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第1286話 『イーサン・ローグの世界 その8』



「僕はね、薬物中毒者(ジャンキー)なんだ」



 イーサンの言葉……


 それを聞いた私は、とても驚いてしまった。今、この倉庫部屋に集まっている全員……ミルトは既にその事を知っていたみたいだけれど、他の皆は明らかに驚いている。


 でも私は、なぜイーサンがその事を秘密にし、私に知られたくなかったのか、理解が追いついてなかった。私は助けを求めるように、セシリアに聞いてみた。



「あの……セシリア」


「なにかしら?」


「イーサンが、今言った事なんですけど……」


「そうね、驚いたわね」


「私も驚きましたけど、でも……それってどういう事なんでしょうか? イーサンが保存食って……それって、ひょっとして人間ではないって事なんですか?」


「は?」


「いえ、もしかしてトロルとかオークとか、そういう狂暴な恐ろしい魔物に攫われて、保存食にされかけたトラウマみたいなものがあるという事なら、少しは理解できるかもなんですが……」


「あなたはいったい、何を言っているの?」



 私の考えを聞いて、セシリアはポカンとした顔をした。あれ? 何かおかしい?


 シェルミーやローザ、デプス市長にも視線を送ったけれど、セシリアにとても似た反応をしている。あれ? あれれ? 私が何かおかしいの?


 …………暫し、沈黙。


 そしてその沈黙を、セシリアが破った。ばっと素早く動いて、両手で私の胸を正面から鷲掴みにしてきたのだ。私は、いきなりの事で対応ができなかった。するとセシリアは、とても冷めた声で、「それはジャーキー!! ビーフジャーキーとかでしょ!!」と叫んだ。



「え? でも今、イーサンは自分の事を確かにジャーキーだって言ったから……」


 ギュウウウッ!!


「いたたたた!! やめて、セシリア!! 痛いから、やめてー!!」


「イーサンは、ジャンキーって言ったのよ!! ジャンキー!! それをどうすれば、ジャーキーって聞き間違えるのかしら? ジャーキー、なにそれ? ビーフジャーキーとかのこと? 酒のおつまみ? 違う、ジャンキーって、言ったのよおおお!!!!」


「ぎゃああああ!!!!」



 セシリアは、私の両胸を鷲掴みにした所から、乳首を思い切り抓った。とうぜん私は、喉が張り裂けそうな位の勢いで叫んで、その場にのたうった。うつ伏せになっても、セシリアは後ろから抱き着いて、中々離してくれずに30回はごめんなさいって大声で謝った。そうするとセシリアは、とても満足そうな顔をしてやっとやめてくれた。


 顔が引きつったまま、ローザとシェルミーの方を見ると苦笑いをされた。そしてデプス市長。ミルトとイーサンは、なぜか顔を真っ赤にしていたので、私自身もとても恥ずかしいものを見られてしまった気持ちになって俯いてしまった。



 ガチャッ!!


「どうしました? 今、悲鳴が聞こえたようですけど、何かあったのですか?」


「あははー、なにもないよん! 大丈夫大丈夫」



 私の悲鳴に驚いて、会議室にいたファーレがこの部屋へ様子を見にきた。シェルミーは、にっこり笑って大丈夫だと言うと、ファーレは狐につままれたような顔で退室して、また会議室へと戻った。


 それでふと思った。狐につままれたというか……狐がつままれた……なんて事を思ったけれど、それを言うとまたセシリアが何かしてくると思って、言葉をごくりと呑み込んだ。うう……つままれた所が、じんじんして痛い。セシリアは、とんでもない所にとんでもない事をする。


 信じられない事をするなとセシリアを睨んでささやかな抵抗を見せていると、彼女はもう私からイーサンの方に意識を向いていた。ううーー。



「イーサン、話を続けてもらえるかしら? 自分はジャンキーだって私達に告白したって事は、とうぜん全てを話すつもりでいるって事でいいのよね?」


「そ、そうだ、いい。話すよ。全て話すつもりだ。さっき言った通り、ぼぼ、僕はジャンキーなんだ」


「正確じゃない。ジャンキーだった……だろ?」



 ミルトが口を挟む。



「いい、今もだよ」


「今は、もうやっていないだろ」


「そ、それでも、後遺症を抑える為の、く、薬を飲んでいる」


「薬?」


「ぼ、僕は薬物中毒者だ。そ、それもかなり重度のね。でもこのままじゃ、駄目になるのは解っているし、ぼぼ、僕は薬をやめる努力をした。それで、今はそれを抑える薬を飲んでいる……でで、でもそれもまた劇薬で副作用とかが……」


「も、もしかして……もしかして、イーサンはその薬を服用しているから……」



 はっとした。身体に電撃が、走り抜けたような感覚。そうか、だからイーサンは……



「心と記憶の世界に入った時に、どこもかしこも全てを覆っていた緑の霧。あれは確かに薬品の臭いがしました。もしかして、その使っている薬が影響して、あんなに霧がかかっていたのではないですか?」



 イーサンは、頷いている。そうだ。それなら、説明はつくかもしれない。でもあの緑色の霧の正体が判明したからと言っても、私は薬に関しても魔術のようなものに関しても素人なので、皆に意見を求めるしかない。これからどうすればいいのか……するとシェルミーが言った。



「イーサンの心と記憶の世界に入ったテトラ達の話と、イーサンの今の話。確かに合点がいくし、説明がつく。なら、どうしようか? 例えば緑の霧、それがそのイーサンが服用している薬の効力だとして、それを抑える事はできるのかな?」


「か、可能だと思う。ぼぼ、僕は早く、中毒から抜け出したかった。だから劇薬を使っているけど、その劇薬を調合して作ったのは、ほ、他でもない。ぼぼ、僕自身だ」


「イーサンが?」


「ぼぼ、僕は薬屋だ。そして薬師でもある。薬や薬草、キノコ、薬を作るための知識も豊富にある。だ、だから今服用している薬の効果を……一時的にでも弱める事はできる……と思う」



 飲まないという手も……そう考えたけれど、思い直した。イーサンは、自分の事を薬物中毒者だと言った。しかも、重度の……


 劇薬と呼ぶくらいの薬を今は飲んでいるのだから、もしそれをいきなりやめたら、禁断症状のようなとてつもない苦痛が彼を襲うかもしれない。


 でもその薬の効果を弱める事ができれば、薬の服用をやめないであの緑色の霧をもう少し弱められるか、完全にとり払う事ができるかもしれない。

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