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第1290話 『疑わしき者達 その2』



 イーサンの極めて重要な告白で、次はリッカーを調べるべきだと、はっきりした。そしてその次は、デューティー・ヘレント。


 セシリアは、デューティー・ヘレントの農園に行って、彼女と直接会って話をした。その時に彼女も、リベラルに潜んでいる『狼』をどうにかしたいと言っていたのだ。もしもリベラルが、『狼』に乗っ取られてしまうような事があれば、きっとこの交易都市は盗賊達の根城になってしまう。それは、彼女のこれまでの都市への貢献や、活躍から考えても決して望まないだろうという事は明白である。だからこそ、彼女がセシリア達に言った事は、本心だと思った。


 でももし、『狼』を倒したいと言っている彼女が『狼』と裏で繋がっていたとしたら……


 ううん、そうだとしても、それならそれでセシリアやファーレを拘束した時に、尋問はしたみたいだけど、その後になぜすんなりと解放してくれたのか解らなくなる。彼女は私達の『狼』を倒したいという目的を知った上で、そうしてくれたみたいだし……


 どちらにしても、今はまだ真相が解らない。ラビッドリームで、リッカーとデューティー・ヘレントの心と記憶の中へ入れば、その理由なんかも見えてくるのかもしれない。


 イーサンは、私の目を真っすぐに見つめて言った。



「ぼぼ、僕はこのリベラルを守りたい。だからテトラ達にも全面協力する。『闇夜の群狼』は、怖くてこれまで言いなりになっていたけど……それも終わりだ。も、もも、もう僕は、テトラと一緒に戦うって決めたんだ」


「よく言ったイーサン。テトラちゃんに想いを寄せるライバルとして複雑だが、その気持ちは僕とて同じだ。それにこちら側には、コマネフ氏もいる。この調子で、十三商人を味方につけていけば、『狼』を炙り出せるはずだ」


「アバちゃんもこっち側だしねー」



 シェルミーはにっこりそう言って、満面の笑みを見せた。


 そう、こちら側にはミルト・クオーン、イーサン・ローグ、ダニエル・コマネフ、アバン・ベルティエがいる。その4人は、『狼』を倒す為に、私達を全力でバックアップしてくれる心強い味方。


 シェルミーが、私とローザの方を向いて言った。



「それじゃ、次はリッカーを調べようか。彼が『狼』である可能性は、今一番高い訳だしね。もし理由があってそうでなかったとしても、イーサンに強力な麻薬の精製を強要していたり、デューティー・ヘレントと麻薬の栽培に関しても、なんらかの繋がりがあったというなら、何かしら重要な手掛かりを得られると思う。でもリッカーは、私達に迫られたらきっと抵抗すると思うな」



 そう、だからこそ、敢えてシェルミーは、私とローザに対して言ったのだ。私には、モニカ様に教えて頂いた武術が多少なりと備わっているし、ローザは言うまでもなく剣の達人だから。私とローザなら、リッカーが抵抗しても対処できる。



「解りました。それじゃ、私とローザが会議室に行って、ここへリッカーを連れてきます」


「うん、そうしてもらえると嬉しいな。でもラビッドリームは、魔力とか使っているんでしょ? それにまだ完全に慣れてもいないのに……テトラにばっかり頼っちゃって申し訳ないね。ごめんね」


「いえ、シェルミーのその言葉だけで十分元気が出ました。それにまだ余力もありますし、ラビッドリームの操作に至っては、アローがしてくれていますから」


「アロー……そう言えばそうだった。でもここには、いないよね」


「はい。でも恐らく近くにいるんじゃないかって思っています。この市役所の何処かに。彼は今、リッカーの用心棒として調査にあたってくれていますし、心と記憶の世界に入ると決まって必ず助けに駆け付けてくれますから。だから、彼なりに考えがあって、行動してくれているんだと思います」


「そう、じゃあ心強いね」



 シェルミーは、そう言ってにっこりと無邪気に笑った。その可愛らしい笑顔にドキッとしてしまい、彼女がガンロック王国の王女様だという事も思い出す。


 私は彼女にシェルミーとして会っているし、彼女自身がミシェルではなく豪商の娘シェルミーとして接して欲しいと言っているので、そうしているけれど……私にとっては、やっぱりシェルミーはシェルミーだって思えた。


 フフフ、自分で言っていて意味が解らないけれど、そういう言い方しか思いつかなかった。シェルミーが倉庫部屋の扉を開けると、私とローザはそこから廊下へと出た。



「それじゃ、リッカーをよろしくね」


「はい。彼を会議室から、この部屋に連れてくるだけですから」



 ローザがフフと笑った。



「そうだな。後は、嫌がって暴れて抵抗をしたとしても、面倒なら気を失わせてしまえばいい訳だしな」



 ローザのそのちょっと冗談とも強引とも思える言葉に、シェルミーやセシリアは笑った。でもデプス市長は、苦笑い。


 私とローザは廊下に出ると、ここへリッカーを連れてくる為に、再び会議室の方へと向かった。


 なんだか変な気分。十三商人の中には、このメルクト共和国を悪者達の楽園にしようとしている、『闇夜の群狼』と呼ばれる巨大犯罪組織の幹部が潜んでいる。私達はその幹部の事を『狼』って呼んでいるけれど、もしリッカーがそうだとしたら、私達は最初に当たりを引いてしまっている事になる。


 交易都市リベラルに初めて入って、一番最初に当たったのが情報屋リッカーだったから。

 


 ドン!! ドタドタドタドタ!!


「な、なんの音でしょう!?」


「解らん! 急いで行ってみよう!」


「はい!」



 会議室に行くと、部屋の方で何か大きな物音がした。何かが起きている。それに気づいた私とローザは、互いに顔を見合わせると、タイミングを合わせて同時に会議室に突入した。


 バダン!!


 扉に鍵はかかっていなかった。勢いよく開けて会議室に入る。すると会議室内には、明らかに賊と思われる数人の男達が入り込んでいて、武器を手にメイベルやディストルと激しく打ち合っていた。

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