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第131話 『調査と物色』





 荒野でひっくり返っていた馬車を調べた。馬車は大きく転倒した様子で大破していた。周囲には馬車を引っ張っていたと思われるクルックピー2羽の死骸があった。


 ルシエルがひっくり帰った馬車の中を覗く。私も続いた。



「散乱しているが、積み荷はそのままだな」


「うん。これはちょっとただ事じゃないわね。馬車があるという事は、それを走らせていた御者がいたはずだけど」



 盗賊に襲撃された可能性も、ちょっと考えにくいかも。盗賊の仕業であれば、当然積み荷を奪っていくだろうし、商品価値のあるクルックピーだって殺してしまうはずがない。殺すのであれば、馬車に乗っていた者だけ。だけど、そういった者の姿がないし、形跡も見当たらない。


 色々調べていると、横からチギーが割り込んできて散乱している物の中から、酒瓶を手に取った。そして、蓋を開けて飲んだ。



「うまーーい!! けっこーキツイ酒だけど、いけるねこれー!」



 お宝を見つけたご満悦のチギー・フライドに私はジト目で言った。



「それ泥棒だよー。勝手にそんなのだめだよー」


「これだけだから、これだけ。それに、もうこの商品はここで放置されてしまってるし、どうにもならないんじゃん? そのままにしてっても、間違えなく砂に埋もれていくだけだって」


「って言うか、気持ちの問題なの!」


「はーーい。ったく、アテナは固いなーー! ……んっんっ……」



 言いながらも、チギーは更に酒を飲んだ。まったくもー。



「アテナ! ちょっと、これを見てくれ」

 


 ルシエルが何かを見つけた。見ると、そこには米やら小麦粉やら、それに馬鈴薯が入った袋があった。



「うおおーー。これは、宝の山だぞ!! アテナ! さっさと、全部オレ達の馬車に運び込もうぜー!!」


「賊かっ! このエルフはー!!」

  


 私は大量の食糧を見て目を輝かせるルシエルに、ペシリと突っ込んだ。



「ちょっとルシエル、さっきのチギーとのやり取り聞こえていたでしょ? 勝手になんて、ダメだよーー。そんなのー」


「わかってるって、わかってるって」



 どーーも、信用できないな。この食いしん坊エルフは――――食欲に関しては、恐ろしく貪欲だからね。でも、駄目だよ。食糧や水が尽きて、ガンロック王国に最初に入った時の事のように、死にかける位のピンチなら、まあしょうがないけど。今は別に、そこまで追い詰められたりしていないからね。やっぱり勝手に人の物を持っていくのは、駄目。



「おほーー、こりゃなかなかイケるじゃん」



 チギーの声に再び振り向くと、チギーは干し肉を咥えている。目線の先を見ると、そこには干し肉が入っている木箱があった。干し肉がはみ出している。



「こらーーー!! ダメって言っているでしょうが!!」


「キャハハハ!! ごめん! ごめんってばーー!!」



 まったくもーー。ルシエルもチギーも! 私もよく食いしん坊と言われるけれど、この二人の貪欲さときたら。こんな事なら、この二人を馬車に残して、ルキアとカルビを連れてくれば良かったかな。



「おい。アテナ。これちょっと見てくれよ」


「まーたなんか、食べ物とかそういうのでしょー!!」



 そう言って、ルシエルの方を見ると馬車の側面に大きな穴が空いていた。不自然な穴。まるで、大きな角で真横から勢いよく突き刺されたような穴。


 更に近寄って触れて調べる。



「どうだ? アテナ」


「これは恐らく、何かしらの魔物の攻撃だわ、きっと。この馬車は、積み荷を見ても商人のものだと思うけど、強奪された形跡がない。この馬車は、商品を運んでいる途中で、何か魔物に襲われたんだと思う」


「賊じゃなく、魔物かー。だとしたら、こんな穴をあけるやつなんだから……」


「うん。結構、大きなサイズのやつね。この馬車に乗っていただろう人が、いないのも気になるし」


「逃げ出して、無事に生き延びたがそうでないか」


「そうね。それに、この馬車を襲った魔物が、まだこの近くをうろついている可能性も考えられるから、一応警戒した方がいいわ」



 チギーは、私とルシエルとの会話を聞くと、馬車の外に飛び出した。少し心配になってきたのか、馬車の周辺を遠くまでキョロキョロと見回している。


 私達も一旦、馬車の外に出ようとした時、チギーが叫んだ。



「アテナ! ルシエル! 出てきてくれー!! あそこ、あそこに人がいるぞ!!」



 馬車から出て、チギーの言う方を見る。広がる荒野の、先の方。人が乗れるくらいの大きな岩がいくつもある場所に、人がいた。岩の上に乗ってウロウロと歩き回っている。手には、何か武器を持っていた。斧だ。


 チギーが、その岩の上にいる人へ向かって、手を振りながら叫んで呼びかけた。



「おおーーい!! 無事かーーー!!」


 

 少し距離があるからか、気づかない。それに岩の上にいる男は岩の下ばかりをキョロキョロと見ながら斧を片手に持ったり、両手に持ち替えたりしてウロウロとしている。


 チギーが男に向かって走りだした。



「おおーーーい!! 助けにきたぞーー!! おおーーーい!!」

 

「ルシエル、私達も行ってみよう」


「おう!」



 私は自分の乗っていた馬車の方を振り向てルキアに手で、そのまま待機していてと合図をした。ルキアも応答したので、チギーのあとを追って岩の上にいる男の方へ進んだ。


 徐々に近づいていくと、男はまずチギーに気づいた。



「大丈夫か、あんた? 何かあったのか?」



 すると、男は慌てた様子で叫んだ。



「来るなーー!!!! こっちへ来るなーー!!!! こっちへ来るんじゃなーーい!!!!」


「あん? 何言ってんだ? 今そっち行くからよ、そしたら詳しく説明してくれよ」



 唐突に、何となく嫌な予感がした。



「チギー!! 一旦戻って!! 何か嫌な予感がする!!」


「えーー、なんでーー?」


「いいから!! 早く、こっちへ戻って!!」



 チギーが不服そうな顔で頭をポリポリとかいて、こちらを振り向いた刹那、チギーの目前の地面から角のような大きな針のついた尻尾が、飛び出してきた。チギーは咄嗟に転がって、それを回避する。


 そして見上げると、尻尾が飛び出してきた地面から、その本体が姿を現して這い出してきた。それは、大きな蠍の魔物だった。


 ルキアに、以前プレゼントした色々な魔物が記されている本にもちゃんと載っている魔物。

 

 馬車を襲ったのは、この大きな蠍の怪物――――ジャイアントスコルピオンだった。







――――――――――――――――――――――――――――――――

〚下記備考欄


〇キツイ酒 種別:飲み物

キツイ酒は、消毒にも使えるしアルコール度数が高いので、火のつくものもある。そうすれば、灯りの代わりや火炎瓶だって作れる。ちょっとの量で酔っぱらえるし、料理にも使用できるキツイ酒の用途は素晴らしい。


〇馬鈴薯 種別:食べ物

ジャガイモ。ジャガバタにしても、ポテトサラダにしても最高。何処かの街では、馬鈴薯を薄くスライスして油で揚げて塩などで味付けする食べ物が流行っているらしい。美味しいよね、ジャガチップ。

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