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第1291話 『賊乱入』



 会議室には、明らかに賊に見える男達がいて、メイベルやディストルを相手に大暴れしていた。部屋の隅には、その戦いに巻き込まれないようにアバン・ベルティエとロレント・ロッソがいて、その目前にファーレとチギーがいて2人を守っている。


 あれ? 何人か人が足りない。そう思った刹那、向こうのテーブルの陰に丸い身体の人が倒れているのが見えた。あれは、ダニエルさん!!



「テトラとローザでやんすか!! いい所に来てくれやしたね!! 手を貸して欲しいでござんす!!」



 メイベルは、目の前にいる賊3人を同時に相手しながらも私に言った。部屋の中にいる賊は、全部で12人。そのうちの3人をメイベルが相手にしていて、残りとディストルが戦っている感じだった。


 メイベルはAランク冒険者で、それに伴った俊敏で隙の無い動き。更にディストルは、Eランク冒険者だけど、そうとは思えない程に戦闘能力が高い。2人だけで会議室に侵入してきた武装集団と互角以上に渡り合っていた。でもメイベルは、私に手を貸して欲しいと言ってきた。


 今度は忘れずにちゃんと持ってきた、背負っている涯角槍を手で掴む。ローザも剣を抜いた。



「違うでやすよ! こんな奴ら、あっしらだけで十分おつりが来るでやんすよ! それよりも、追って欲しいんでやすよ!!」


「え? 追うって誰を!?」



 騒ぎを聞きつけて、シェルミーやセシリア、ミルトにイーサン、デプス市長までもが会議室に入って来た。シェルミーこの予期せぬ事態に驚いて、妹に向かって叫んだ。



「ファーレ!! 大丈夫!!」


「シェルミー! はい、大丈夫です。チギーが守ってくれていますし、間もなく下の階からロドリゲスや、他の護衛の者達もやってきます。そしたらこんな賊など、簡単に撃退できます。それよりも今は、リッカーとデューティー・ヘレントです!!」



 え? 部屋の中を見回すと、確かにファーレが今、口に出した2人の姿はない。リッカーもデューティー・ヘレントも、デプス市長の招集には応じていて、先程までここにいたはず。逃げた!?



「私もそう思っていましたが、セシリアとチギーもデューティーと実際に会って話をして、その時のやり取りを聞いてもこちらの味方だと思っていました。でも彼女が、ここから逃げたのは事実です!」



 ファーレは、先程まで会議室にいたから、イーサンの話をまだ知らない。デューティーもイーサンのように『狼』に利用されていた。でも本当の所は、やはりリベラルを守りたいと思っているのかもしれない。


 でもこの場から、リッカーと共に逃げた。それが意味する事は何か? 彼女には、やっぱり何かあるという事――もしくは、身の危険を感じたから!?


 賊がメイベルに襲い掛かる。でもメイベルは、素早い動きでその攻撃をかわして反撃に転じると叫んだ。



「兎に角、今は追うでやんすよ!! この今部屋にいる賊は、いきなり外から窓硝子を割って中に侵入してきたんでやんす。するとリッカーは、その賊が割って入ってきたあの窓を通って外へ逃げたでやんすよ!!」



 窓に目をやると、確かに割れている。窓硝子が割れて、その破片が粉々になって散乱していた。


 私は、セシリアとローザの顔を見た。するとセシリアが、今も賊と戦闘を続けているメイベルに向かって問いかけた。メイベルは、賊と剣を交えながらも返事をする。



「リッカーが窓から逃げ出したという事は把握したけれど、デューティーの方は何処に行ったのかしら?」


「デューティー・ヘレントは、この騒ぎに乗じて、会議室の外へ飛び出して行ったでやんすよ」


「なるほど、別々に逃げたのね。理解したわ。それじゃ私がデューティーを追うから、あなたとローザはリッカーを追ってくれるかしら」


「わ、解りました!!」



 テーブルの陰で倒れているダニエルさんをもう一度見る。するとミルトとイーサンが彼に駆け寄って、彼をファーレやチギーのいる方へと引きずっていってくれた。ミルトが手を大きく振る。



「テトラちゃん、行ってくれ!! リッカーが逃げてしまう!! ここは、僕らに任せて!!」


「ぼぼぼ、僕も戦う!! だ、だから、早く!!」


「ありがとうございます、ミルト、イーサン!!」



 メイベルとディストルにも目線を送った。すると2人とも、ここは任せて欲しいと頷いてくれた。私はローザと共に、リッカーが逃げた窓に近づく。外に顔を出して、周囲を見た。



「あれ、誰もいない……」



 私の隣からローザも顔を出す。そして頭上を見上げる。



「上だ、テトラ。奴はこの市役所を上の方へ逃げているぞ」


「え?」



 ローザと同じように見上げると、そこにはリッカーの姿があった。屋上からロープが垂れていて、それに捕まって建物の外壁を上へ上へとよじ登っている。しかもそのリッカーが捕まっているロープが、ここには届いていない。きっと屋上にも仲間がいて、昇っているリッカーを引き上げているのだと思った。



「ローザ……」


「リッカーは、目と鼻の先にいる。なら、追うしかないんじゃないか?」



 彼女はそう言って窓の外へ出た。私も慌てて、ローザに続いて外に出る。するともう夜になっていた。辺りには、交易都市リベラルの綺麗な夜景が広がっている。でもここは、8階。強く吹く風が私を現実世界へと引き戻した。もし落ちれば、転落死する。恐怖。確実に助からない。



「怖いのか?」


「うう……正直、怖いです。でも頑張ります」


「そうか。それじゃ追うぞ」



 メイベルに言われるがまま、窓の外に出てしまったけれど、一度部屋に戻ってから屋上への階段を探せばいいかもしれないと閃いた。でもリッカーから、一瞬でも目を離してしまうと、それでもう見失ってしまう気がした。


 外壁。上に向けてよじ登れる箇所を探す。するとローザは、下から上までずっと伸びている配管に目をつけて、それに手をかけた。私も後に続く。


 そして上をまた見上げて、あれれと思う。私達のいた8階は最上階だったはず。だけど屋上までの距離が意外とある。一軒家で言う所の屋根裏的な場所か、もしくはこのビルの何か設備がある空間があるのかもしれない。


 でも今は、そんな事は関係がない。今一番重要なのは、リッカーを追って行って、彼を拘束する事。そしてラビッドリームを使って、彼が『狼』かどうかを調べなくてはならない。


 それでリッカーの正体がハッキリする。

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