕は王国最強と言われている。当初はテトラの事を嫌っていたが、彼女の成長しようとする努力が本気と解り、目をかけ始めた。自分の持つ宝物の一つ、涯角槍をテトラに譲る。


〇ルーニ・クラインベルト 種別:ヒューム

クラインベルト王国、第三王女。セシル王とエスメラルダ王妃の間にできた子供。アテナやモニカと父は同じで、エドモンテと母は同じという事になる。でも、アテナやモニカの事が大好きで、特にアテナに懐いている。賊と通じているシャノンに誘拐されたが、無事助け出され今はクラインベルト王宮にいる。牢に囚われている時に知り合ったリアとは、親友になった。


〇オーク 種別:魔物

人型の豚の魔物。凶暴で数匹で行動する事が多い。人間のように、武器や防具、盾を装備しているものが多く、槍や斧を好んで使う。もちろん身に着けている装備は、人間から奪ったものだが高価な装備を身に着けている個体もいて侮れない。決まりはないが、洞穴や洞窟を巣とするものが多い。


〇ウッドシールド 種別:防具

木の盾。形状は色々あるけれど、円状のものが一般的に見かける。材質が木でも、結構攻撃を防げるが、もちろん火には弱い。


〇セシリア特性サンドイッチ 種別:食べ物

テトラとの間では、定番になりつつある。味も絶品。具の卵焼きはもちろんバターで調理し、フワっとしている。

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