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第1299話 『ロレント・ロッソ その3』



 私達の入店したバーは、まず出入口近くにカウンター席があり、更に奥の方へ行くと個室があるようだった。



「バーと言うのはね、とまり木という意味なのよ。鳥がそこにとまって、羽を休める場所。因みに鳥というのは、ここではお客の事を指すのかしらね」



 セシリアは、私にそう言ってバーの意味を教えれくれた。


 でも私はそれを聞いて、なぜかバーカウンターにアローがいて、1人お酒を楽しんでいる姿を思い浮かべてしまった。


 アローは、ボタンインコで小さいから、椅子には座れない。それならきっとバーカウンターに乗って、お酒を楽しんでいる。しかもアローは、ああいう感じの性格だから、鳥だというのにお酒を好んで飲みそうな気もする。勝手な妄想だけど、少し面白いと思った。 


 カウンター席の更に奥に行くと、曲がり角。通路を進むと両サイドに個室が4部屋もあった。先程、お店に入った所で応対していくれた蝶ネクタイの店員が、後ろから追ってきて知らせてくれた。



「一番奥の右側の個室。ロッソ様はそちらにいらっしゃいます。もしよろしければ、私が先に声をかけさせれ頂きますが?」


「いいわよん、大丈夫よ。アチシとあの人の仲だもん。ありがと」



 アバちゃんがそう言うと、店員は頭を下げてカウンターの方へと下がった。



「やっぱりのぱりね! ロレンピはこのお店にいるようね。でもちょい待ちね。先にアチシが話しかけるから」


「お、お願いします。ロッソさん、かなり怒っていたみたいでしたし……」


「そうねー、でもここに来ているんなら大丈夫よん。なんせバーって場所は、人を癒す空間なんだから。いつまでもしつこくピリピリしているなんて、ナンセンスだわ」



 アバちゃんはそう言ってロレント・ロッソがいるという奥、右側の個室の前に行った。そしてドアを軽く2回ノックすると、声をかけた。



「誰だ!!」


「アチシよ、アチシ! ロレンピでしょ?」


「ああ、なんだアバちゃんか」



 ロレント・ロッソは、アバン・ベルティエの事を私達と同じくアバちゃんと言った。プライベートでも2人は、本当に仲がいいようだった。



「飲んでいるんでしょ? ちょっとあなたとお話がしたいんだけど、いーかしら?」


「話? もしかして、アバちゃん以外にそこに誰かいるな? 誰か連れてきているな?」



 扉越しに話を続けている。聞こえるのは、ロレント・ロッソの声。セシリアがドアに手をかけようとしたけれど、それをアバちゃんと私が止めた。ここは、アバちゃんに任せた方がいいと思ったからだった。市役所の会議室から出て行くロレント・ロッソは、あの部屋で順番を待ちに待たされてかなり怒っていたようだった。



「え? やだ。アチシったら、誰か連れてきていたかしら? でもここを開けて見てみれば、はっきりするわね。さあ、誰がアチシと一緒にここへ来ているのかしらね。ドキドキしちゃう。じゃあ、答え合わせね。開けるわよ」


「駄目だ、開けるんじゃない!!」


「もう! どーしてよ! アチシとあなたの関係でしょ!! 仲がいいと思っているのは、もしかしてアチシだけ? 一方通行なの? これってアチシの一方通行なの?」


「そうじゃない。私が今、会いたくない者達がそこにいるから、扉を開けるなと言っているんだ」


「そんな、おベイビーみたいな事を言っていちゃダンメよ。あなたもこの交易都市を統べる十三商人の1人でしょ」


「その通りだ。私は十三商人が1人、嗜好品専門家のロレント・ロッソだ。この都市、いやメルクトでも私に匹敵する嗜好品を扱っている商人は、他にいないと自負しよう。そしてこのリベラルでは市長よりも偉い立場にいるとな」


「そうよ。因みにアチシもそうだから。じゃあ、扉開けるわね」


「駄目だって言っているだろ!! アバちゃん、私を怒らせるな!!」


「もう!! ぷりぷりーーー!! どうしてなのよ!!」


「だから言っているだろ!! 余計な奴らをここへ連れてきたからだ!!」


「扉を開けてみないと、本当にそうなのか解らないでしょ!! じゃあ、開けて確かめてみてよ!! これは、答え合わせなのよ! いいわよね、開けるわよ!! まあ、ドキドキしちゃう!!」


「だから開けるなって言っているだろ!! やめたまえ!!」


 ギュギュギュギュギューーー!!



 アバちゃんは扉に手をかけた。そして強引に開けようとするも、内側から誰かが抑えていてそれをさせない。私やローザなら、力づくで扉を開ける事はできると思う。だけどここは、やはりアバちゃんに任せるしかないと思った。



「やめんか!! アバちゃん!! はあはあ! やめろー!! ぜえぜえ!!」


「そっちこそよーーう!! 抵抗するのは、やめなさーい!! ぜえ、ぜえ!!」


「ど、どーして君程の男がそんな者達に肩入れをする!!」


「だから言っているじゃない! デプス市長も言っていたけど、このアチシ達の都市から『闇夜の群狼』なんて名乗ってるどうしようもないお馬鹿さん達を追い出す為よう!!」


「そうなのか! しかし生憎、私には関係がない!!」


「本当にそれでいいの!! 奴らを野放しにしたら、このアチシ達のリベラルという楽園は、滅びちゃうわよ!! 盗賊達のたまり場になっちゃうのよ!! それでもいいの? きっと不潔な連中よ! ニカリって笑えば、歯の隙間に肉の食べカスが挟まっているような連中なんだから!!」


 ガチャッ!!



 扉が開いた。


 個室から顔を出したのは、ロレント・ロッソ本人だった。バーの店員に彼は部屋の中にいると聞いていたのに、なぜその事に注目したのかというと、部屋には他の人の気配も感じていたからだった。でも扉は少し開いただけな上に、そこにはロレント・ロッソが立っているので中の様子は解らない。



「良くはない。だがあんな犯罪組織なぞ、私達が一丸となれば、簡単に跳ね除けられるのではないか? 私達には、圧倒的な金がある。そして金があれば、力もある」


「それならいいんだけど、その私達だって問題なんでしょ。リッカー、デューティー、イーサンは『狼』と関わっていたわ。でもイーサンは、こちらの味方になってくれたし、デューティーは奴らにいいように使われている事に対して、凄く不満なようだったわ」


「そうか、勝手にすればいい。私には関係の無い事だからな」


「んもう!! それに十三商人には、ババン・バレンバンやボム・キングなんてとびっきり怪しい人もいるでしょ。それで本当に、あなたが言う一丸になんてなれると思ってるの? 首都グーリエは、既に賊達によって陥落しているのよ。今にこの都市にも、沢山の賊が押し掛けてくるわよ。あなた、それでいい訳? ロレンピ!!」


「…………」



 ロレント・ロッソはアバちゃんにそう言われると、無言で少し俯いた。それから私達の顔をゆっくりと順番に見ると、扉を開けたまま部屋の奥へと戻った。



「さあ、ロレンピのお許しがでたわよ。気が変わらないうちに、さっさと入っちゃいましょ。ウフフー、突撃ー」



 私達はアバちゃんの後に続いて、ロレント・ロッソがいるバーの個室へとお邪魔した。

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