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第129話 『ヘリオス・フリート その5』







 ――――クラインベルト王国。王宮。


 ティアナとアテナが無事に王都まで戻れた事を確認したら、すぐにまた旅立つつもりだった。だが、事情が変わった。


 ティアナとアテナを救出し、王都に戻った翌日、ティアナの容体が急変した。王都に到着してからは、国王陛下が用意してくださった、王宮内にある客人用の部屋に泊まっていたが、そこにゲラルド・イーニッヒ将軍がその事を伝えにやってきた。



「ティアナ王妃がお呼びだ」


「おう。解った、今行くよ」


「剣は置いていってもらおう。念の為だ」



 普通なら従わない。剣は俺の一部だ。だが、このゲラルド・イーニッヒという男は、今回ティアナやアテナが襲われた事もあってか、細心の注意を怠らない。忠義の為には、何度でも命を捧げるモノノフという奴なのだろう。俺は二振りの剣をベルトから外して、部屋の片隅に立てかけた。


 ティアナのいる部屋に案内されると、アテナとセシル王もいた。そして、もう一人少女がいる。この子は、アテナの姉のモニカか。ティアナはベッドで横になっていて、こちらを振り向いた。



「ああ、来てくれたのね。色々とありがとう。ヘリオス。あなたに、もう一度ちゃんとお礼がいいたくて」


「ああ。解っている。それで……お礼の他に頼み事もあるんだろ? それも、解っている」



 ティアナ王妃に対しての言い方が気に喰わなかったのか、ゲラルドが何か言おうとした。それをセシル王が制した。



「アテナは、昔から好奇心旺盛で野山に行きたがっては、冒険やキャンプをしたがっていました。当然、一人ではそんな事は認められないので、アテナのあとをメイド達や警護の兵が追いかけるという毎日で……ゴホッゴホッ……」


「お母様!」



 アテナとモニカがティアナに寄り添う。ティアナは娘二人の髪を優しく撫でて微笑んだ。



「ヘリオス、お願い。アテナに冒険する事や、その冒険する為には何が必要な事があるか色々と、教えてあげて欲しいの」


「俺はキャンパーだ。教えられることと言えば、キャンプに旅に必要な事、それに剣の使い方くらいだぞ。それに、王女だろ? 王女がそんな事をしていていいのかよ?」



 すると、アテナが答えた。



「私は、世界を見てみたい。王宮の書庫でも色々な本を読んだよ。世界には、想像もつかない驚くような事が広がっているって。だから、私はそういったものを見てみたい。そして、強さを身に着けたい。皆を守れるような」


「それはなんとも、欲張りだな」



 ティアナは俺を見つめた。――――優しい瞳。



「国を統べる王族にとって、自分の目で世界を見るというのは、凄く大きな事だと思うの。アテナにとっても、この国の王女としてもそれは大きな力になると思う。でも世界は、美しく優しいだけじゃない。きっと危険な事や、色々な問題に遭遇する事だってあるかもしれない。だから……」



 なるほど。なんとも過保護な母親だ。俺は、ティアナの様子やその言葉を聞いて、ティアナがもう長くないのだろうと悟った。俺は、もうこの歳だが皮肉なことにティアナよりもまだまだ時間がある。


 ……あの森で出会って助けたのも、何かの縁なのかもしれない。



「あーーー解った。解ったよ! 1年だ。1年俺は、この王都でアテナの師匠になって色々叩き込んでやろう」


「やったーー!! ありがとう、師匠! お母様!」



 飛びついてきたアテナを、鬱陶しいと押しのける。するとアテナは、また飛びついてきて俺にしがみついた。まるで、スライムみたいな奴だな。


 話は終わり、俺は部屋を出た。すると、セシル王があとを追って出てきた。跪くと、セシル王はかまわないと言ったので立ち上がった。



「余からも礼を言いたい、ヘリオスよ。そしてゲラルドの事での謝罪も。ゲラルドは、最初そなた達を発見した時に、ティアナが下着姿な上に血まみれであった為、我を失ってお主に斬りかかったそうじゃ。許してくれ」


「いえ、もうかまいません。別に、そんな斬りかかられる事なんて冒険してりゃちょいちょいある事ですし」


「そうか、そう言ってもらえると助かる。それとな、アテナの師匠をしてくれるという件だがな、ついでにモニカにも稽古をつけてやって欲しい。あやつは、女だてらに男勝りな所があってな。剣に興味があるようじゃ。なので、稽古をつけてやってほしい。もちろん、報酬も応じて出すし、その間の生活も保障しよう」


「ありがたき幸せにございます。では、明日からでもモニカ様も、稽古をつけさせてもらいましょう。ただ、一つ条件があります」


「な……なんじゃ?」


「稽古は、王都近くの森で行います」


「なに? 王宮にも訓練場や訓練室があるが……も、森でか」


「はい。その間の王女二人の安全は、このヘリオス・フリートが絶対的に保障します。ですので、王女二人を森へ連れ出して修行させる事の許可を頂きたい。あと、そうですね。国王陛下は例外ですが、二人の可愛らしい王女はもちろんの事、他の者には無礼講でもよろしいでしょうか?」


「ふむ。無礼講か」


「はっ。なんせ、俺は面倒くさがり屋なもんで。それに何年も旅する毎日で魔物や賊の相手ばかりしてますから、畏まって話すとか、苦手なんですよ」



 セシル王は、大笑いして頷いた。


 こうして、アテナとモニカ。二人の王女の師匠として、俺は色々な事を教え叩きこんだ。


 アテナは、ドルガンド帝国に襲撃された時に、ティアナの怪我をどうにかできなかった事をずっと悔いている様子だった。再び同じような事態に遭遇しても皆を救えるようにと、王宮にいる時は、爺と呼んでいる者に魔法を習っているようだった。回復魔法のヒーリングは、真っ先に覚えてみせた。


 モニカの方は、まるでスポンジのように教えた事をすぐに吸収した。しかも剣の才能に溢れていて、異常なまでの凄まじいスピードで上達していっていた。







 ――――それから半年程して、ティアナが亡くなった。皆に見送られ、実に安らかな死であった。


 でもそのティアナが亡くなった日の夜、俺は浴びる程に酒を飲んだ。安らかな死なんてあってたまるか。なんだそりゃ!! ティアナは死ぬにはまだ、早すぎる。若すぎるんだ。なぜ、こんな歳喰った俺よりも先にいっちますんだ。全くもって、納得がいかない。俺はセシル王のようにティアナの死を受け入れる事ができなかった。


 ティアナの死因は、ドルガンド帝国に襲撃されて負った傷も原因の一つであったかもしれないが、もともと病弱な体質で、こうなるかもしれない事は、医者や神官からセシル王とティアナ本人には以前から知らされていたようで、最後はその運命を覚悟していたようだった。


 ティアナの死からアテナは1週間程、自室から出てこなくなった。再び自室の扉を開いて俺に会いにきた時は、パンパンに目をはらしてはいたが、以前よりも大人びた表情になっていた。


 ティアナ王妃の訃報が全土に知られると、その隙をついてかドルガンド帝国が再びクラインベルト王国の国境付近を荒らし始めた。セシル王はゲラルド・イーニッヒに5000の兵を預け、迎撃に向かわせた。


 ゲラルドは、見事に帝国軍を撃破して帰国したがすぐに将軍の位を辞退し、国王陛下直轄の近衛兵隊長に志願した。ティアナや、アテナが襲撃された事。誘拐されそうになった事。それがセシル王にも起こりうるという事に気づいたゲラルドの判断の結果なのだろう。





「師匠! おはようございます!!」


「おはようございます」


「おう! 二人とも来たか。じゃあ、修行に行くか。だが、今日は森に1泊するからな。二人とも、着替えとかテントとか必要な物を用意しろ。いいか、メイドには頼らずに、全て自分で準備してみるんだぞ!」



 アテナとモニカは、元気一杯に『はいっ! 師匠!』とこたえた。




 ティアナ、見ているか? おまえの娘たちは、強く育っているぞ。


 俺は心の中でそう呟いた。




読者 様


当作品を読んで頂きましてありがとうございます。

評価、ブクマ、イイねを付けて下さいました方々には、

重ねてお礼を申し上げます。

ありがとうございます。

物凄く嬉しいですし、凄まじく励みになっております。

本当です!(; ・`д・´)


それで当作品ですが、このお話で2章外伝の方も完結となりました。

ここまで読んで下さった方々には、本当に感謝しております。


次回からも引き続き、物語(3章)を頑張って書いて参りますので、

これからもご贔屓の程、よろしくお願い致します。m('◇')m


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