第14話 『マンティコア討伐依頼 その1』
ルリランの森に到着した。
途中、ゴブリンやオーク……それにトロルにも襲われる事態に遭遇したが、ローザとルシエルとバーンさんが対処してくれた……っていうか殲滅してくれた。
始めに遭遇したゴブリンを、ローザが独りで倒してしまったのを皮切りに3人の間で、何か張り合っているような感じになった。まあ、私的には皆さんが襲って来る魔物を進んで倒してくれるので、楽で嬉しい限りですけどね。
ローザは、華麗な剣撃で20匹以上はいたゴブリンの集団をあっと言う間に倒してしまい、ルシエルはオーク達を全て弓で射貫いて倒して見せた。出会い頭で素早く3匹倒し、それに逆上したオークが一斉にルシエル目がけて襲い掛かってきたが、攻撃を全て華麗にかわしてオーク達の眉間や首、心臓を見事に矢で射貫いてみせた。オークは、全部で11匹。倒しきるまで、あっという間だった。
最後に遭遇した魔物がトロル。驚異的な回復能力を持ち、その巨体に持ち前の怪力。そんなトロルが5匹も現れたので、流石に全員でかかろうとしたんだけど、
「俺がやる。皆、下がっていてくれ」
そう言い放って、バーンさんが単独で倒してしまった。
バーンさんは、何十キロもある大剣を軽々と振り回してみせる。それからトロル目がけて一直線。大剣のひと薙ぎで、トロルが横一文字に切り裂かれて上半身がドサリと地に落ちた。続けて襲い掛かってきたトロルも一刀両断された。その凄まじい強さに残りのトロル達は逃げ出した。
両断されたトロルは、驚異的な回復力と生命力でどうにかしようとじたばた動いていたが、バーンさんはその両断されたトロルに近づいて、こめかみ辺りに持っていたナイフを差し込んでとどめをさした。
――――すごい!
流石、ギルドマスター……恐らくっていうか、間違いなくランクS冒険者だろう。
因みに冒険者ランクというのはF~Aがあり、その上にS――――更に伝説的なポジションでSSっていうのがある。私が知る限りでは、SSが最も上級だったはず。
正直、こんな武闘派パーティーでマンティコア討伐なんて、マンティコアがかわいそすぎると思った。バーンさんは、それでも油断するなって言っていたけど。
「いた。マンティコアを発見」
大きな蠍の尻尾。獅子の身体に、人のような顔を持つ魔物。マンティコア。
森の中を進んで、そんなに時も経たないうちに目標と遭遇できた。マンティコアは食事中で、口の周りが血でべっとりとしている。グレイトディアーを捕食していた所に出くわしたようだ。
「バーンさんは、ここで待機でお願いします。私たちが、ちゃんとマンティコアを倒せる冒険者だって事を証明しますので、見ていて下さい」
「おう、わかった。さっきのゴブリンやオークとの戦いで、お嬢さん達が鬼強いのは解ったが、くれぐれも油断はするな。マンティコアって魔物は決して弱い魔物じゃないからな」
「解ってますって。ありがとう。でも、私的には堂々と正面からいった方が早いし、やりやすいんだけどなあ」
ルシエルもうんうんっと頷いている。
「オレもどちらかというと、そうだな。でも、油断しない作戦で行くなら最初にオレがいこうか? 不意打ちで、マンティコアを狙撃する」
「ちょちょちょ……ちょっと待って。作戦を立てるっていうのなら、このクラインベルト王国騎士団団長である私が適役だ。任せて欲しい」
「なるほど、確かに」
ルシエルとバーンさんとハモってしまった。
「じゃあ、どーぞ」
ルシエルがそう言うと、ローザは「任せておけい!」っと、目を輝かせ作戦を説明し始めた。普段は、こういうキャラで騎士団の任務についているのかな。
「まあ、でも相手は魔物なので作戦は、至ってシンプルな策でいきます。まずは、事前にマンティコアの背後の草陰へアテナとルシエルにこっそりと移動してもらい、伏せてもらいます。次に、私がマンティコアの前に現れて剣を構えます。そうするとマンティコアは、いきなり剣を持って現れた私を警戒し威圧するでしょう。つまり、私がマンティコアの注意を引く形となります。そうしましたら、私が合図をするので、全員で一斉に攻撃を仕掛けます」
「なるほど。如何にも騎士団らしい作戦ね」
「え? だ……だめでしょうか?」
あれ? 褒めたつもりだったのだが、ローザがオロオロしはじめた。
「違うの! そーじゃなくて、流石騎士団らしい見事な作戦って事よ。シンプルでいい作戦だわ」
「ほっ……それでしたら良かったです……じゃなくて、良かった! じゃあ、二人はすぐにマンティコアの背後に回ってスタンバイ。それが出来次第、作戦にかかる!」
ローザが指示すると、早速ルシエルと二人でコソコソと隠れてマンティコアの背後の草陰に回った。
スタンバイOK――――ローザが剣を構えてマンティコアの真正面に躍り出た。
「おい!! 魔物!! 神妙にしろ!! クラインベルト王国騎士団団長の、このローザ・ディフェインが成敗する!!」
グラアアオオオオオオ!!!!
その瞬間、マンティコアが激昂。そういえば、食事中だった。特に獰猛な魔物は、食事を邪魔されるのを極端に嫌う。
マンティコアの雄叫びで、骨やら肉片やらの食べカスがよだれと共にローザに大量にふりかかる。直撃。ローザも雄叫びを上げた。
「き……汚い!! そして、くっさーーーい!!」
「まずい! 作戦変更よ、ルシエル!」
「ああ! 解ってる!」
草陰から飛び出して剣を突き刺そうとした刹那、マンティコアはこちらの不意打ちに素早く反応。身体を勢いよく反転させる。よだれまみれになって側でよろよろしていたローザは、マンティコアにぶつかって草の茂みに吹っ飛ばされた。
「ローザ!!」
一瞬、ローザにもしもの事があったらと、青ざめた。だが、吹っ飛ばされたローザに目をやるとローザは草の茂みに逆さまに突き刺さって必死に藻掻いていた。足をバタバタさせている。
「……っぷ。大丈夫そうね」
安心した刹那、マンティコアは、ローザに気を取られていた私の目前に距離を詰めてきた。口を開く。
以前戦ったマンティコアが、随分前だったので忘れていたけど……そう言えば、マンティコアって口から高熱のブレスを吐くんだっけ。
――――――!!!!
って、ぎりぎり回避できるか⁉
マンティコアの口から、私目がけて勢いよく高熱のブレスが放たれる。
「避けろーー!!」
バーンさんの声。
それと、重なってルシエルとローザが私の名前を叫ぶ声も聞こえた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
〚下記備考欄〛
〇アテナ 種別:ヒューム
Dランク冒険者で、物語の主人公。キャンプが趣味で、今は薬草を使用したお茶作りもマイブーム。ギゼーフォの森で知り合ったルシエルと、エスカルテの街で知り合ったローザとパーティーを組む。金貨8枚と言う高額報酬を狙ってエスカルテの冒険者ギルドにてマンティコア討伐に挑む。
〇ルシエル・アルディノア 種別:ハイエルフ
Fランクの冒険者なりたてのホヤホヤで、クラスは【アーチャー】。精霊魔法も使える。外見は少女だが、実は114歳。長い髪の金髪美少女エルフだけど、黙っていればという条件付き。一人称は、「オレ」。野菜より肉が好き。とても立派な弓を所持しており、ナイフ捌きに関してもなかなかの腕を持つ。ギゼーフォの森でアテナと知り合い、それからはエスカルテの街で正式に仲間としてパーティーを組む。パーティー結成後、キャンプした時の狩りでヘルツ・グッソーという冒険者と狩り友になる。
〇ローザ・ディフェイン 種族:ヒューム
クラインベルト王国、王国騎士団の団長。現在はアテナが自家製の薬茶を売る為に立ち寄ったエスカルテの街の治安維持の任務についているが、アテナと出会った事により任務を副長のドリスコに放り投げてアテナについて行った。外見は赤い髪のショートヘアで凛々しい感じ。20匹程度のゴブリン相手なら、一人で倒せる程の剣術の持ち主。アテナとパーティーを組んでマンティコア討伐に乗り出したが、冒険者ではない。
〇バーン・グラッド 種別:ヒューム
エスカルテの街の冒険者ギルド、ギルドマスター。自分も同行するという条件でアテナ達がマンティコア討伐依頼という高額報酬の仕事を受注する事を許可した。大きな身体で筋肉モリモリの腕から繰り出される大剣の一撃は強力。ギルドマスターは、冒険者ギルドの中でも地位は高く今回みたいにいっかいの冒険者に同行して一緒に依頼をこなす事など普通にはない。トロルをも、簡単に倒す彼の強さをアテナは見て、Sランク冒険者ではないかと予測。
〇ゴブリン 種別:魔物
小鬼の魔物。最も冒険者と戦っている定番の魔物。背丈は人間の子供位の大きさだが、性格は残忍冷酷。獲物をいたぶる趣味もあり、極めて醜悪。だいたいは群れで行動しているが、ゴブリンキングなどがボスとして君臨し何百何千匹となる群れもある。そうなれば、村や街を襲う危険な魔物。冒険者ギルドでも、ゴブリンの討伐依頼は常に張り出されている。誰しもが認識している定番モンスターだけど、とても危険な魔物。
〇オーク 種別:魔物
人型の豚の魔物。凶暴で数匹で行動する事が多い。人間のように、武器や防具、盾を装備しているものが多く、槍や斧を好んで使う。もちろん身に着けている装備は、人間から奪ったものだが高価な装備を身に着けている個体もいて侮れない。決まりはないが、洞穴や洞窟を巣とするものが多い。リーダー格のオークには、トレードマークとしてモヒカンの個体もいる。
〇トロル 種別:魔物
オークよりも巨体の邪鬼の魔物。ゴブリンよりも鈍重だし頭も良くないが、並外れた怪力を持っている。大きな丸太のような棍棒などを武器として愛用。強力な再生能力を持っていて、例えば腕を吹き飛ばされたとしても再生する。しかし、ダメージは残るし痛みも感じる。群れだけでなく、単体でいる場合も多々ある。
〇マンティコア 種別:魔物
大きな獅子の身体を持ち、鬼のような頭を持つ。牙や爪もも大きくて、その一撃で冒険者の命を簡単に奪う。噛みつくと、肉を引き裂き骨をかみ砕く。獰猛な魔物で、森や遺跡などのダンジョンに生息している。口からは、鉄をも溶かす高熱のブレスを吐く。
〇ルリランの森 種別:ロケーション
クラインベルト王国にある森。恐ろしい危険な魔物、マンティコアがいるという。
〇クラインベルト王国 種別:ロケーション
アテナ一行が現在、冒険している国。草木が多く緑に恵まれている。
〇冒険者ランク
一般的には7段階のランクに分けられているが、一番上位にssランクと言われる特別なランクがある。
Fランク = 冒険者見習い 例:ルシエル
Eランク = 下級冒険者
Dランク = 一般冒険者 例:アテナ
Cランク = 中級冒険者
Bランク = 上級冒険者
Aランク = ベテラン冒険者
Sランク = 特急冒険者 例:多分バーン
ssランク= 伝説級冒険者




