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第134話 『2匹の猟犬』 (▼ルシエルpart)







 ロッキーズポイントにアテナ達をおいて、オレは店の外に出た。



 え? なぜかって? そうだなー、理由は2つある。


 一つは、アテナとモルトとの再会だ。折角再会できたのだから、色々と積もる話もあるだろう。つまり、気を利かせて出て来たという訳だ。オレは、ちゃんと空気が読めるエルフだからな。フフン。


 アテナにもちょっと、狩りに行って来るって言って出て来たから特に問題はないだろう。


 そして、二つ目の理由――――


 アテナがオークに襲われているモルトを助けて、ブラックバイソンの極上肉をもらうというくだり。そんな話しを聞いたら、お腹が減ってきて仕方がないだろう。誰でもそうなるぞ。


 そんな訳で、ちょっと狩りをしてこようと思った。アテナの話では、ノクタームエルドに入るのは、明日。今日は、ロッキーズポイントに1泊するらしい。しかもキャンプでは無く、モーテルの方へだ。どうせ、ダンジョンに足を踏み入れれば暫くは、宿などとは無縁になるからな。モーテルで泊まるのも、吝かではないのだ。だけど、贅沢な事かもしれないが、これで自由な時間が随分とできてしまった。


 アテナは、休息は大事だよーっとは言っていたけど、新しい世界を前にして興奮が冷めやまない。しかも、ブラックバイソンの焼肉の話で、オレに火が点いた。まあ、大物を仕留める事ができれば、チギーと別れる時に餞別にもなるしな。急遽できた時間を、狩りに使うというのは、なかなかいい考えだろう。



 ワウウッ



 馴染みのある獣の声がした。後ろを振り向くと、カルビがついて来ていた。



「カルビ、ついてきたのか! まったくもー、なんて可愛い毛むくじゃらなんだ! じゃあ、久々にオレと一緒に狩りに出かけるか?」



 ワオンッ!



 カルビは元気よく返事した。



「さてと、それじゃ狩りに行こうか」



 ノクタームエルドの連なる山々とロッキーズポイントを背に、荒野のある方へ歩き出した。少し歩くと、早速獲物が目に入った。だがまだ、ここからじゃ獲物を狙えない。



「カルビ、こっちへ来い」



 ワウウ!



「うわああっ!!」



 カルビを呼んで何気なく目をやると、声をあげる程に驚いてしまった。


 ――――なんと、目の前にカルビが二匹いる。これは、いったいどういう事だ?

 

 ま、まさか、カルビが増殖……もしくは分裂した?



「カ、カルビ?」



 ガル?



 いや、よく見れば全然違う。咄嗟の事で動転していたようだ。カルビの隣にもう1匹いたのは、ウルフではなくヘルハウンドだった。灰色の体毛に、血走った赤い眼。性格は獰猛で人を襲う犬型の魔物。



 ガルウウウウウ!!



 カルビが、ヘルハウンドに対して唸り声をあげて威嚇した。それに対して、ヘルハウンドは全く動じていない。いや、動じていないというか全く反応がない。もしかして、作り物?



「カルビ、こっちへ来い」



 カルビを呼んだ。そして試しに、そこから遠ざかろうとしてみると、ヘルハウンドは動きだし付いてきた。


 一体全体こいつは、何処からきたんだ? 周囲を見回してみたが、他にヘルハウンドの姿はない。本来ヘルハウンドという魔物は、群れで行動して獲物を襲う。オレのいたエルフの里でもヘルハウンドの群れが現れた事があったので多少は知っている。


 しかし、こいつは1匹だ。ヘルハウンド特有の凶暴なイメージも一斉感じない。こんなヘルハウンドいるのか? でもカルビのように人懐っこいウルフもいるし、一丸に否定もできない。



 ………………



 こいつ…………本当にヘルハウンドなのか?



 試しにカルビとヘルハウンドに「待て!」と伝えた。そこから少し離れてみる。――すると2匹とも、ちゃんと待っている。



「よし! こっちへ来い!」



 合図すると、2匹ともこっちへ駆けて来た。うーーん、これは…………



「よっ! 何かあった?」



 いきなり声を掛けられて、ビクッとしてしまった。そこにはチギーがいた。



「ルシエル? こんなとこで何しているんだ?」


「びっくりした。チギーか。明日までここにいるみたいだから、それまでまだ時間もあるし、ちょっと狩りでもしてこようと思ってな。腹も丁度いい具合に減っているし」



 チギーは、それを聞いてシシシと笑った。



「さっきルシエルがアテナとルキアを置いて酒場から出ていくのが見えたから、なんだろうって後をつけてきてみたけど、正解だったなー。狩りか! いいねー。アチキも一緒していいかな?」


「おう、いいぞ! もし肉が獲れたら、食べて残った分は全部チギーにあげるからさ。馬車に乗せて、王都まで持って行って売ればいいよー。もちろん全部食べてもいいけど、オレは大物を狙うつもりだからな。きっと食べきれない程、肉が余るぞ」


「ホントにー? やったー! でもそれって、ちゃんと獲物を見つけて狩る事が出来ればだよね」

 


 オレは、ニヤリと笑って荒野の方を指した。獲物がいる。角があって、シルエットは牛に似ている。牛よりは、スマートな感じ。鬣があり、体毛も身体も白い。チギーは、それを見て「おおー」っと声を上げた。



「ホワイトヌーか。なるほどね。確かにいい獲物だね」



 ホワイトヌーという生き物らしい。チギーが知っている所を見ると、この辺りというかガンロック王国とか荒野に主に生息している動物なのかもしれない。それにしても、美味そうだ。



「じゃあさ! あのホワイトヌーをさ、アチキとルシエルのどちらが先に仕留める事ができるか、勝負しない? カッサスの街でのクルックピーレースじゃ、負けたからさ。こんな形でも、ちょっと借りを返したいんだよね。狩りだけに借りを…………ぷぷぷ」

 


 ――――一瞬の静寂。カルビが首を傾げる。



「…………面白い。その提案もジョークも面白い! チギー、なかなかのセンスをしているな!」


「そ、そう?」


「いいだろう。勝負しようぜ!」



 お互いにニヤリと笑った。



「よし、じゃあどちらが先に仕留められるか勝負スタートだ。狩りをするなら、相棒がいるだろ? なんだかよく解らないけど、丁度今、おあつらえ向きに猟犬になりそうなのがいるしな。チギーにはカルビを付けてやる。オレは、このヘルハウンドと一緒に行くぜ!」


「えーー、そりゃ面白い考えだなー。じゃあ、アテキはカルビとコンビだね! カルビ! よろしくね!」



 ワオンッ!



 カルビは元気よく返事して、チギーについて行った。



「オレ達も、仲良くやろうぜ。なあ?」



 ヘルハウンドに言うと、カルビのように返事は返ってこなかった。でも、ちゃんと後をつけてくる。相変わらず、赤い眼が血走っていてちょっと不気味だとは思うが、ちゃんという事はきくし仲良くできそうだとは思った。



「さあ、狙いを定めて見事に獲物を仕留めて見せるぞ!」



 荒野にいる1匹のホワイトヌーに狙いを定めて、オレとチギーとで両側から忍び寄って行く。









――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇ブラックバイソン 種別:魔物

黒い牛の魔物。主な生息地は、草原地帯や荒野。黒い身体に少し、黒い毛が生えている。頭に大きな角があり、追いつけられると突進して襲い来る。追い詰められなくても、興奮している時には人を襲う。だけど、その肉は物凄く美味しくて商人達や商人ギルドでも高値で取引されている。一番親しまれている食べ方は、焼き肉やステーキ。焼肉にしても、最高。


〇ヘルハウンド 種別:魔物

犬型の魔物。灰色の体毛に血走った赤い目が特徴。獰猛で、ひとたび人間を群れで襲えば襲われた物は、細切れになるまで喰い散らかされる。空腹でなくても、人や獣など襲う事も多々ある。


〇ホワイトヌー 種別:魔物

牛の魔物で、皮膚も体毛も白い。相手を挟み込むような立派な角を持っているので、追い詰められて反撃してくると危険。お肉も美味しくて焼いても鍋にしても良い。もちろん、クリームシチューに入れてもベリーグー。

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