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第1288話 『こちらにおわす御方』



 この部屋に入ってきたミルトにも、イーサンと一緒に話を聞いてもらった。


 私達がなぜ、このメルクト共和国へ……そして交易都市リベラルまでやってきたのかを話した。


 私の長い旅の全ては、クラインベルトの王宮で一緒にメイドをしていた同僚、シャノンから始まった。彼女の計画。それに乗せられて騙され、私はクラインベルト第三王女のルーニ様を誘拐する手助けをしてしまった。


 そうなるとは知らなかった。でもそれは、全て私の言い訳……結果的には、ルーニ様は『闇夜の群狼』に誘拐されてしまい、その依頼主であるドルガンド帝国まで連れて行かれてしまったのだから。


 私は事の大きさに気づいて、セシル陛下にも、近衛隊長のゲラルド・イーニッヒ様にも必死で何度も許しを請うた。頭を地面に擦り付けて謝罪し、やってしまった事の後悔と……その後、自分がどんな裁きを受けるのかを考え、恐怖して失禁までしてしまった事もあった……


 あの頃の私は最悪だった。自分の事だけを考え、全てを恐れていた。本当に怖い思いをしているのは、私ではなくルーニ様だったのに。


 幼い時にフォクス村で、ドルガンド兵に拷問さながらの事をされ、惨めな姿を妹にも晒してしまった。


 だから……だからそれが、深い心の傷となって、ルーニ様が悪い人達に攫われて、怖い思いをしているというのにもかかわらず、あの時の私は自分の保身ばかりを考えていた。


 私は利用されただけ。私も被害者。ルーニ様と同じく、罠に突き落とされた可哀想な人なのだと。


 陛下は大切な娘が攫われたというのに、国王として平然としておられた。でも本当は、これ以上無い程に、内心取り乱しておられたはずなのに。


 ゲラルド様は、そんな自分の事ばかり考えて、頭の中ではどうにか許されようと考えてばかりいた私の事を責めた。ここにいるセシリアもそう。最初は私の事を知って、軽蔑した目で見ていた。


 ……でもルーニ様を救出する為に城を出て、色々な人と出会い……様々な事を学んだり行く手に現れる敵や魔物と戦ったり。セシリアにも多くの大事な事を教わって、私は私なりに成長できたと思う。その結果もある。私とセシリアと、ここにはいないけれど大切な私達の仲間のマリン……皆でルーニ様を無事に救出する事ができた。


 そしてその時に、ルーニ様と一緒にドルガンド帝国のトゥターン砦で牢に入れられて、囚われていた子供達。皆、奴隷として売り飛ばされた子達。その子供達も助ける事ができ、その中にいたリア・オールヴィーという少女と知り合い、盗賊達に悲惨な目に合わされたカルミア村の事も知った。


 クラインベル王国では、王都やカルミア村だけでなく、ルーニ様を誘拐した『闇夜の群狼』という巨大犯罪組織が全土で蔓延っている。その犯罪組織は、奴隷売買に違法な物の密売、麻薬の精製から販売に至るまでを行い、更には暗殺、強盗、誘拐とあらゆる犯罪に手を染める集団だった。私はそれを知って、彼ら無法者をこのまま放ってはおけないと思った。


 そんな組織があるから、ルーニ様は誘拐されて怖い思いをした。リアは両親を殺され、住んでいたカルミア村を焼き払われた。私の大切な友達だったシャノンは、そんなものに心を捕らわれて蝕まれた。


 メルクト共和国がもし『狼』の手に落ちれば、それはもう国家レベルで大変な事になってしまう。この国と交易都市リベラルは、賊の吹き溜まりとなる。暮らしている良民はきっと、酷い目に合わされる。


 私は、ルーニ様の誘拐事件をきっかけに、この犯罪組織を絶対に許さないと誓った。だから一歩も引かない。『闇夜の群狼』を完全に壊滅させるまで、私は一歩も引かないって決めたから。


 その私のこれまでの経緯と断固たる想いを、イーサンとミルトに全て話して聞かせた。そう言えば、もう一人……デプス市長も部屋にいたので、彼も静かに私の話に耳を傾けてくれていた。



「そ、そうなんだ。それだけの為に君は……」


「イーサン。それだけの為にとあなたは言いますが、イーサンだってあの奴隷にされた子供達を見たら……そして無残に殺された人達を目にしたら、私と同じ思いを持つはずです。こんな犯罪組織があるなんて、私はこれまでずっと知りませんでした。こんなにも大きな組織なのに……でも知ったのなら、放ってはおけません。メルクト共和国が盗賊達に乗っ取られかけて窮地に陥っているのに、このまま放ってはおけるはずがないんです!!」



 ミルトは腕を組み、眉間に皺を寄せて唸るように言った。



「わ、悪いがテトラちゃん。メルクトはもう終わりだ。首都グーリエは陥落している。あそこはもう賊のたまり場になっていて、その波紋は直に国全体へ広がって行くだろう。僕達十三商人は、その波がリベラルを吞み込まないように、これからなんとか手を考えなくちゃならない」


「いえ、メルクト共和国はまだ終わっていません」


「いや……悪いけど誰の目にも、もうメルクトは終わったって見えている。なのになぜ、テトラちゃんはそう言い切れるんだい?」


「だから、まだ終わっていないからです」


「そう言える根拠は?」



 ミルトの問い。イーサンも皆も、私がどう答えるのかを見ている。だけどこの質問には、セシリアが代わりに答えた。



「フフ、そうね。わざわざテトラが言わなくたって、私は解っているわ。でも他の人達は解っていないみたいだから、代わりに言ってあげるけど……ハッキリ言って、あの『闇夜の群狼』という組織は、弱い者苛めがとても大好きな人達の集まりなのよ」


「よ、弱い者虐めが大好きな人達……⁉」



 セシリアの言葉を聞いて、ミルト、イーサン、デプス市長の3人は驚いている。『闇夜の群狼』は、ヨルメニア大陸全土に分布して活動する巨大犯罪組織。なのに、まるで単なる虐めっ子のように言われて、急に小さな存在に思えてくる。



「そうよ。だってその通りでしょ。良民ばかりを虐めている輩なのだから。力があるなら、ドルガンド帝国にでも喧嘩を売ればいいのよ。それにテトラが言ったように、メルクトはまだ大丈夫だわ。国の基盤になるのは民よ。その民がまだ滅んでいないのなら、希望はあるはずだから」


「そうです。首都グーリエが陥落しても、そこではまだきっと、私達の仲間が諦めずに戦ってくれているはずです。クラインベルトからここまで、一緒に旅をしてきた仲間達です。とても強い人達です。それにコルネウス執政官もそうです。彼もまだ生きています。だったら、諦めるのはまだ早いんじゃないでしょうか」



 イーサンは、私とセシリアの話を聞いた後に、ローザとシェルミーの意見も伺う姿勢を見せた。



「私は誇り高きディフェイン家の騎士だ。そして偉大なるセシル王と、美しく聡明な第二王女アテナ様の剣であり盾でもある。アテナ様は、前王妃のティアナ様のように美しく、慈愛に満ち溢れた正義のお方だ。ならばアテナ様の剣である私も、当然そうなる事を望む。悪がそこにいて、そこで蔓延っているならそれを斬り、助けを求める者がいるなら全力で助ける。それこそが、我がクラインベルト王国の国王直轄『青い薔薇の騎士団』だ」


「フフフ、なんともローザらしいわね。なら私も言わざるを得ないかな。デプス市長はもう知っているけれど、私とファーレは豪商の娘なんかじゃないの。実は、ガンロック王国の王女なんだ。これでもね」



 ついに2人にも正体を明かしてしまった。この真実には、流石のミルトとイーサンも驚いて、暫く言葉を失った。そしてデプス市長に「冗談だろ」と求めたが、市長は大きく顔を振って「本当の事だ。こちらにおわす御方は、まぎれもなくガンロック王国第一王女のミシェル王女殿下であらせられる」と断言した。

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