第138話 『ロッキーズポイントにて その2』
モルトさんは、メニューを手に取るとデザートの載っているページを開いてルキアの目の前に置いた。
「え……え……?」
ルキアの目が泳ぐ。それを見て微笑んだモルトさんが、「遠慮しないで」と優しく言ってルキアの頭を優しく撫でた。ルキアは、頬を赤くして私の顔をチラリと見たので、「良かったね」と言った。
「ノクタームエルドは、国のほとんどが山岳地帯で占められています。なのでその内部を通る洞窟の大きさは、このヨルメニア大陸でも最大規模の広さなのです。国全域に広がる大小全ての洞窟を含めて通称、『大洞窟』とも呼ばれています。途中、休息できる箇所もいくつかありますが、基本的にはその場所も陽の光が差し込まない一面岩世界ですからね。こういうアイテムがあると、やはり便利ですし、実際困った時にものをいいますよ」
「確かに何日も洞窟内を旅するだろうし、松明じゃもたないよね。片手にずっと持って移動っていうのも、大変そうだし」
リンド・バーロックの本によると、松明やカンテラなどそういったものを使用して、燃料がなくなったら洞窟内に生息している魔物、ジャイアントバットの糞等をかき集めて燃料にして灯を作ったと記されていた。今でも、松明片手に燃料背負ってって旅人もいるにはいるだろう。
だけど――――
こう見えても、私も乙女だもん。追いつめられるまでは、例え貴重な燃料だとしても糞集めはしたくないなー。それにリンド・バーロックのように、運よくジャイアントバットの巣に遭遇できるとも限らないだろうしね。
「これが灯になるの?」
筒状のアイテム。丁度手に収まる程の大きさで、スイッチがついている。先端がガラスになっていて、中に小さな石がある。もしかして、この石が発行したりして?
「スイッチを押してみてください」
カチリッ
「わあ!! 凄い!! 灯りだわ。これがあれば、暗闇の中でも瞬時に辺りを照らし出すことができる」
「懐中灯という商品です。先端にはめ込んでいるガラスの中に、魔石が取り付けられています。その魔石が光を生み出しているんですよ」
「凄い! これはあると物凄く便利ね! ナイフ程度のサイズで持ち運びやすいし、燃えてもいないから、誤って火傷する心配もない。いいね! これいくらかしら?」
「アテナには、借りがありますからねー。それでも、魔石は高価な代物な上に、懐中灯はちょっと手の込んだ細工の施されたアイテムですからね。お値段を勉強させて頂いても、おひとつ大銀貨7枚でしょうか」
「ええーーー!! 大銀貨7枚かーー!! 高いなー! うーーん、どうしよう」
大銀貨7枚――――――カルビはまあ使用できないから必要ないけど、ルシエルとルキアの分も含めて購入するってなると、全部で21枚かーー。計算すると――――しめて、金貨2枚と大銀貨1枚って事ね。ううーー、なかなかのお値段だわ。
ウェイトレスがルキアの目の前に、パフェを運んできた。ルキアが、嬉しそうな顔でスプーンを握る。そんな光景に目をやって、しばし癒される。
「こ、こっちの商品はなに?」
「流石ですね。お目が高い。これは、時計です。腕に巻いて装着できる腕時計という代物です。陽や月を見る事ができない洞窟内では、しばしば時間が解らなくなってしまいますが、この腕時計があれば、現在の正確な時間が把握できるという代物です」
そんなアイテム。あれば、瞬時にして時間が把握できる。このノクタームエルドだけでなく、これがあればこれからの旅、全てに対して役に立ちそうだわ。
「凄い商品ね。もしかして、これも魔石で動いているの?」
「ええ。仰る通りです」
恐るべし、魔石の力。そう言えばガンロックフェスで、ミシェルやエレファとフェスに参加して歌やダンスをした時に、私達の後ろでメイドさんが演奏してくれていたギターなどの楽器。特別な楽器で、アンプという音を増幅させる装置に繋いでいたけど、あれも魔石を使用していた。
そう考えると、鉱石や宝石、魔石まで採れるこのノクタームエルドという国は、一見岩山だらけの何もないような国だけど、物凄い資源が溢れる豊かな国なのかもしれない。
「そして、その隣のアイテムがコンパスです。当然ご存じだとは思いますが、方角を指し示す為のアイテムです。ただ、磁場が強いところや何か不思議な力がある場所では、使用できない場合もありますので、お気をつけください」
私は腕時計とコンパスも手に取ってみた。ルキアは、すっかりパフェを食べるのに夢中。口の周りにクリームがついている。
「…………それで、これはいくらなの?」
「腕時計は金貨2枚、コンパスは大銀貨4枚です」
「ききき……金貨2枚!! 一つで金貨2枚!!」
高い!! 高いよー、モルトさん!! あれば凄く便利だけど、かなりの高額だよ。カッサスの街でレースして稼いだお金はあるけど、こんなお金の使い方してたらあっという間に無くなっちゃうし。うーーーん。悩む。
しかし!!
「懐中灯3つと腕時計1つ。それにコンパスをつけて……」
「金貨3枚でよろしいですよ。あと、ちょっとざっくりとした地図なのですが、今持ち合わせがこれしかなくて。地図と、ポーションも5つ。毒消し薬も3つ差し上げましょう」
「ええ!! ほんとに、いいの? そんなにサービスしてもらっちゃって!!」
「アテナとは、これからも良き友人としての関係を保っていきたいと思っていますからね。これからも、ご贔屓にして頂ければ結構ですよ」
「わーー! ありがとう、モルトさん!!」
――――商談成立。このお店でポーションや干し肉とかロープとかそういうのは、売っているけど魔石を使ったアイテム何て売っていない。これは間違いなくいいものだ。
モルトさんに代金を支払い、握手をした。ルキアもパフェを食べ終えたようだ。今度は生クリームに加えてチョコが口の周りについている。
商談を終えて、早速左手に腕時計を装着してみる。いい感じ。そろそろあの子達が戻ってくるかなと、買ったばかりの腕時計に目をやった瞬間、店の扉が開いてルシエルとチギー、カルビが戻って来た。
3人とも狩りに出かけて来たみたいだけど、身体中は土と砂だらけ。血もついていた。
「何かあったの? ルシエル?」
「魔物と遭遇して、戦ったんだよ。狩りもホワイトヌーを1匹仕留めたんだが、その魔物にやられちまった」
「それは災難だったね。とりあえず、今日はモーテルの方に泊まるから、そっちでお風呂に入っておいでよ。そしたら、ここで何か食べればいいしね」
「このお店はパスタとパフェが美味しいですよ」
「おいおい、ルキア。また口の横にクリームとチョコレートがついているぞ!」
「え? え? うそ?」
慌てて口の周りを拭うルキア。モルトさんが、ハンカチを取り出してルキアの口を拭いてくれた。ルキアはまた頬を赤くして照れた。
「うーーん、そうだな。とりあえず汚れを落としてくる。それから、オレもパスタを食べようかなっと」
ルシエル、チギー、カルビはそう言ってモーテルの方へ移動した。
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〚下記備考欄
〇懐中灯 種別:アイテム
洞窟やダンジョン、夜間の移動など灯りが必要な時に、簡単により便利に辺りを照らし出せるようにと商人達が開発したもの。筒状のアイテムで、スイッチがついておりそれをオンにすると筒の先端に装着されている魔石が光始め、辺りを照らす仕組みになっている。発行した魔石は、触っても火傷する程熱くはない。これは便利。
〇コンパス 種別:アイテム
何処にいても方角が解るアイテム。この世界にはコンパスが狂う場所もあって、そこでは使えないらしいが大抵の場所では使えるし、旅や冒険には必需品。
〇腕時計 種別:アイテム
時計をコンパクト化し、しかもオシャレにコーディネートし腕に装着できるようにしたもの。色々なデザインがあり、中には銀製やクロム鉱石で作られた物、宝石をしようした高価なものからミスリルやオリハルコンで作られたものなど様々。
〇お金 種別:通貨
クラインベルト王国には紙幣は無く、下記6種類の硬貨が使用されている。他国も貿易などをより円滑に進める為に、ほとんどが同じ物を使用して通過を統一しているが、中にはそうでないその国独自の通貨を使用している国も存在する。
銅貨
大銅貨 = 銅貨10枚分
銀貨 = 大銅貨10枚分
大銀貨 = 銀貨10枚分
金貨 = 大銀貨10枚分
大金貨 = 金貨10枚分




